ニルスのふしぎな旅〈下〉 (福音館古典童話シリーズ 40)

  • 福音館書店
4.29
  • (25)
  • (12)
  • (11)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 186
感想 : 23
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (533ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784834022742

作品紹介・あらすじ

スウェーデンの空の旅をつづけていくうちに、ニルスは「ふしぎな、すばらしい」経験を数多く積んでいきます。そして、今ではなにか困ったことが起こると、仲間から相談されるほどになっています。「ガチョウの面倒をよくみたら、ニルスは家に帰れて…」とフクロウが話しているのを立ち聞きしたことがありますが、ニルスが人間にもどるには、さらに厳しい試練が待っていたのです。今、新訳によって鮮やかに甦る「ふしぎな、すばらしい」冒険物語。1931年版の原書の緻密で美しい挿絵を160枚再現。小学校上級以上。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • スウェーデンの地図を見ながら、時に画像を検索したりして少しずつ読むのがなかなか楽しく、他の本と並行しながら2週間ほどニルスと旅をしてきました。

    この本は、もとはといえば、セルマ・ラーゲルレーヴさんが、スウェーデンの子どもたちのために、地理の読本教材として依頼され書かれたものなのだということも、今回初めて知りました。
    それにしても、やっとライト兄弟が有人飛行に成功したばかりというこの時代に(初版1906年)モルテンの背中に乗って地上をチェックの布地と表現するのです!素晴らしい想像力だなあと感心せずにはいられません。

    旅の途中に、それぞれの土地のエピソードが描かれますが、歴史的な背景もあったりして昔話のようにとても面白く、ニルスはそこで出会った動物たちを助けるようになって行きます。まあ、いい子にならないと、トムテにもとの人間に戻してもらえないかもしれないという強迫観念もどこかにあったけど。

    貧しいガチョウ番仲間のマッツとオーサのお話にはどこか郷愁をそそられましたし、
    ガンたちをしつこく追いかけてくるキツネのスミッレとのお話もドキドキの展開。

    特に好きだったお話は、9章のカールスクローナ。軍港の町カールスクローナで、銅像の王様(カール11世)に追いかけられるニルスが、提督教会の守り主、木の銅像ローセンボムに助けられるという、ユーモラスにこの町が表現されていました。造船所の模型の挿絵がとっても美しかったなぁ。

    29章のダール川 にも唸りました。ちいさな川が、道を進んで川を広げてゆく様子が擬人化され、物語になっていて、まさに楽しく地理が学べるおはなしでした。

    旅を続けていく中で、モルテンとの友情が深まり、ガンの長、アッカからも信頼されるようになっていくニルスのぼうけん物語ですが、一番感じたのは、スウェーデンの人たちの自然を大切にする心持ち。環境について当時からいち早く眼を向けていたことに驚かされました。

    アッカのこのセリフは忘れられません。

    「いいかね、おまえがわたしたちといっしょにいて学んだことがあるとすれば、人間はこの世に人間だけで暮らしているのではないということだろう。人間は広い土地を持っているのだから、自然の岩礁、浅瀬の沼、湿地、未開の山、人里は慣れた森を、わたしたちのような貧しい生き物が安心して暮らせるように、少しくらい残してくれても良いと思うのだ。若いころから、わたしは追われてばかりだった。わたしのような者にも安心してすごせる場所が必要だということを、知っていてほしいのだよ」

    2週間も旅を共にしてきたので、ラストは本当に胸に迫り、しくしくと泣いてしまいました。

    もしかしたら、説教臭くなってしまったかもしれないお話を、冒険物語を通して楽しく描くという、スウェーデンの人なら誰でも知っていて大好きだという、
    やはり珠玉の名作なのですねぇ。

  • 子供たちがスウェーデンの地理について楽しく学べる本を、ということで生まれた本書。
    美しい自然描写や土地の人々の口から語られる伝説や民話だけでなく、ニルスの内面的な成長も描かれる物語は、すっかり子供たちの心をとらえたことでしょう。

    見返しの地図でニルスの現在地を確認しながら読み進めていきました。
    地図がついていると冒険物語のわくわく感がぐぐっと高まるのは、小さい頃でも今でも変わらないなぁと改めて実感。
    この長い旅の中で印象的な出来事はいろいろありましたが、ニルスと旅を共にしたガンたちとの別れのシーンがひと際長い余韻を残していきました。

    物語を楽しみつつ日本縦断できるような、日本版『ニルスの不思議な旅』みたいな本があったらいいなぁと思います。
    そんな本に子供のころに出会えていたら、もっと地理が好きになっていたかも…。

