数学が解き明かした物理の法則 (読んで楽しむ教科書)

  • ベレ出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (255ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784860640439

作品紹介・あらすじ

物理学の歴史に刻まれる大発見には常に、新たな数学が関係してきた。本書では、ニュートン力学、解析力学、相対性理論、量子力学という、いずれも「美しい」数学の言葉で書かれた物理の理論をとりあげている。説明にあたっては、専門書で隅から隅まで勉強していたら理解できるまでに何年もかかってしまう数学のエッセンスを、できるだけ平易に、かつ本質を省略せずに解説して、それが物理の法則を解き明かす面白さがわかるようにした。

感想・レビュー・書評

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  • 171021 中央図書館

  • ニュートンの『プリンキピア』まで遡って、ニュートン力学やケプラーの法則を見るのがこの本のひとつの目玉になっている。当時は天体の楕円軌道が重要な課題となっていたが、その説明には当時流率法という手法が用いられている。微分法による証明も書かれていたが、後になって分かった手法で問題を解くこととの違いがよくわかった。

    その他にも、変分法と解析力学、ガウス曲率/非ユークリッド幾何学や一般相対性理論、複素数と量子力学、という数学と物理学の幸福な関係が示される。微分積分とニュートン力学の関係ほどの蜜月ではないが、いずれも美しい関係だ。複素数と三角関数なんか久しぶりに見ても、なるほどってなる。量子力学との関係はここでいうほど強くはなさそうだけれど(量子力学の問題を解くのに複素数が発明されたわけでも、再発見されたわけでもない)。

    数式はさすがに付いていけないところも多かったが、興味がある人にはこれくらいの骨があるのもよいのでは。

  • 著者は東大卒で塾講師、大学講師の方々。初等的な数学でニュートン力学、相対性理論、量子力学まで解説する楽しい本。主に相対性理論のところを読みましたが、良かったです。一般相対性理論を、非ユークリッド幾何の話から初めとてもわかりやすく解説しています。ガウス曲率や、ガウス曲率が内在的であることを発見したガウスの驚異の定理の話もわかりやすく、微分幾何を学ぶ前にこうした本を読むと良いと思います。

  • 本書は、古典力学から量子力学に至るまでの内容を、それらを説明する主役としての数学的視点に立って、全体としては理系専攻の大学学部生に読みこなせるようなレベルで説明されている。ここで、全体としてと言ったのは、前半部分と後半部分で難易度に差があるからである。言うまでもないかもしれないが、近代科学黎明期として位置づけられる古典力学はガリレオガリレイ、ケプラーの時代からである。彼らの仕事は現代では高校生が学ぶ範疇の物理・数学でかなり理解が可能である。一方、最終章で取り上げられている量子力学は、誕生から今尚100年の経過を見ていない。一定の完成をみている古典力学よりも、さらに発展途上にある。この分野は大学基礎課程を上回る(3年目以降)レベルではじめて学ばれる世界といってもいいであろう。ゆえに、たとえ理工系専門でも、一部の人間を除いては理解に必要な背景知識が薄くなるのである。ただ、総論としては大学基礎課程の力学と解析を了解していれば、なんとか想像で間に合わせられる(ホントか?!)と思う。

     まずどのような数学が紹介されているか想像を容易にするために、目次の大分類を示そう。
     第一章 微分法が解き明かした運動の法則
     第二章 変分法が解き明かした運動の法則
     第三章 曲がった空間の幾何学が解き明かした相対性理論
     第四章 複素数が解き明かした量子力学

     第一章と第二章は、高卒程度の物理数学知識でかなり理解が可能である。というのは、文章で記述されている説明の切り口や引用される用語は大学レベルに達しているのであるが、説明に引用されているモデルが、常に「慣性系」「摩擦は考慮しない」「質点(質点系は登場しない)」で統一されているので、基本的に平易になっているからである。また、説明の切り口が大学レベルに達していることで逆に理解が容易(高校のように数学と物理を分離した状態のほうが説明に無理が生じる)になっている側面も見逃せない。著者がなるべく多くの読者に楽しんで読めるように、かつ本筋を外さないようにするための配慮であろう。一点だけいうと、第二章の「変分法」これは実は高校数学の範疇ではない。大学でも理系だから全員が学ぶというものでもない。しかし、一言でいえば、微分法の親戚みたいなところがあるから、微分法の意味するところを了解さえしていれば、変分法の意味は比較的容易に理解できるのである。

     第三章と第四章は、扱っているネタ自体が大学専門課程レベルになっているので、理系の一部の学生以外はほぼ背景知識がない話題であろう。しかし、第三章の相対性理論のほうは、それを解き明かした数学として登場するのが幾何学であるため、想像に訴える説明が数学の中では比較的容易なために、文章で(誤解が生じるのは目つむって)直感に訴えて理解するのがまだ易しい。

     さて、遅くなったが如何に数学が物理法則の謎の説明に大活躍したか、その一端を説明しよう。ただ、具体的な内容説明は本書に譲るとして(説明すると、とても数千文字レベルの書評では収まりません)本書の訴えかけたかったはずの要点を述べてみる。

     自然を支配する法則はいかに記述されるか? 「物理法則はどのように数学的に説明可能か」を言い換えるとこのようになるであろう。ここで一点注意しておきたいのは、「なぜそうなのか」と根本は問わないことである。なぜかわからないけど「このように説明したら、実際現象と無矛盾であるからこの説明方法は確からしいと言える」という姿勢が科学的に正解である。実際上の現象に数学的説明を当てはめてみて正しさを確認し、さらに当てはめられた数学的説明から演繹的に導出された結果も実際上の現象(物理現象)と例外なく合致していることが確認された時点で科学的説明としては完璧なのである。

     一般に、物理と数学は相補的である。ある物理現象から、「あれはどういうこと(数学的にどう記述できるのか)だ?!」→「数学技術が発展」という方向性があれば、「斬新な数学的テクニックが存在」→「このテクニックがあてはまるような物理現象は実際にはない、机上の空論である。」→「このテクニックで説明可能な物理現象の発見」という方向性もあるからである。まさに、数学は物理的な諸現象を記述する芸術品である。数学という体系化された全宇宙共通特殊言語を使って、あらゆる諸現象をスッキリと説明することの美を伝えるのが本書の第一義的な目的であったろうと思う。本書は読み物、もしくは物理数学教材の副読本的な色彩があるが、内容の厳密な理解には各論を専門に扱った書籍において、数式と本格的な会話が必要であることは論をまたない。

     第四章は著者もひょっとしたら不満が残っているのかも(想像だけど)しれないが、説明に部分部分に飛躍が感じられた(単に私の基礎知識がないだけか!)。というのも第四章の前半がほぼ複素関数と、それの極座標系を使用した表現の説明(おかげでかなり複素関数に関しては理解が進む)に費やされるが、後半になると怒濤のように物理現象の簡略的な説明が矢継ぎ早に並んでいるように感じられたからである。しかし、これは量子力学の発展途上性を暗に示唆しているのかもしれない(もっとスッキリとした単純で美しい新しい数学でもあれば、スッと読めるはず!)と、これまた飛躍して妄想した次第である。

     最後になるが、本書は物理と数学の切っても切り離せない関係性を実感できる書となるであろうことを付け加えて終わりとする。

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著者プロフィール

1957年生まれ。東京大学理学系大学院卒。現在は大学受験塾講師。専門は重力理論、量子論。

「2014年 『新・単位がわかると物理がわかる』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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