- Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
- / ISBN・EAN: 9784835442693
感想・レビュー・書評
-
佐々木丸美さんは,青春時代に夢中になって読んだ作家さんです。
一つ一つの物語は独立していますが,大きな関連性を持っています。
作者が途中で筆を折られたのが残念でなりません。
いつ読んでも新たな発見が得られる,私にとって宝物のような小説です。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
なんだか難しい文体に、じっとりと心情が描かれてます。
けっこう重いのだけど、勢いで読んでしまう一冊。 -
★祐也さんそのものが大きな運命のように思えてしかたがなかった。(p.35)
▶他者を傷つけることによって愉しみを得るような一家に引き取られた飛鳥は優しい青年、祐也に保護され育てられ幸福になりかかったが殺人事件が起こり容疑者となってしまったりつねに自分の内部に抱え込んでしまい勝手に暴走したりする性質のせいでなかなかうまく進めない。▶『ビブリア古書堂』で出てきてちょっと興味をひかれたので読んでみました。その紹介から凪良ゆうさんの『流浪の月』をイメージしていましたがあれより鬱陶しさははるかに強いです。瀬尾まいこさんの『そして、バトンは渡された』要素もありつつ、『源氏物語』でもあるかもしれません。▶かならずしも鬱陶しい系小説を苦にはしませんがここまでやとさすがに読むのがキツかったのです。▶セリフまわしなどは古い感じでちょっと味があったりします。
■簡単なメモ
【一行目】大通り公園で迷子になったのは五歳の時だった。
【飛鳥】倉折飛鳥(くらおり・あすか)。主人公の語り手。孤児であすなろ学園で育てられた後、本岡家に引き取られるがあまりにもひどい扱いに逃げ出し祐也に救われた。メロンが好きでコンニャク系は吐くほど苦手。何でも内に隠してしまうタイプなので周囲は苦労させられる。順子いわく《あなたが誰かを好きになったらきっとめんどうな方向に走ってしまう。》p.205。本人いわく《困ったことがあっても人に打ち明けてみようとはまるで考えつかない。決して信頼してないわけじゃないのに。私に親がいても同じだと思う。一度つき当たると誰の顔も思い出せない。私一人なの。どうしようもないのよ》p.217
【あすなろ学園】飛鳥が育った施設。
【厚子】森谷厚子。アパートの祐也の部屋の斜向かいに引っ越してきた美人。東邦産業に勤めている。最初に会ったとき二十二歳。
【アパート】祐也と飛鳥が暮らすアパート。東邦産業系列の独身寮も兼ねているので住民は皆東邦産業の関係者。
【一月】《だから私は一月でいいんだ。》p.44
【おじさん】祐也の住むアパートの管理人。優しい。《人は流れるものだ》p.263
【久保田】中学校でのクラスメートで委員長。
【幸福】《もし可能ならばこの瞬間が、瞬間ではなく停止してしまえばいい。私はこのままが一番幸せなのだ。時間は人間を成長させる。成長は新しい生活を循環させる。私は新しい生活など欲しくない》p.97
【順子】中原順子。中学校でのクラスメート。毅然としていてリーダーシップと頭の回転の鋭さを持つ。飛鳥とは親友と言える関係となる。父親は銀行勤め。
【史郎/しろう】近端史郎(おうはた・しろう)。祐也の友人。偉そうで飛鳥は最初ちょっと怖がっていたがじきになつき飛鳥たちの暮らしの潤滑剤となった。《史郎さんのまわりにはいつだってマツユキ草が咲いていた。》p.182
【津田礼子】祐也の知人のようだ。飛鳥の幸福を壊す使者のように思われた。客観的には悪人ではなくキッチリした人のようだ。ただ祐也と結婚したいと考えているようでもある。幼馴染みかなにかかもしれない。
【東邦産業】飛鳥が引き取られた本岡が重役を務めており飛鳥にとってはトラウマレベルの会社名。じつはアパートが東邦産業系列の独身寮も兼ねているので祐也も含め住民皆が関係していた。
【遠北】アパートの住人。高校から東邦産業までずっと山野といっしょ。
【トキ】滝杷祐也のとこに来る家政婦で二日に一度来る五十歳くらいの色白のおばさん。戦争で夫を喪い一人娘は滝川に嫁いだので一人暮らししている。何事につけ祐也優先に物事を考える。
