- Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
- / ISBN・EAN: 9784861828201
作品紹介・あらすじ
養父カエサルを継いで地中海世界を統一し、ローマ帝国初代皇帝となった男。世界史に名を刻む英傑ではなく、苦悩するひとりの人間としてのその生涯と、彼を取り巻いた人々の姿を稠密に描く歴史長篇。
『ストーナー』で世界中に静かな熱狂を巻き起こした著者の遺作にして、全米図書賞受賞の最高傑作。
資料を読み込み、調査を進めるかたわら、その車でイタリア各地はもちろん、ローマ時代にマケドニア属州であったトルコやユーゴスラビア、さらにギリシャの島々も訪れた。登場人物たちが生きた土地の「空気感を味わいたかった」のだという。(…)それはみごとに成功した。読者は史実がわかっていてもなお、彼らの“いま”を感じ、登場人物のひとりひとりが胸にいだく希望や不安や恐れを身近に感じることができるのだ。しかしそれも、背景が生き生きと描写されているからこそ可能なのだろう。物語全体がひとつの生き物のように、圧倒的なスケールとパワーをもって息づいている。(「訳者あとがき」より)
感想・レビュー・書評
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「ストーナー」のジョン・ウィリアムズである
この方は元軍人であったが、のちに大学で文学を専攻し、徐々に功績が認められていく
特別研究奨学金を受けてオックスフォード大学に留学し、そこでロックフェラー財団の奨学金を得て、イタリアへ研究調査旅行に出かけた際に書かれた作品がこちらの「アウグストゥス」
彼の生涯を描いた小説だ
構成が実に面白い
本書は終始一貫して敵味方あらゆる人たちの手紙や手記、報告書で構成された書簡体小説なのである
7年もの年月をかけ、ジョン・ウイリアムズが執筆した渾身の作品だ
アウグストゥスといえばローマ帝国初代皇帝である
大叔父ユリウス・カエサルに抜擢され、養子となる
しかしながらこの頃のアウグストゥスは目立たない病気がちな青年に過ぎなかったといわれる
(そんなアウグストゥスを見抜くカエサルは只者ではないですなぁ…)
個人的にアウグストゥスとの出会い(?)はかなり以前に読んだ宮尾登美子氏の小説「クレオパトラ」である
こちらでも彼は貧相な印象で病気がち、カエサルのようなカリスマ性がなく、クレオパトラは「何も恐れる心配がない」と思っていたようだ
こちらの書ではクレオパトラ及びアントニウス側からの小説であったため、アウグストゥスに対し「どうしようもない印象」「何を考えているかわからない人物」「陰湿でずる賢い」というイメージを受けた覚えがある
目線が変わるだけで歴史と人物像が変わって見えるところが面白い(読み比べの醍醐味である)
本書は先に述べた通り、書簡体小説で、3部構成になっている
1部及び2部においては、すべてアウグストゥス以外の人たちの書簡のやり取りでアウグストゥスという人物が浮かび上がってくる…という仕組みなのだが、これが見事である
当然のことながら敵も味方も家族も友人も…といったように立場の違う人たちの書簡のため、アウグストゥスのことを良くも悪くも言う
しかしながら、きちんと読む者に公正な形で「アウグストゥス」が伝わるところがなんとも面白い
ちなみに1部はカエサルの暗殺から、オクタウィアヌス(アウグストゥス)が幾多の試練を乗り越えてローマ帝国の基礎を築き上げる
そんな歴史小説観満載の内容である
どちらかというと歴史のハード面が中心で少々軍記物語っぽさ、政治の駆け引きなどがある
右も左もわからない青年がいきなりローマのトップに立つ
その彼がどうやってローマをまとめ上げていくのか…
その辺りが興味深いポイントだ
