〈方法〉としての思想史 (法蔵館文庫)

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  • 法蔵館
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784831826220

作品紹介・あらすじ

いまこそ、歴史学にもっと論争を!

「民衆思想史」研究によって学界に大きな足跡を残した安丸良夫は、それまでの歴史学界や当時の日本社会といかに対峙し、そこからいかなる思想史を構想しようとしていたのか。

自身の研究や経験を回顧・省察した方法論的論考を中心に収め、その思想的格闘の軌跡を示す。

歴史学の有用性が問われつつある現代に、あらためて読まれるべき名著が待望の文庫化。解説=谷川 穣

※本書は1996年5月に校倉書房より刊行された書籍の文庫版です。

【目 次】
はしがき
第Ⅰ部 方法への模索
 一 日本マルクス主義と歴史学
 二 方法規定としての思想史
 三 『明治精神史』の構想力
 四 「民衆思想史」の立場
 五 思想史研究の立場―方法論的検討をかねて―
 六 前近代の民衆像
 七 民衆史の課題について―井上幸治『近代史像の模索』・林英夫『絶望的近代の民衆像』を読む―
 八 史料に問われて
 九 文化の戦場としての民俗

第Ⅱ部 状況への発言
 十 日本史研究にもっと論争を!
 十一 歴史研究と現代日本との対話―「働きすぎ」社会を手がかりに―
 十二 日本の近代化についての帝国主義的歴史観
 十三 反動イデオロギーの現段階―歴史観を中心に―
 十四 近世思想史研究と教科書裁判―原告側補佐人として出廷して―

解説 『〈方法〉としての思想史』を読む、それぞれの意味
(谷川 穣)

感想・レビュー・書評

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  • 『日本の近代化と民衆思想』、『神々の明治維新』、『出口なお』などで知られる歴史家・安丸良夫による論文集。方法論や現代社会批判が中心で、結構難しい内容が多い。

    そんななかで面白かったのが、梅棹忠夫の歴史観(近代化論)への批判。1960年前後、梅棹は高度成長を通じて個々人の生活が豊かになりつつあった事実から、日本の近代化を高く評価するようになったのだが(「文明の生態史観」はその代表作)、個人の生活次元に密着しすぎることで見落とすものもあるというのが安丸の主張。「個人生活をその内部に含みこみながらも、しかし個人生活とは独自に展開してゆかざるをえない全体社会の構造、矛盾」への視点を見失ってしまうから。実際、梅棹の理解では、日本の戦争は一時的な「谷間」に過ぎなくなっていて、この「谷間」を捉えようとする意識がないというのが、安丸の批判である。

    梅棹をいくつか読んできた私にも腑に落ちる指摘だったし、当時の多くの歴史家が軽視していた梅棹たちの近代化論を直視・批判することによって、安丸独自の歴史観が創り出されたことも窺える。

  •  民衆思想史の名著と名高い『日本の近代化と民衆思想』著者による、主として方法論に関する論考をまとめたもの。
     まずは「はしがき」において、著者自ら自身の研究の軌跡を振り返りつつ、本書全体の見取り図を簡潔に示してくれる。「歴史家とは、史料と「事実」とを特定の場における時代性とのかかわりで理解・解釈する立場を選んだ者と考える」
     収録されている文章は、1960年代のものから90年代にまで亘っている。 
     色川大吉の『明治精神史』が数編の論考で紹介され論じられているが、作品の画期的性格、生き生きとした叙述の素晴らしさを率直に評価しつつ、方法論に特異な性格を見出だしている。
     第四章の「『民衆思想史』の立場」は、著者の"通俗道徳"論に対する批判を受けての反批判なので、著者の方法論的立場が鮮明に分かる文章となっている。

     第十二章「日本の近代化についての帝国主義的歴史観」、第十三章「反動イデオロギーの現段階」は、「近代化論」に対する批判の言である。戦後歴史学の主流であった講座派マルクス主義=戦後歴史学に対抗する形で、近代化論が日本の論壇を覆い始めた。高度成長という時代もあり、日本の近代化に対する肯定的評価が出てきた。それらの見解のバックボーンとして、圧倒的影響力を持ったのがロストウやライシャワーであり、彼らの論におけるアメリカ帝国主義のイデオロギー性を、著者は鋭く剔抉する。
     この辺りについては時代を感じるが、著者はソ連崩壊もあった30年後の単行本化での〈追記〉として、「この小論でとりあげられているような近代化論が一方的に勝利すれば、それは人類にとってもっとも悲惨な結果をもたらすだろうと考える点では、いまの私もたいして変りばえしていない」と言う。その矜持が素晴らしい。

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著者プロフィール

一橋大学名誉教授・故人

「2019年 『民衆宗教論 宗教的主体化とは何か』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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