デクリネゾン

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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784834253610

感想・レビュー・書評

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  • 興味深く読んだが、主人公には全く共感できず、やたら読み終わるのに時間がかかった。

  • デクリネゾンとはフランス料理で使われる『1つの食材をさまざまな調理法で仕上げること』といった意味合いの専門用語。

    小説家の志絵を軸に1人娘、2人の元夫、20年下の大学生の現恋人との関係性とその変化を、コロナ禍の時代背景を交えながら描いている。

    中学生の娘を既に持つ志絵の恋愛に対する果敢な姿勢は、非常に強い欲望に突き動かされているように一見思える。しかしその時々での男との恋愛、そして衝突や別れを淡々とした語り口で描いていることから、あまり強い衝動は感じなかった。

    志絵の感情や共感力が薄いわけではなく、自分が他者に感じる愛に対して正直な行動を重ねていった結果とも言えると感じた。

  • 不穏が平穏に。
    家族観や女性観が緩やかに溶かされ、温かい陽光を感じながらナプキンで口を拭う。

    本作のテーブルには食欲を掻き立てる風味絶佳の料理が並び、同時にその食卓には志絵のSignificant other達が座る。最初はそこに不穏さを感じた。とんでもない、恋愛体質で子を蔑ろにし、「彼氏」や「デート」に興じていると。彼女は私と違ってそういうことができる可塑性に満ちたところに居る作家さん、なんだと。
    しかし挟まれる和香やひかりとの飲み会の相伴に預かり、理子や蒼葉との気の置けないやり取りを見るにつけ、彼女が祈りにも近い切実さで人と共にあることが分かってくる。胸の中の強烈な悲鳴、暴れ出しそうな獣。それを収めてくれる絶対的な存在としての他者。

    「青春の続き」を思い出してしまった。
    ------
    「己自身のだめ生きるだけって
    もうしんどいの
    期待も落胆も知れている」
    溜め込んだ愛は過飽和中
    行き場のない危ういこの心身を
    強く深く重く組み敷いて押さえて
    陶酔させてほしい
    嗚呼 貴方を掴んでいられたら
    ずっと安心
    ------

    そうして自分自身にも嵌められた桎梏に自覚的になると、小説はヒーリング的な意味合いを持ち始め、ああ長編で良かったな、まだ終わらない。と思った。

    そもそも「デート」とか「彼氏」みたいな言葉がよくわかんない色に錆びて、何も意味をなしていない日本語なのかもしれない。

    彼女の連載テーマとストーリーが連動している仕掛けも良い。メッセージがくっきりと伝わり、心の置き場が定まる。「小説に求めるべき価値は、社会的正当性のない言葉をいかに伝えられるか」とエンドースされ、気持ち良くフィクションに「誑かされる」のだ。それは「騙されるよりも甘く、欺かれるよりも怪しい」

    最後には彼女はコロナの息苦しさから解放されたような世界で、緩やかに自立する。その澄んだ呼吸音が聞こえるかのよう。
    「私は戻ってきた」かー…自分は女としてそこに達していないから、行かないで、と思ってしまったのだけれど。

  • 生牡蠣、バトミントン、ストロング缶。
    文藝の私小説にも書いてあったけど、金原さんって言ったらコレなのかな?

    食べ物が沢山登場するのにあえてなのか描写が細かくないからか、全然美味しそうに思えないのもお腹いっぱいにならなくてよかった。

    恋愛はしたいけど娘はそばにいて欲しい。
    結婚におそらくは向いてないんだろうけど今度こそはと何度も結婚する。
    変わって欲しいけど変わって欲しくない。
    ネットでしか教養を深めようとしない若者を懸念しつつも、あまりにも思考しすぎてしまう自分自身にも嫌気がさす。

    全てに共感は出来なかったけど、人間が誰しも抱える矛盾の描写がある度に志絵、私自身の考える幸せとは何なんであろうか?と考えた。

    結局は、裕福な暮らしや順風満帆な結婚生活とかではなく食べたい時に好きなものを食べたり、年末の大掃除は窓の枠の角のカビを落とさなきゃ、とかそんなたわいも無い小さい箱に入れてしまえるような出来事の積み重ねなのかなとも思った。

  • ■漠然と感じていた感覚を言語化してくれた共感しかない作品

    ○好きな相手を尊いものとしておきたい
    自分も付き合っても会う頻度は高めたくないし、その相手といる時間は楽しく過ごすための時間だから、不要にぶつからないようにしてきた。
    それは裏返すと「相手を全部受け入れたい」みたいな感覚とは正反対で、相手を都合よく尊いものとしておきたいから、自分の認識を違えるようなシチュエーションにおきたくなくて、頻度を制限していたように思う。勝手で理解されない感覚(人に話すと引かれる)だけど、言語化されていることで腑に落ちた。

    ○人との深い関わりは「抗体」にも「ウィルス」にもなりうる
    「人との思い出は一生もの」みたいな考え好きじゃないし、どうせ別れるなら一緒では?みたいな感覚も持っていたけど、別れる=失うではないなと確認できた。
    シーンによってはその関わりが自分を強化してくれるし、反対に責めてくることもあるが、どちらにせよ消えてない。

    ○子どもという共依存関係
    子どもができる=自分の一部(マインドシェア、時間、お金、人間関係諸々)を明け渡すある種分身を作る行為と思っていたが、それは一定期間のことなのかな、とも思うようにになった。