【西岡】道警の刑事。四十歳前後で威圧感がある。
【祐也/ひろや】滝杷祐也(たきえ・ひろや)。飛鳥を助けてくれたお兄さん。優しそう。その後親代わりとなる。《祐也さんそのものが大きな運命のように思えてしかたがなかった。》p.35。東邦産業系列の北一商事勤務。
【法律】飛鳥いわく《どの法律にも大事な条項が抜けているのではないかしら》p.252。《罪に値する表面的な行為だけを細かく明文化しているけど、罪を犯すまでの心のやりとりには少しも触れていないわ。》《そこまで心理的に追いつめる者にも明文化があっていいはずだわ》p.253
【負け】厚子いわく《どうせ私をいじめるんだ勝手にしろ、って思えば飛鳥ちゃんの負け。戦うよりも仲良くする道をさがすのが賢明よ。》p.219
【本岡家/もとおかけ】小学一年生の飛鳥が引き取られた家。東邦産業の重役、剛造とその妻、大学生の聖子、飛鳥と同じ年の奈津子。 お手伝いの幸枝。なぜ孤児を引き取ろうとするのかは不明。他者を虐げることを行動原理とする一家で飛鳥にトラウマを植えつけた。孤児を引き取り好きに扱うことで自分たちの優位性、存在価値を確認したかったのかもしれない。あるいは単純にいじめるのが趣味の一家だったのかもしれない。
【本岡聖子】本岡家の娘。飛鳥が引き取られたとき大学生。後に祐也と飛鳥が暮らすアパートに入居してきた。
【本岡奈津子】本岡家の娘。飛鳥と同年齢。飛鳥の人生にとって暗い傷となった。
【山野】アパートの住人。高校から東邦産業までずっと遠北といっしょ。
【雪】《雪は、すべてのものの始めではないだろうか? 白い色はどんな色にも染められる。冷たさは暖めることも、それ以下に冷やすことも出来る。小さなひとひらは油断していると、どんどん何でも隠してしまう。》p.43
【由紀】あすなろ学園で飛鳥を慕ってくれていた年下の女の子。後に本岡家に引き取られやはりひどい目にあうが《まだ誰も憎んではいない。失望しているだけだ。》p.128。飛鳥よりタフなタイプだった。 -
2018.06.04 朝活読書サロンで紹介を受ける。
-
ビブリア古書堂の事件簿の最新刊の一章が、佐々木丸美「雪の断章」にまつわる話だったので、二十年ぶりに手に取る。人物からストーリー運び、結末まできれいに忘れていて、新鮮な気持ちで楽しめた...楽しめすぎて、24時から朝方までページを繰る手を止められず。ビブリア古書堂でも触れられていた瑕疵...ご都合主義や警察の捜査が実際より甘く感じられることなど、ぶっとばす勢いだった。孤児として本岡家に引き取られた飛鳥は、人を人とも思わない扱いに耐えかね出奔、通りかかった以前助けられた祐也に育てられることに。同年輩の史郎とともに。聡明な順子という友人もでき、成長していく飛鳥だが、心の底に意固地に、孤児ゆえにわかってもらえないという思いが横たわり、時に周囲と軋轢をうむことも。そして全編を暗く貫く事件が起き...最後は...と。その一言を仇に言わなければ全てうまくいったのに、それを言わずにいられないのが飛鳥、ということか。そして祐也の「こわがらないで言ってごらん、どうしてもお前の方から言わなくてはならないのだ」にこめられた思いの深さが印象に。
-
図書館
孤児だった主人公は、里親の家でシンデレラよろしくこき使われる。
家を飛び出した先で、昔一度だけ会ったことのある名前も知らない男性に拾われ育てらる...
2人の男性から大切にされてる主人公は、
かなり我が強い印象。
恋愛モノとして読みつつ、ミステリー系でもあった。昼ドラぽい。 -
主人公は好きになれないけど、友だちの順子や、厚子、史郎さん、管理人のおじさんなど、周りの人々がとても魅力的でした。「森は生きている」が土台にあるのも良かったです。大好きな人は1月の精。最初から最後まで、切なくも美しい雪景色でした。
-
「森は生きている」を重奏低音のように.孤児の飛鳥が祐也と出会って生きて行く.無慈悲な権力の権化としての本岡家の存在が,少しご都合主義的ではあるが,祐也の親友史郎の存在や飛鳥の親友順子の関わりが真摯で誠実でとても好ましかった.最後はハッピーエンドだと思いたい.