▼あらすじ
オペラ歌手を目指して海外留学した与那覇凛は、己の才能に絶望した時にエリアスと出会う。
貴族で実業家の彼は凛を一流のアーティストにし、2人は恋人となる。
独特の倫理観を持つエリアスには恋人が複数いて、同性の伴侶までいる。
自分だけを愛してほしいが口にできない凛は、歌えなくなったらエリアスに捨てられると思い込み……。
不器用な男たちが繰り広げる十年に渡る純愛!!
***
ストーリーの完全度:★★★★☆
シリアス度:★★★★★
あまあま度:★★★☆☆
エロ度:★★☆☆☆
萌え度:★★★★☆
総合評価:★4.0
小中大豆先生の作品は前回読んだ『呪禁師百鬼静の誘惑』がめちゃくちゃ面白かったので今回も期待していたのですが、やっぱり面白かった!!
でも感想に困るな〜…っていうのが正直なところ。いや、面白かったですし、読み応えもバッチリでエロよりもストーリー重視派な私にはまさにうってつけの作品ではあったのですが、ちょっと読んでて気になる点もあったんですよね。
まず、というか大体が凛(受)が原因なんですが。
最初は大人しいイメージで、純粋で健気なキャラなのかな〜と思いきや、エリアス(攻)と出会ってから結構キャラが変わっちゃって。
個人的には最初の儚げで奥手な感じの凛が好きだったのに、エリアスと出会って以降、妙に肝が座って大胆なキャラになってしまったのは物語の都合上、仕方ないとはいえ少し残念だったかな。
それに凛のエリアスに対する依存&執着っぷりが読んでいてちょっと気になってしまって。
歌う理由も途中から歌が好きだからとかじゃなくて一番は恋人の為、恋人に捨てられない為、みたいな不純な感じになってしまって、そこは“歌う事が何よりも好き!”っていう確固たる信念があって欲しかったなって思いました。
なので凛には歌に対するプロ意識や情熱があまり感じられなかったし、個人的にはエリアスと別れてからも歌う事だけは捨てずに縋り付いて欲しかったと思いました。
(それこそ、場末のバーで歌い続けていた方がまだ好感が持てたかもしれません。)
あと、出会った当初からエリアスは自分が恋愛に適さない不誠実な男である事を凛にきちんと話していて、凛自身もそれを承知で、何なら「愛人でもいい」くらいの事を言ってたのに、実際に付き合ったらまるでその言葉をすっかり忘れたように振る舞うのでその辺も少しうーん…って思いましたね。
そりゃあ、いくら愛人でもいいと言っても凛も心を持った人間ですから、実際に恋人の不誠実な部分を目の当たりにすれば動揺もするし不満も出るでしょうが、それにしたってねぇ…。
あとがきで小中先生が「凛はヤンデレ」って言ってたのがストンと腑に落ちたんですが、まさにその通りで、ちょっと重いんですよね、凛って。それに加えて少々子供っぽいですし、決して恋愛上手なスマートな男ではないんですよ。
正直、この作品は攻めよりも受けの方を好きになれるかなれないかで評価が変わってくると思います。
私は何だかんだ言っても凛のキャラクターは別に嫌いではないですし、多少行動や言動に問題があっても気持ちの描写が丁寧だったので共感出来る部分もあり、物語としては十分楽しめる範囲内でした。
あとはエリアスですが、今まで数多くの恋人を取っ替え引っ替えしてきた彼が何故、凛にだけ強く惹かれたのか。凛と過ごしている内に…というだけではフワッとしていて微妙に納得しづらいので、もう少し納得出来るだけの材料がほしかったなと思いました。
まぁ、それを言ったら凛も一目惚れに近く、エリアスと寝るのも恋人同士になるのも早かったので引っ掛かるといえば引っ掛かるのですが…(^^;)
でも私的には凛よりもエリアスの気持ちの変化の方が気になったかな。エリアスの方が癖が強い分、どうして?何故?という気持ちが大きかったです。
エリアスは確かに不誠実な男でしたが、嫌な男ではなかった(寧ろ紳士的で私は好き)のと、凛を失って心身共に弱った姿が最初に出会った頃のエリアスと比べると嘘のようでそのギャップに少しときめきを感じました。
一方通行の恋にすれ違い、そして別れと辛く切ないシーンが続く作品なので読んでて鬱々とした気分にはなりますが、最後は吃驚するくらい穏やかで平和なハッピーエンドなので、ホッとしました。
エロはかなりあっさりテイストですが、ここまで読み応えのあるストーリーだと、エロはあれくらいあっさりでも全然問題ないと思いますし、寧ろ私はエロはあれくらいあっさりしていた方が好きかも?と思いました。
yoco先生のイラストも作品の雰囲気に合っていると思いますし(表紙はちょっとダーク過ぎかな?笑)、小説を読むのはかなり久々だったのですが途中で飽きる事なく、一気読みするくらい面白かったので個人的には満足の一冊です。やっぱり小中大豆先生の作品は安定しているなと思いました(^^)