経済成長なき社会発展は可能か?――〈脱成長〉と〈ポスト開発〉の経済学

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  • / ISBN・EAN: 9784861822971

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  • <脱成長>と<ポスト開発>  -2011.05.25記

    「経済成長なき社会発展は可能か?」セルジュ.ラトゥ-シュ著、中野佳裕訳
    3.11の大震災以後、日本中が福島原発事故のもたらす深刻な恐怖下にある事態のなか、折しも本書を繙くのは時宜に適ったものとは思われつつも、じっくりと読み進めるのはかなりの根気を要するものであった。
    本書は4つの部分から成っている。
    第1部と第2部は、04年と07年にそれぞれフランスで刊行されたラトゥ-シュの二著を合本翻訳されたもの。短かく挿入的な第3部は仏雑誌「コスモポリティ-ク」による著者へのインタビュ-記事-06-。そして訳者による詳細なラトゥ-シュ解説が第4部といった構成。

    第1部<ポスト開発>という経済思想-経済想念の脱植民地化から、オルタナティブ社会の構築へ
    序章<ポスト開発>と呼ばれる思想潮流
    第1章 ある概念の誕生、死、そして復活
    第2章 神話と現実としての発展
    第3章 「形容詞付き」の発展パラダイム-社会開発、人間開発、地域開発/地域発展、持続可能な発展、オルタナティブ開発-
    第4章 発展主義の欺瞞-発展概念の自文化中心主義、現実に存在する矛盾-実践上の欺瞞-
    第5章 発展パラダイムから抜け出す-共愉にあふれる〈脱成長〉、地域主義-
    結論  想念の脱植民地化

    第2部<脱成長>による新たな社会発展-エコロジズムと地域主義
    序章 われわれは何処から来て、何処に行こうとしているのか?
    第1章 <脱成長>のテリトリ――政治家の小宇宙における未確認飛行物体、<脱成長>とは何か?言葉と観念の闘い、<脱成長>思想の二つの源泉、緑の藻とカタツムリ、維持不可能なエコロジカル.フットプリント、人口抑制という誤った解決法、成長政治の腐敗-
    第2章 <脱成長>-具体的なユ-トピアとして-<脱成長>の革命、穏やかな<脱成長>の好循環-8つの再生プログラム-再評価する、概念を再構築する、社会構造を組み立て直す、再分配を行う、再ロ-カリゼ-ションを行う、削減する、再利用する/リサイクルを行う、地域プロジェクトとしての<脱成長>-地域に根差したエコロジカルな民主主義の創造、地域経済の自律性を再発見する、<脱成長>的な地域イニシアチブ-縮小することは、退行を意味するのか?、南側諸国の課題、<脱成長>は改革的なプロジェクトか、それとも革命的なプロジェクトか?-
    第3章 政策としての<脱成長>-<脱成長>の政策案、<脱成長>社会では、すべての人に労働が保障される、<脱成長>によって労働社会を脱出する、<脱成長>は資本主義の中で実現可能か?、<脱成長>は右派か、それとも左派か?、<脱成長>のための政党は必要か?-
    結論 <脱成長>は人間主義か?

    第3部インタビュ-「目的地の変更は、痛みをともなう」

    第4部 日本語版解説-セルジュ.ラトゥ-シュの思想圏について-中野佳裕-
    1. セルジュ.ラトゥ-シュの研究経歴と問題関心-フランス社会科学におけるラトゥ-シュの位置付け、ラトゥ-シュの思想背景、科学認識論プロジェクト-経済想念の解体作業-
    2. 解題『<ポスト開発>という経済思想』-開発=西洋化-われわれの<運命>の問題として、発展パラダイムの超克-インフォ-マル領域の自律性-
    3. 解題「<脱成長>による新たな社会発展』-<脱成長>論-その歴史と言葉の意味、エコロジカルな自主管理運動としての<脱成長>論-
    4. 日本におけるラトゥ-シュ思想の位置付け
    5. 結語 日本社会の未来のために-平和、民主主義、<脱成長>

