パリ職業づくし 新装版: 中世から近代までの庶民生活誌

  • 論創社
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  • Amazon.co.jp ・本 (251ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784846001674

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  • バルザックの<人間喜劇>はもちろん、エミール・ゾラの<ルーゴン・マッカール双書>などにも多種多様な職業の人達が登場する。

    たとえば<ルーゴン・マッカール双書>の第7巻『居酒屋』の主人公のジェルヴェーズは、亭主にも逃げられ、ふたりの子をかかえて困窮した生活とたたかいながら懸命に生きていこうとする。
    彼女は、洗濯女として日々頑張って働き、自分の店を持つというと夢を持っていた。
    そんな彼女の日常に職人の男が現れる。真面目な仕事振りのその男とジェルヴェーズは再婚する。
    小金も貯まって念願の洗濯屋をオープンさせた彼女の人生はやっと順風満帆なものになるように思われたが、
    再婚相手は足に怪我をしてから仕事をしなくなり、数年前に出て行った亭主が転がり込んだり、羨望の眼差しを送っていた世間はたちまち冷たくなって繁盛していた洗濯屋は、アッという間に傾いていく。店も手放さなくならなかったジェルヴェーズは、酒びたりになって死んでしまう。
    ジェルヴェーズと再婚相手との間に生まれたのがナナで娼婦になり、このあたりは第9巻の『ナナ』に詳しいが、話を元に戻して、ジェルヴェーズの洗濯稼業は、現代のクリーニング屋に通じると予想されても労働の中身は時代を反映している。
    機械化が進んでいないジェルヴェーズの時代の洗濯稼業は、重い肉体労働であり、それでも自立しようと懸命な女の生き様が詳細に描かれている。

    古今東西、どの国でも多くの職業があり歩みがある。

    本書は、チェコ出身でフランスで多彩な文芸活動を行ったポール・ロレンツが監修した中世から近代までのパリの消滅もしくは衰退していった職業をまとめている。

    パリに限らず時代変化によってさまざまな職業が生まれ、先駆的であったはずの職業が消滅していく。
    日本でも昔はあったよね という職業もたくさん載っている。
    行商人、紙芝居屋、手作りおもちや屋、煙突掃除、糸紡ぎ女、乳母など懐かしそうな職業もずらりと並ぶが、パリ(またはヨーロッパ)特有の職業もある。

    一番面白かったのが、「ツケボクロ師」という職業で、黒い黒子は、肌の白さを引き立たせるという理由で16世紀末大ブレイク。ツケボクロ・ブームはヴェネツィアにはじまったらしいが、ヨーロッパ中に広がり18世紀まで続いたという。
    日本にもお歯黒なんていうのがあったが、このツケボクロ・ブームは聖職者にまで及んだという。
    黒子も単なる黒子ぽいものだけではなく、星形、ハート形、人物柄などさまざまな色や形のホクロがつけられたとか。

    ほか、写本師、蜜蝋燭師、鎖帷子&兜職人、薬草師、錬金術師、抜歯屋、泣き女、移動便器屋・・・

    王樣のおまる係と棉係なんていうのもある。

    先日、『トイレの文化史』という大矢タカヤスさん訳のパリのトイレの歴史の本を読みましたが、フランスという国は、トイレに関してひどく遅れていた様子がよくわかりました。
    ヴェルサイユ宮殿は、世界屈指の豪奢な宮殿ですが、トイレは造られていませんでした。
    お金持ちの貴族は綺麗な城が汚物でいっぱいになり住めなくなると自分のほかの領地の城にうつったといいます。

    そういうお国事情なので、「王樣のおまる係と棉係」は当時必須の職業で、この特権的職業に就くのは当然のごとく貴族。
    穴あき椅子を用意し片付ける係りと用を足したあとにワタを差し出す係りの二人一組が事に当たったという。
    ルイ16世治下からは大枚をはたいてこのポストを手に入れた平民がこの任務に就いたらしい。

F.クライン=ルブールの作品

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