    最初は絶対的に君臨する理不尽な守るべき存在として大半のリソースを割くけど、その後自分が大切にしていた自分が一部戻ってくる。

    戻ってくる頃にはかけがえのない存在となっていて、その相手に対し自分が各ターニングポイントに関われること自体が幸せと思える。

    本作では失って「口出しできていた」「その素直な反応を見られていた」ことの幸せに気づいていたが、そういった尊さを忘れずに接したいと思う(子供できたら)

  • 家族のカタチって こんなふうに変化していくものなのかもしれない
    元夫2人 夫1人 娘1人
    時系列を超えた関係性

    勝手な話 そこに親が介入してこない生活が羨ましすぎる

    ─「人間関係はワクチンみたいなもの。ワクチンにならずに、ただのウイルスとして自分に過剰反応を起こさせるものもある。ずっと慣れ親しんできた家族でも、唐突にアナフィラキシーを起こして駄目になることもある。」─

    今の自分の置かれている状況がまさにそう
    コロナよりもしんどいのは家族関係

  • ダラダラと、惰性で続けてる恋愛みたいな、なんかすごく読んでて疲れた。特に大きな何かがあるわけではなく、コロナ禍の日常で結婚離婚と繰り返したり、不倫が日常だったり、ずっと恋愛要素で。
    確かに母親と恋愛は相性悪いな。理子ってすごくすごくいい子に育ってるし、結婚離婚と繰り返しても元夫たちとうまくやってけてるのもすごい。結婚へのハードルが高くないってなんかいいな、いいなとは思うけど憧れたりもしないけども。

  • アタラクシア以来の金原ひとみ作品。期待していた人間の内面ドロドロは今回は、そこまでの吐露は感じられなかった。
    タイトルのデクリネゾンは余すことなく、やフルコース的な意味合いらしい。驚くべきは、金原さんの料理に対する知見で、どちらか言えばイタリアン、フレンチ、メキシカン、インド系に寄りつつも凄い。
    コロナ禍に於ける、人と人の関係性、距離感、新しい生活様式の中繰り広げられる、人間ドラマであるが、ストーリーよりも作者の言葉、そして人生哲学に惹かれ、少しずつ少しずつ読みました。また、別の作品も読みたい。

  • 自分が面白いと思う小説には2種類あって、ストーリーが気になって一気読みしてしまう小説と、登場人物の会話や独白に惹き込まれる小説。金原ひとみはまさに後者だと思う。

    主人公はバツ2で作家の志絵。作者自身を投影してるような部分もあって興味深かった。元夫や娘の理子、恋人で大学生の蒼葉。コロナ禍、蒼葉と同居することになり、入れ代わりに理子は元夫宅へ出ていく。

    多様な価値観とか家族観とか、これだけいわれていながら、相変わらず母親には母親らしさが求められ、そこはなかなか寛容にならない。志絵は母親よりも女性の幸せを選択し(たように見える)、それを全面的に肯定したラストは、個人的には良かったと思うのだけど、批判されないような周到な表現だな、と感じるところもあった。

    作中でフェミニズム系の映画を志絵たちが批評する場面が出てくるが、この小説への批評を先んじて並べておいたのかとさえ思った。

    あまりにもいい子な理子との理想的な母子関係、父子関係など、少し絵空事のように思えるところもある。

    これまでの作者のヒリヒリするような痛々しい作風と比較すると毒や刺激は少なめだが、世間がコロナにどれほど振り回されていたか、描写がリアルでまざまざと思い出される。

    家族や編集者たち、作家仲間との会食など、食べたり飲んだりの場面が多く、どれも本当に美味しそうだった。

  • 「腹を空かせた勇者ども」の裏表になっている作品だと、何かのインタビューで見た記憶があって、こちらの本を読んでみた。
    女性小説家で2度の離婚を経たシンママが大学生の男の子と恋愛して……という筋書きで、合間合間に繁華街のスペインバルちっくなお店の料理の描写が差し込まれる。

    なぜだか分からないけれど興味を持続することができずに半分読んだところで挫折してしまった。多分、小説家という職業に就いてるし、2回は結婚してるし、娘は理解あるし、小説家の友達はいるし、元夫は育児に協力的だし、年若い男の子から崇拝のような眼差しを向けられてるし、「まあ、じゃあ、いいんじゃない?」と思ってしまったからなのかも…

    とくに気になった一文はあった。こういう表現は心地が良い。

    ーーー
    "和香の不倫もきっとそれと一緒で、一人の男を知っていく、とことんまで深く入り込んで愛し愛され、これから食される牛や豚のように喉元から肛門まで互いをナイフで切り裂き内臓を表出させ内臓同士を擦り合わせたり裂け目に顔を埋めたりするような恋愛をして互いを遮る皮膚の存在をすっかり忘れた頃、彼女は彼に纏わる小説を何本か書き上げ、もう彼から得られる栄養素がないことを知り、小説を書くため新しい恋愛を探し求める。"
    ーーー

    また気が向いたら続きを読むかもしれない。

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著者プロフィール

1983年東京都生まれ。2004年にデビュー作『蛇にピアス』で芥川賞を受賞。著書に『AMEBIC』『マザーズ』『アンソーシャルディスタンス』『ミーツ・ザ・ワールド』『デクリネゾン』等。

「2023年 『腹を空かせた勇者ども』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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