あの湖のあの家におきたこと

  • クレヨンハウス
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  • Amazon.co.jp ・本 (41ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784861013867

作品紹介・あらすじ

その家を建てた作者の曽祖父一家はナチスに追われ、その後に住んだ音楽家一家も徴兵を逃れ家を出ます。戦後に暮らした家族は「ベルリンの壁」によって湖と隔てられ……。
ベルリンに実在する一軒の家の変遷から戦争、分断の歴史を見つめる物語。
この100年に起きたことを描いていますが、「昔あったこと」ではなく、世界中で分断が進むいま、同じことをくり返さないためにあらためて読みたい1冊。

感想・レビュー・書評

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  • 表紙画像を見て、何となく不穏な思いにかられる方も多いかと。
    雪に足を埋もれさせながら追われるように急ぐ家族。
    湖のほとりの家が彼らを見送る。
    これは100年前のドイツで本当にあった話だ。
    著者トーマス・ハーディングの曽祖父が、この家の最初の持ち主。
    夫妻と4人の子どもたちの家族で、週末ごとにこの家で過ごし豊かな時をおくってきた。
    1936年のある日、ゲシュタポにより家を取りあげられる。家族はユダヤ人だった。

    次々に4つの家族が逃れるようにこの家にやってくるが、社会情勢が長期滞在を許さない。
    音楽好きな一家の子どもたちは「ヒットラーユーゲント」に加わった。
    その次に住んだ家族は、ひと冬を過ごしただけ。
    1945年4月、ソビエト軍が湖のほとりの村を占領したのだ。
    戦後にやってきた家族の父親は、表向きの仕事とは別に近所の人を見張るスパイとして住みついた。やがて、家と湖との間に大きなコンクリートの壁が立ちはだかる。
    皆さんも知っている「ベルリンの壁」だ。
    1999年家族の父親が亡くなり、主を失った家は荒れ果てていく。
    そして2013年にこの家に訪れたのが著者である若者トーマスだった。。

    「家」を視点にして語られるお話というと「ちいさいおうち」を思い出すが、解説にも「もうひとつのちいさいおうち」と記されていた。
    住人との理不尽な別れを繰り返す家もまた、じっと被害に耐えてきたという視点が新鮮。
    出来事だけを語る淡々とした語り口がとても良い。
    戦争を描いた本は滅多に再読しないのだが、つい読み返して味わうことになった。

    美しい挿絵はブリッタ・テッケントラップ。
    いつもの可愛らしさはなりをひそめ、重厚な描き方だ。
    テキストとのマッチングが素晴らしく、ラストのあふれるような色彩にひとり音読しながら思わず安堵の涙がでた。

    大切なことを忘れないように、コロナ禍のさなかにこの本が出たと思いたい。
    日々のニュースで明日が見えない思いをしている今、心の余裕まで失わないように。
    自分の安全だけでなく多くの人の安全も同時に願わないとね。
    ちなみに「あの家」は今、地域の異文化交流の場として使用されているという。
    曽祖父の名前からとって「アレクサンダーハウス」と付けたらしい。
    一軒の家に起きた様々な歴史を著者が繋げた、しみじみと良い本。12月8日を選んで読んだ。
    読み聞かせ向きではない。どうしてもと言われるならせめて中学生以上かな。

  • ずっと昔に、優しい医者と明るい妻は湖のほとりに小さな木の家を建てた。4人の子どもたちと暮らすために。
    野菜を育て、鶏を飼って、湖で泳ぎ、夜は父親に暖炉のそばで読み聞かせをしてもらいました。
    家はとても幸せでしたが、ある日家族は兵隊に言われて出ていかなくてはいけなくなりました。
    その後、音楽家の家族が住みましたが、その一家も従軍命令を受け取ったときにそこから逃げました。
    戦闘機が上空を飛び、夜空がオレンジ色に染まっていきました。
    音楽家の友人夫婦がしばらくこの家に避難してきていましたが、煙突に玉が当たって砕けると逃げていきました。
    その後、あたたかそうな帽子をかぶった男が家族を連れてそこに住みました。家は修理され、子どもたちの笑い声が響きましたが、ある日、湖との間に塀が建てられたのです。

    第2次世界対戦前後の人々の暮らしを、曽祖父が建て祖母が暮らした「家」から見た物語。






    ******* ここからはネタバレ

    1927年に建てられた家が、100年近くも利用されていることに、日本人の私は驚かされます。
    だって、この家は木造だからです。日本の木造住宅の寿命は30年と言われていて、普通に建てられた家が100年持つことは非常に稀なんです。もちろん、高温多湿の気候の影響もあると思いますが、建て替えずに修理して使う文化の違いも大きいと感じました。

