社会科学系 小論文のトレーニング

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  • Amazon.co.jp ・本
  • / ISBN・EAN: 9784860661656

感想・レビュー・書評

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  • 著者:吉岡友治
    編集協力:VOCABOW Think Tank
    装丁:ペドロ山下
    本文デザイン:長谷眞砂子
    分量:本体303+別冊39


    ・大学入試用小論文の参考書。
    ・参考書のまとめ。
    http://www20.atwiki.jp/zwiki/pages/173.html


    【簡易目次】
    本書を読むに当たって(吉岡友治) [003]
    本書の構成と使い方 [004-005]
    Contents [006-007]

    理論モデル1 データ図表問題の解法 009
    知識と解説 010
    問題と演習 016
    応用問題 028

    理論モデル2 消費社会と欲望 031
    知識と解説 032
    問題と演習 038
    応用問題 051

    理論モデル3 法と正義の限界 053
    知識と解説 054
    問題と演習 061
    応用問題 070

    理論モデル4 自由と競争 073
    知識と解説 074
    問題と演習 081
    応用問題 092

    理論モデル5 日本経済と豊かさ 097
    知識と解説 098
    問題と演習 104
    応用問題 117

    理論モデル6 環境問題のジレンマ 119
    知識と解説 120
    問題と演習 129
    応用問題 139

    理論モデル7 グローバル化の矛盾 143
    知識と解説 144
    問題と演習 152
    応用問題 161

    理論モデル8 組織と官僚制 169
    知識と解説 170
    問題と演習 176
    応用問題 186

    理論モデル9 隠された権力 189
    知識と解説 190
    問題と演習 198
    応用問題 210

    理論モデル10 メディアと情報社会 211
    知識と解説 212
    問題と演習 220
    応用問題 232

    理論モデル11 幻想としての国家と民族 237
    知識と解説 238
    問題と演習 245
    応用問題 258

    理論モデル12 労働と階層化 271
    知識と解説 272
    問題と演習 278
    応用問題 288

    補説 書き方のコツ 293



    【メモランダム】
     章扉ページのイントロ文言を集めました。各章のテーマを概観できるかもしれません。

    ――――――――――――
    1  図表問題は,社会科学系小論文でよく出題される問題形式だ。これを解くには,読解一解釈一提案・批判・予想という形式を使う。まず図表に書いてあるデータを簡単な文章に直し,どうしてそのようになっているか原因・背景を探求する。その分析に基づいて,提案や予想をするという順序である。この解釈のところで理論モデルが重要になるのだ。

    2  現代の大衆消費社会では,商品はモノとしての機能より,記号として消費されている。商品は購入者の個性や性格,生き方,考え方,とくに自分が属する集団の価値を反映している。したがって,自分より上の階級の所有する商品を持つことは,他者に対して「見せびらかし」の効果をもつことになる。この記号性が現代の消費の大きな特徴である。アメリカの経済学者ウェブレンは,今から100年前に現在の消費社会分析の基礎となる理論を発表した。

    3  法は正義を実行するための制度であって,積極的に善をなすためのものではない。正義とは「等しい者には等しいものを与える」で表される原理であり,人間を公平に扱うべきだという消極的な指針しか与えないからだ。この二つを混同するところに,法や秩序に関するさまざまな思いこみや混乱が生ずるのである。概念の混乱を整理して国家と個人の役割に明確な基礎を与えることができる。

    4  平等には「機会の平等」と「結果の平等」とがある。前者を重視するのが,資本主義・自由主義で,後者を重視するのが社会主義・福祉国家だ。しかしこの二つはどちらも欠点がある。前者は経済を活性化させるが,貧富の差を広げ,社会の結束を危機に陥れる。後者は官僚機構が肥大し,勤労意欲が枯渇する。どちらの方向をとるかは決着がつかないが,社会主義の失敗から現在は後者の旗色が悪い。

    5  失業率は賃金ではなく,総需要で決定されるとケインズは言う。経済は通常の状態なら価格で需給が調整できるが,恐慌などの異常事態のときは政府の積極的な介入が必要であるというのだ。その方法は,公共投資を主にしたマクロ経済政策だが,その限界も最近明らかになってきた。経済政策の特性とその効果を検証する。

    6  環境問題は重大な問題ではあるが,社会科学的に捉えれば,問題を冷静に分析して,そのメカニズムに合わせた対策を考えるのが必須の態度であろう。しかし,現在の環境論議はムードや政治的言説に頼り,データを正確に把握しないままの主張も増えている。どこに問題があるのかを冷静に見定め,対策を立てるなら十分効果があるものにすべきである。途上国と先進国の差,科学技術の発展などの面でもその肯定的側面も考慮すべきである。

    7  経済のグローバル化は,むしろ不平等・不均衡を拡大する。なぜなら,経済の中心でない地域は「遅れた部分」の役割を担わされ,経済を握っている覇権国に利用されるからだ。その過程で遅れた地域の産業は先進国の産業に駆逐され,覇権国に都合のよい産物だけを作る「途上国」となる。「途上国」は世界の経済システムの中で必然的に作られるのであり,近代産業を移植すれば発展できるわけではない。ウォーラースタインの世界システム論は,このメカニズムをあぶり出す。

