公共経営論

著者 :
  • 木鐸社
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  • Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784833224246

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  • ◎信州大学附属図書館OPACのリンクはこちら:
    https://www-lib.shinshu-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BB01263108

  • 「公共経営」の本質について、民間経営との相違を強調しながら、包括的に描いた1冊です。
    様々な分野の知見を汲み入れた根源的な考察に、著者独特の文体もあいまって、本書は公共経営「哲学」とも呼べる内容となっており、大変読み応えがありました。

    著者は、「公共」の意味するところについて、多様性に開かれた、場としての「公共空間」と、その空間がカオスに至ることを防ぐ、理念としての「公共性」とに、区別します。そして、公共空間でパワー・ポリティクスを行使する主体を「公共の組織(NPOや一部企業など)」、ルールによって公共性を体現する主体を「公共のための組織(政府)」とそれぞれ名付け、両者の活動目的を「公共圏」の発展、デモクラシーの保護にあるとします。
    これらの位置づけからもわかるように、本書の最大の特徴は、公共のための組織による「公共経営」が、理念としての倫理的価値を伴った上で、パワー・ポリティクスの調整を必要性とする側面を強調する点にあります。

    著者によれば、この「パワー・ポリティクス」は、公共部門においては組織外から組織内に持ち込まれ、組織目標などの一体性を不安定にする要因となります。そして、行政が直接的にパワー・ポリティクスの影響を受けることは不可避であり、その意味で公務員は政治的判断をも担うポリティカル・マネージャーである必要があります。この点は、著者による、政治と行政の分離を志向するNPM改革の限界への指摘とも共通するところです。
    これら「政治」との関係性をどう捉えるかという視点は、マニフェストや行政評価の取り扱いにも関わる、ビュロクラシーとデモクラシーの調整の問題として、民間経営と相違する公共経営の中核的課題と言えるでしょう。

    NPM改革の限界としては、著者は組織内部のパワー・ポリティクスへの配慮に欠けていたこと、下部組織の裁量拡大による監視コストの増大などに触れており、その結果、徐々に中央集権化がもたらされたことを指摘しています。また、別の角度からの批判としては、NPM手法が、多様な組織環境への配慮に欠如していることにも言及しています。
    この辺りは、民間経営と比較しても環境からの制約が強い公共組織の特徴として、本書で一貫して扱われるテーマの1つとして見ることができます。

    また、本書の結論としては、公共のための組織は分野横断的に企画立案を行う「政策官庁化」を志向する必要があり、そのためには人材が高度な専門スキルと倫理性を確保できるような人的資源管理が重要であることが述べられ、本書を終えます。

    以上が本書の主な論点ですが、内容は全体として抽象的であり、膨大な数の外国の理論を紹介してくれています。
    400Pとやや重めの文量に加え、著者の文体に慣れるのには少し時間がかかりますが、公共経営の問題を一段掘り下げて考えるための手助けをしてくれる本として、この分野に関心のある方には文句なくお勧めできる一冊です。

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著者プロフィール

愛知学院大学教授、京都大学名誉教授

「2015年 『公共マネジメント』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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