    こんな絵本ができるほど長寿の家があるんですねー。

    そして、そこに住んでいる人のことなんて全然考えず、公聴会も説明会も開かれずに「壁」ができたようすがよくわかります。
    絵から察するに、これで日当たりが悪くなったということはなさそうですが、湖の恩恵がなくなったというのは大きな負の変化ですよね。
    今ならはしごを掛けたりトンネルを掘ったりして出入りしてしまいそうですが、当時はそんな事もできなかったのでしょう。この辺の閉塞感についての描写が、当時を知らない読者のためにも望まれるところです。

    正直私は、この家にあまり感情移入できませんでした。事実ばかりが語られて、戦争で壊れたときでも、家の気持ちが綴られていなかったからかも知れません。
    察することが読者に求められていたのでしょうが、「ちいさいおうち」のように気持ちを語ってほしかった。どうしてほしいのかわからないのでモヤモヤしましたんです。

    さらに、なんか最後に家を直した著者が英雄的にも見えてしまって、何なのー?って気持ちにもなったんです(←私のやっかみ)。


    この本自体はむずかしくありませんが、含まれているものを理解するには歴史的な知識も必要です。せめて「壁」のことを知っている子にオススメしたいです。

  • 戦争さえなかったら、この家は、美しい湖の風景とともに住む人々の幸せな暮らしを見つめていられたのに。家は何も語りませんが、戦争のもたらす破壊、差別、戦後も続いた分断をすべて知っているのですね。

  • 家は幸せな一家にとって「魂の居場所」でした。
    しかし、第二次世界大戦をはじめとした戦争、迫害と差別、分断により、家はその場で愛と憎しみを見つめ続けます。「ナチス」「ベルリンの壁」がキーワードになります。
    やがて…教育やレクリエーションの場として生まれ変わっているそうです。
    湖の家がこれからもやすらぎの場所であるよう、私たちは歴史から学ばなければならないと思いました。

  • ブクログの、ひと様の本棚で知った本。
    最終ページに説明が載っているのでわかって良かったが、このページが無ければ事情がよくわからなかった。
    絵が、綺麗。

  • クレヨンハウスの良質な絵本にハマっている今日この頃。こちらはドイツの家がナチス、戦争とその後によって住み手を変えていく様を、不動の家の視点から描いた本。

    本の中には、住民の素性(ユダヤ人であるとか東ドイツの公務員であるとか)は詳しく書かれていないので、ただただ外部の力で人が追い払われたり入ってきたり、という様子が描かれるのだが、それが逆に人生が歴史や周囲の状況に蹂躙される様を淡々と描いている。

    漢字が多い(振り仮名なし)のと背景情報が複雑なので子供が一人で読むには難しいかもと思うが、解説しながら読んであげたい本。

  • ベルリン・ポツダム近郊の湖のほとりに、ユダヤ人医師(アルフレッド・アレクサンダ-)が、妻と4人の子どもたちのために建てた「あの家(現・アレクサンダ-ハウス)」の物語です。一家はナチスのユダヤ人迫害を逃れ、愛する家と思い出を残してロンドンに移住します。残された家には、ゲシュタポ、音楽好きなドイツ人一家、その友人夫婦、壁を監視する男たちが移り住みましたが、2013年にこの本の著者が修復するまで荒果てたままでした。あの家は、その時代に生きた人々の愛と苦難を見つめながら、湖のほとりで静かに佇んでいました。

  • 100年の間にこの家に何が起きていたのか、現代版「ちいさいおうち」。実話を元に作られた絵本。
    そして今も世界のあちこちで戦争や紛争が起きていて、犠牲者は一般人。特に女性とこども。というおなじみの景色。戦争で儲けている企業や団体がいて、煽ったり長引かせようとしているのではないか。誰が得をしているのか。先の大戦の教訓はどこに行ってしまったのかな。
    強欲で頭の固い、自己中心的な人が指導者って最低。


  • 作者のひいおじいさん夫婦が、ベルリンの町外れの湖のほとりに建てた木の家。家族は、湖とともに楽しく幸せに暮らしていたが、ユダヤ人家族はナチスによって、この家から追い出されてしまう。その後、何組もの家族がこの家と湖で暮らすが、ある年家と湖の間に塀が作られてしまう。やがて、塀は壊され自由に湖へ行けるようになるが、古くなった家には住む人が居なくなり、荒れ果てる。その家を作者が再生し、レクリエーションセンターとなった。
    ベルリン版「ちいさなおうち」みたいだ。

  • 6歳0ヶ月の娘に読み聞かせ

    これあとがきまで読んで
    ひとつのストーリーだ
    実話なんだ

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著者プロフィール

英国、ロンドンに生まれる。英米の大手新聞で執筆する作家でありジャーナリスト。英国のオックスフォードにテレビ局を設立し、数々のドキュメンタリーも制作。また、米国ウエストバージニア州の地方紙も運営し、2011年、同州司法協会からジャーナリストオブザイヤー賞受賞。この絵本の元になったノンフィクションは「コスタ賞」最終候補に。

「2020年 『あの湖のあの家におきたこと』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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