小さな男 * 静かな声

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  • マガジンハウス
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  • Amazon.co.jp ・本 (364ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784838719303

感想・レビュー・書評

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  • 年を重ねていく事に、知識はどんどん増えていき、
    この世の中にある謎がひとつ、またひとつと消えていく…。

    知り得る事は愉快だけれど、
    もっと謎が欲しい、もっとワクワク考えていたい!知識欲旺盛な人々は、
    足元が空っぽになると、つい(旅をしなくては!)と言う衝動に駆られがちである。

    だが、

    同様に知りたがり、考えたがりの小さな男の信条は旅立つ事には無かった様だ。

    むしろ、

    「旅は嫌いだ。
    私は買い物が好きなのだ♥
    街にしがみついた小さな店で
    こまごましたものを手にとって眺めるのが私の旅である。」

    キッパリとそう言い切って、

    シャツの事…
    葡萄の事…
    ノートについて、の話などをちまちまと語り続けるのだ。

    不思議なもので、そのちまちまを聞いているうちに、
    フッと心に浮かんだ言葉が

    『神は細部に宿る』であった。

    出向いた先にある、何かを求める事もロマンに満ち溢れていて、素敵であるが、
    そこにあるモノを自分が<面白い>に変える力。
    も、同じ位素敵だな~と、思った。

  • 百貨店の寝具売場に勤務しながら百科事典の執筆に勤しむ「小さな男」と自分の声を嫌いながらも日曜深夜の生番組を持つことになったラジオパーソナリティ「静かな声」が交互に登場し、語り手になる。とは言え、最近流行りの告白型ではなく、三人称での挿話もあり…正直前置きの長さやまわりくどさが退屈で、慣れるまでの50頁位は意地で読んでいた。

    無意識に「モウ、コンリンザイ」と唱えている静香や、四角い顔に西郷さんのような太い眉とそこだけ洋風めいた鳶色の目をして、並べられた三つのケーキを指差しながら「アンタッチャブル!」と語気を荒げて妻子を寄せつけない酉野氏、「あかり」を作って自転車で届けるシン、「ついに」と「遂に」について思い巡らしながら(ここはすごく共感した!)遅刻したことに焦る「小さな男」、ムンクの「叫び」のネクタイを締めた六人の男たち。

    このあたりがクスクスと妙にツボに入ってしまい、勢いで読み切った。言葉遊びと言うか、文章遊びの感覚は以前読んだ紺野キリフキさんの「キリハラキリコ」に似ているかもしれない。

    結局劇的な展開はないのだけれど、ささやかな日々のなかで、徐々にふたつの語り手は近づいていく。

    静香の赤の手帳と、ミヤトウさんの金の手帳のエピソードも良かった。落ち着かない色だからその存在を忘れずに活用できるのね。
    「コリゴリの煮こごり」の響きが気に入ってしまった。

    面白いか?と問われたら即答できないけど、読んで損したとは思わない。

  • ネットも携帯電話もない時代、テレビを部屋に持ってなかったあの頃、晩飯食って風呂は入った後の夜は、ラジオと本の時間だった。今よりもっと静かで濃密な時間だったように思う。ラジオもなく、電気も通ってなかった頃にはさらに濃密で深い夜だったんだろうけど、さすがにそこまでいくと夜味が濃すぎて俺には合わないかな。

    この本の主人公2人が織り成す物語には大きなドラマなんかはない、なのにとても濃密な時間を過ごしているんだろうなぁ、羨ましい限り。他愛もないけど毒がない話と静かな声を聞かせてくれるDJ、それを聴きつつ日曜日の新聞を読んだりこだわりの百科事典を編み続けるヘンコな男。2人の距離が近づいていく過程の時間経過が実にゆっくりしていて良い。合コンや出会い系や婚カツやそんなガチャではこういうの無理だろうな。リア充ってのは何も直接会える恋人がいる状態だけをさしているのではないんだなぁと。