    8  官僚制の問題は,個人の責任というより,官僚制が組織として形作られるプロセスにおいて必然的に起こる結果であることを忘れてはならない。官僚制は合理的・合法的支配を確立するために不可欠の道具なのだが,それが形式主義・セクショナリズム・ことなかれ主義・秘密主義などを必然的に生みだしてしまう。人間の自律・自発性を守るには,このような傾向をチェックする組織が必要なのだ。マックス・ウェーバーは現代の官僚制度を「死せる魂」の制度とよんでいる。

    9  権力とは,直接的な抑圧や暴力だけではない。むしろ,現代の権力は,教育と訓練,知識の独占による巧妙な支配のメカニズムだ。フーコーは刑務所の構造と学校や病院が同じ仕組みになっていると告発する。社会には有用という幻想を振りまきつつ,自ら監視する主体=人間を作り出すシステムなのだ。これは司祭=羊飼い権力とよばれる。このフーコーの発想は,現代の管理社会の問題を考えるときの重要なモデルになる。

    10  メディアはメッセージを届ける媒体だけではない。むしろ、メディアそのものがメッセージになっている。メディアのあり方が世界の関わり方・認識の仕方を規定しているのである。一方で、メディアをコントロールする者は強大な権力を握る。支配層のイデオロギーは、メディアを通して盛んに宣伝されるのだが、そうでない情報はメディアに載りにくいきらいがある。メディアの伝えることは、受け手の側が常に監視・批判していなければならない。

    11  国家や民族には,実体的な根拠はほとんどない,とイギリスの政治人類学者アンダーソンは言う。ナショナリズムとは,むしろ宗教・主観的な信条の一種であり,想像されたものにすぎない。国民は共通の記憶をもっていると感じるが,それも組織的な宣伝・教育によって育成されたものであり,地域的一体感が元になっている自然な感情ではない。国家・民族への幻想が強まる現在,そのからくりを解明するには必須の理論である。
    ――――――――――



    【課題文の出典】
    各章の「問題」「応用問題」の素材の一覧。出題形式は割愛しました。


    理論モデル1 データ図表問題の解法 009

    理論モデル2 消費社会と欲望 031 山田登世子『ファッションの技法』 塚原史『記号と反抗』

    理論モデル3 法と正義の限界 053 立石真也『弱くある自由へ』 長尾龍一『文学の中の法』

    理論モデル4 自由と競争 073 スティーヴン・ランズバーグ,斎藤秀正訳『フェアプレイの経済学』 (課題文A)竹中平蔵「『結果の平等に固執すれば社会の成長力は確実に失われる」; (課題文B)佐和隆光『市場主義の終焉』: (課題文C)佐藤俊樹『不平等社会日本』

    理論モデル5 日本経済と豊かさ 097 都留重人『経済の常識と非常識』 国士交通省『平成13年度 国士交通白書』の第3章「21世紀型国土交通行政への改革」第1節「公共事業改革」第1項「公共事業をめぐる様々な意見」 

    理論モデル6 環境問題のジレンマ 119 加藤尚武『二十一世紀のエチカ――応用倫理学のすすめ』 岩井克人「未来世代への責任」

    理論モデル7 グローバル化の矛盾 143 〔UNDP(国連開発計画)人間開発報告書l999「グローバリゼーションと人間開発』日本語版国際協力出版会 より〕 梅棹忠夫『二十一世紀の人類像』

    理論モデル8 組織と官僚制 169 カレル・ヴァン・ウォルフレン,藤井清美訳『日本という国をあなたのものにするために』 熊沢誠「会社人間の形成」,内橋克人ほか「日本会社原論3 会社人間の終焉』

    理論モデル9 隠された権力 189 西谷修『公共化する身体――臓器移植の開く地平』 野田又夫編『世界の名著32 カント』

    論モデル10 メディアと情報社会 211 〔資料1〕大岡信『クレー』; 〔資料2〕谷崎潤一郎
    『文章読本』; 〔資料3〕ヴィスワヴァ・シンボリスカ,工藤幸雄訳『橋の上の人たち』; 〔資料4〕ジーン・シーゲル編,木下哲夫訳『アートワーズ』 川上善郎「メディアリテラシーが作り出す『持てる者』と『持たざる者』」

    理論モデル11 幻想としての国家と民族 237 (資料A)藤原正彦『若き数学者のアメリカ』; (資料B)矢口祐『ハワイの歴史と文化――悲劇と誇りのモザイクの中で』 〔A〕J. G. フィヒテ,細見和之・上野成利[訳]『ドイツ国民に告ぐ』; 〔B〕E. ルナン,鵜飼哲訳『国民とは何か』; 〔C〕;B. アンダーソン,白石さや・白石隆訳『想像の共同体――ナショナリズムの起源と流行』

    理論モデル12 労働と階層化 271 上野千鶴子『サヨナラ,学校化社会』 佐藤俊樹「『新中間大衆』誕生から二○年――『がんばる」基盤の消滅」

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