  • ニルスのお母さん、お父さんに心配されてて、自分が幸せ者だってこと、気づけたかな。

  • すばらしいー。スウェーデンという国の成り立ちを、神話(おとぎ話)から知った。森と湖と岩山でできてるのね。スウェーデンの子供向け地理歴史フィクションとして作られたというのも頷ける。鉱山の描写が多いのも印象的。

    そしてニルスの成長が!もう!ダメっぷりから最後の葛藤まで、頼もしくて辛かった-。ゴルゴと隊長の関係修復のシーンはニヤリ。

    ところでアッカ隊長が100歳越えというのは誤訳でなくてマジですか。

  • ニルス面白かったよ。うむ。
    新訳だそうで、旧訳版は読んだことないです。

    「ニルスは変わった少年でした。誰のことも好きにはなれなかったからです。」――みたいな文言がすらっと入ってて、おおう、と思った。
    グーです。

    しかしなにぶん、スウェーデンのことはフィヨルドくらいしかわからない(ひどいな)ので、地図を眺めながら想像です。
    そもそもの書かれた経緯と少し違い、純粋に物語世界を楽しむ…。なんなら全くの異世界だと思って読んでいましたが、おもしろかった。
    ニルスの物語の本筋とは関係なく、スウェーデンのなりたちばなしみたいなのも合間に挿入されていましたが、しつこくなく、説教臭くなく、昔話をきくように読めました。
    本筋では冒険は進んでいるので、そのペースがつかめてくると、「だからなにさ」みたいなもやもやも、なかったなあ。
    鳥やそのほかの動物たちの声の掛け合いも、繰り返しで正解。
    キツネのスミッレはどうなったのか。これはまあ、少し気になります。殺されちゃったのか。


    宮崎・高畑アニメがあったのだったかしら。
    ちょっとみてみたいな。

  • ニルスの成長、スウェーデンの土地たち、歴史。人類が進化していくにつれて破壊されていく自然の中で暮らす鳥たちの気持ち。物語の発端が教育であったことに納得した。壮大な旅の余韻にまだ浸っていたい。

  • 妖精(小人のトムテ)をからかった結果、ニルス・ホルゲションは小人にされてしまう。そして渡り鳥のガンの群れと共にスウェーデン北部ラップランドに旅立つ。ニルスはガチョウのモルテンの背に乗って空をゆく。

    終章「 55章 ガンたちとの別れ 」が胸に迫る。どれだけ感動的かというと映画『銀河鉄道999』のラスト、メーテルと鉄郎の別れと旅立ちのシーンくらい感動的である。ニルスも、成長と共に別れが訪れるのだった。

    さて。
    以下の一節が『ニルスのふしぎな旅』を象徴していると思う。

    「 …ぼくの国スウェーデンって、本当にすごいね。どこへ行っても、人が生きていける糧があるんだもの」( 41章)

    『ニルス…』ははじめから国民学校の子供達のための副読本の役割を期待されて書かれたという。ニルスの旅を通して、スウェーデンの各地の地理(自然地誌や産業)を学べるようになっている。さらには、各地の“建国神話”(天地創造や大地が創建された神話)が挿入されている。地理の副読本で尚且つスウェーデンの建国叙事詩のような印象も受けた。

    本作『ニルス…』は1906年刊行。19世紀末から20世紀初頭にかけて、児童向けに啓蒙の意図で書かれた作品が多かったようだ。『ニルス…』と同様悪ガキが成長してゆく『ピノッキオ』(1883年刊)、『ニルス…』同様に国民国家尊崇の眼差しが濃厚な『クオーレ』(1886年刊)。ニルスは旅の道行きで、動物たちや人間の種々の物語りを聴くことになるのだが、これもまた『クオーレ』の「 今月のお話 」に似ている。
    というわけで『ニルス…』はこれらの児童文学に連なるものを感じた。( 辛口な言い方をするなら近代国家の気配を感じさせる嫌らしさ、である。 )
    ( 因みに『君たちはどう生きるか』は少し後代で1937年刊。)

    作者セルマ・ラーゲルレーヴは、ノーベル文学賞作家だそうだ。

  • ニルスはスウェーデンの空の旅をして様々な不思議で素晴らしい経験をしていき、そんな中で試練に立ち向かう話がかかれている。

全23件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

セルマ・ラーゲルレーヴ 原作者/セルマ・ラーゲルレーヴスウェーデンの女性作家。教職についたあと作家活動に専念し、『ニルスのふしぎな旅』のほか、小説やキリスト教寓話集など数多くの作品を残しています。1909年に、女性初かつスウェーデン人初のノーベル文学賞を受賞。晩年には女性の参政権実現のため尽力しました。

「2013年 『巨人と勇士トール』 で使われていた紹介文から引用しています。」

セルマ・ラーゲルレーヴの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×