    少しずつでも携帯やPCから離れる時間を拡げて行きたいと思った。一番思ったのはそこ。それと自転車のシーン、俺はクイーンが脳裏に響いたが・・・やっぱ、ガチャやな俺は。

  •  変な本だなあ。じれったい話だなあ、と思って読んでいるうちに、いつの間にか引き込まれてしまい、物語の一見ゆっくりしているようで実は早いスピード感に圧倒されてしまった。いや、圧倒されたというほどの迫力はないのだけど、気が付いたら余韻が残ってた、みたいな。
     タイトル通り、「小さな男」と「静かな声」の人間の話。どうでもよさそうなエピソードが「小さく」「静かに」積み重なりながら、そこに彼らを取り巻く環境のエッセンス-ラジオ、自転車、メモ帳、居酒屋、DVD…ありふれたアイテムが加わり、世界が広がっていく展開が面白い。まるで積み上げられた像のように、その様が読者の脳裏に浮かび上がる。
     読み終わったあとも、積み上げられ完成した物語が、それぞれの読者の思いも加わって、それぞれの形で生き残っているような心地良い錯覚に浸れる、不思議で楽しい小説。

  • いやぁ、何だかやっとゴールに辿り着いた感じ。私にしては珍しくなかなか読み進められなかった。
    図書館で三回も借り直し…

    百貨店に勤める小さい男とラジオのパーソナリティーをしている静かな声の女性の話が交互に展開される。

    私はどちらの話にも出てくるミヤトウさんが好きになった。
    赤か金の手帳を買おうかなぁ。

    あと、静かな声と弟のやり取りも好き。
    お互いにお互いの仕事を「点燈夫」に例えるところ。


    読み終わる瞬間、なんか勿体無くなって、でも読み終わったら心がちょっと温かくなった。

  • 吉田さんの世界に没頭
    二人はいつ接点を持つか、がさしあたっての期待感だったが、
    これはこれでいいんじゃないか。
    良さが分かる人だけに分かってもらいたい。

  • 箴言が多い。ラストに向けて巧く最後は本当にキレイで唸らされた。

  • 時間との戦いという言葉、そこに突っ込んでいくところ面白いなと思った。
    「言い訳と理屈はほとんど同じもので、いずれにせよ潔くないものであることに変わりはない。」覚えておきたいと思った一文。

    ほうほう、と思ってしまうところがたくさんあった。最初の方はなかなか読み進まなかったが中盤からは面白いな〜って思いながら読んだり、フフッて笑って読み返したり。
    気難しい友達?こめんどくさい友達?でもできたかのような気持ちで読んだ。小さな男も静かな声もミヤトウさんもだいぶ好き。
    終わってしまって寂しい気持ちが大きいので、また吉田先生の本を探してみようと思う。
    小さな男の話の方がワクワクしてしまう自分がいた。そして2つが少しずつ交わる感じがたまらなくよかった。

    ☆2つと思いながらはじまり、3つだなと思っていたけど、読後感が良すぎて4にしてしまった。また読みたいというか、またこの世界に入りたい。

  • 読んでる途中。★5
    エンディングまで行くとどうかはわからないけれど
    途中まで読んでいて★5
    すこしづつ大事に読むつもり。

  • ちいさな男のはなしとラジオパーソナリティの静かな声のひとのはなしを交互に。彼らを結ぶ存在。
    寝る前にちょっとずつ読みすすめるとちょうどよさそうなはなし。

    C0093

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著者プロフィール

1962年、東京生まれ。小説を執筆しつつ、「クラフト・エヴィング商會」名義による著作、装丁の仕事を続けている。2001年講談社出版文化賞・ブックデザイン賞受賞。『つむじ風食堂とぼく』『雲と鉛筆』 (いずれもちくまプリマー新書)、『つむじ風食堂の夜』(ちくま文庫)、『それからはスープのことばかり考えて暮らした』『レインコートを着た犬』『モナリザの背中』(中公文庫)など著書多数。

「2022年 『物語のあるところ 月舟町ダイアローグ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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