  • フランス人経済学者による、脱成長を唱える本。現在の資本主義に基づく成長や利益の追及は行き詰っており、人類社会や地球環境に崩壊をもたらすとの意見には賛同できる。ただし、その対策には疑問。現在の市場主義や資本主義は、自由、民主主義に基づき、技術革新に支えられつつ、人間の欲望と生き残り、豊かさの追求によって発展してきた。その力は強大であり、ソ連を中心とした社会主義陣営でさえ敗れ去った。著者が唱える、脱資本主義、脱成長のために社会主義以上に制約を課す方策が、資本主義に勝てるとは思えないし、大衆に受け入れられるとも、到底思えない。社会において賛同者が増えないのは、それを選択できない問題点があるということであり、不具合があるということである。結局、日本での賛同者のように、時代遅れの左翼的考えを持つ少数派となり、テロリストや反社会的分子と同類と見られることによって社会の足を引っ張ることになってしまう懸念がある。結局、自由と民主主義の世界において、資本主義といった近代経済システムの中で、環境問題、貧困問題などに個別に対処していくしかないのではないか。
    なお、本書は、翻訳があまりにひどく読みにくかった。
    「日本は独自の脱成長社会を想像するに相応しい位置にいるように思われる。なぜなら日本には、古から続く東洋の文化が凶暴な西洋化によって完全に根絶されることなく残っており、そのような伝統文化が現在の経済危機を契機に復活する可能性があるからである」p17
    「1998年の国連開発計画の報告書によれば、1950年以来、世界の富は6倍に増加したが、国勢調査を受けた174カ国の住民の平均所得は著しく減少している」p24
    「国民総生産の増加は良いことであるという信仰は人間開発言説において中心的な位置を占めている。これこそまさに、近代の論理において世界の経済化を通じて西洋の経済的基準が正常に作動するようになる根拠である。グローバル化した世界では、市場価値以外の価値は存在しないのだ」p56
    「20世紀には地域経済に深く根差した小規模の地域銀行や地方銀行が数多く存在していた。国立銀行の発展のおかげでこれらの地域銀行は廃業に追い込まれ、そのかわりに全国的な大企業に融資する国立銀行の支店が現れた。今日、国立銀行を消滅させたのは外資系の銀行である」p60
    「自由主義者であれマルクス主義者であれ、経済学者のほとんどは経済発展が持続することを可能にする考えに賛同している」p72
    「重要なことは、発展に代わるポスト開発、ならびに持続可能な脱成長の時代の構築を提唱することである」p82
    「経済という考え方は、物質的不足に常に根拠を措くことによってのみ存立する。新しい生活必需品が増大することで大衆の必要不可欠な需要が創造される一方で、そのような必要性の圧力が労働の原動力となる」p89
    「不平等を解決するためにはまずは不平等を拡大しなければならない。(経済的)不平等は資本蓄積の前提条件として捉えられており、富裕層は貧困層よりも多く貯蓄することを念頭においた場合、所得の不平等によって強靭な投資を促進するので、不平等は経済成長に良いことである、とノーベル経済学賞受賞者のアーサー・ルイス卿は主張した」p92
    「発展パラダイムに対する全く別の選択肢は、過去への回帰という不可能なことを提唱することにはなりえない」p100
    「われわれの経済成長は、すでに地球の環境収容能力を大きく超えてしまっている」p104
    「消費を常に増大させることを前提とするようなこの狂気じみたシナリオを放棄しなければならない」p123
    「消費社会が悪魔の輪舞を踊り続けるためには3つの要素が必要である。消費欲を刺激する宣伝広告、消費手段である信用貸付、そして需要を更新するために生産物を短いサイクルで計画的に使用不能とすること、である。成長社会に内在するこれら3つの原動力は、まったくもって犯罪の種である」p151
    「「脱成長」はおそらく「エコロジカルな社会主義」と見なすことができるだろう」p248

  • 近年、ヨーロッパを中心に盛り上がっているらしい、脱成長論(Décroissance)についての本。反経済成長やら反資本主義思想は昔からあるだろうが、それらや近代の類似思想(オルターグローバリゼーション、持続可能な成長等)の不完全性に言及しつつ、それらとは一線を画す脱成長論についての近年の動き及び筆者の主張が書かれている。
    まだまだ机上の空論レベルから抜きん出ていない感は否めないが、個人的な志向とも相まってか、かなり興味深く読めた。あくまで資本主義を否定している訳ではない(こういった主張は往々にして社会主義的レッテルを貼られるため)事や、環境に対するこれまで以上の配慮あたりがポイントかと個人的には思う。
    昨今の目的無き手段としての経済成長、及びそれらから付随して生まれる諸問題、商業主義の蔓延に疑問を持ち始めている人はぜひ読んでみるといいかと。

著者プロフィール

1940年生まれ。フランスを代表する経済哲学者・思想家。パリ南大学(オルセー)名誉教授。著書に『経済成長なき社会発展は可能か?――〈脱成長〉と〈ポスト開発〉の経済学』、『〈脱成長〉は、世界を変えられるか?――贈与・幸福・自律の新たな社会へ』、『脱成長(ダウンシフト)のとき――人間らしい時間をとりもどすために』などがある。

「2020年 『脱成長』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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