不思議なもので本人以外の書簡だけなのにもかかわらず、オクタウィアヌスの心情まではわからないものの、人柄や考え方がきちんと伝わる
そして2部はオクタウィアヌスの家族(中でも娘のユリア)が中心となり物語が進行する
どちらかというと歴史のソフト面のドラマっぽさに焦点があてられる
ユリアがいい味を出しております
ユリアが幼い頃はとても聡明で、父(オクタウィアヌス)に懐いた良い娘であった
しかしながら当然その立場は政治的に利用される(されまくる)
そして彼女の運命と彼女の変化…
激動の人生を静かに語るもう若くないユリアが神秘的で美しい(絵が浮かぶ如く伝わる)
ユリアは悪女なのか運命に翻弄された犠牲者なのか…
ユリアの生きた人生は何だったのか
彼女が男性に生まれていたら…
それはどうであれ、彼女は人生を運命をすべて受け入れ、全身でぶつかっていった女性なのだろう
ユリアの描き方がガラスのように繊細で美しいく、だけど芯の硬さが見え隠れする…さすがジョンウイリアムズだ!と感激
さて最後の3部でとうとうご本人が登場
といっても既に70を過ぎ、死期が迫ったオクタウィアヌスが人生を振り返り友人に手紙として語る
ここで初めてオクタウィアヌスの心情があきらかになる
一人の男性としてもオクタウィアヌス
ローマ皇帝としてのオクタウィアヌス
夫としてのオクタウィアヌス
父親としてのオクタウィアヌス
彼の人生に対する思いががじわっと広がる
壮大な世界で大波に飲み込まれるような圧巻さを感じる一面、森の中の静かな湧き水のような、線の細い水が滴るかのような…そんな身近で優しい世界も感じた
彼のローマに対する思いと娘ユリアに対する思いは読んでいる者をなんとも物悲しくさせる
孤独な立場で強い意志を貫き、試練と苦悩を持ち続けながらもローマを守った男
決して派手さも華やかさもないオクタウィアヌスがアウグストゥスとして生きた人生
ジョン・ウィリアムズの手にかかると見事に魅力的な人物に出来上がる
アウグストゥスというとどうしてもあの石膏の顔が浮かんできて、どうにも大昔の歴史上の人物なのだが、ジョン・ウイリアムズが見事に血肉を吹き込んでくれた
こういう面白い歴史小説がたくさんあると自然に歴史が好きになれるのだが…
日本で読めるわたくし個人的に未読のジョンウイリアムズ小説はあと1冊となってしまった
寂しさと楽しみとで複雑だ詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ジョン・ウィリアムズは長篇小説を四冊書いているが、一作目は自己の設けた基準に達しておらず、自作にカウントしていない。二作目が『ブッチャーズ・クロッシング』。三作目が第一回翻訳小説大賞読者賞を受賞した『ストーナー』。『アウグストゥス』は、その四作目で、完成されたものとしては最後の小説である。『ストーナー』は、しみじみと心に沁みる小説で、高い完成度を持つ作品だった。これで、ジョン・ウィリアムズの小説はすべて読んだことになる。どれも素晴らしい出来映えである。
『アウグストゥス』は、書簡や回顧録といった媒体を用い、多様な視点を通じて初代ローマ皇帝アウグストゥスの人となりを描いてみせる書簡体小説。ユリウス・カエサルの死に始まり、アウグストゥスの死をもって幕を閉じる歴史小説でもある。陰謀と策謀、盟約と裏切り、敵と通じて互いの敵を撃つという信義無用のローマの政治と軍事をその場にいて目撃した当事者、傍観者の口を借りて多彩に描き出している。
もちろん、その中心にいるのはガイウス・オクタウィウス、後の初代ローマ皇帝、カエサル・オクタウィウス・アウグストゥスである。しかし、当のオクタウィウスの心の裡は小説も終わりに近づく第三部に至るまで、はっきりと分かることがない。ことが起きた時にオクタウィウスがどういう思いで、その行動をとるに至ったか、そして後でどう思ったかは、常に傍にいて彼を助ける、友人のアグリッパやマエケナスが書き残した文書の中で、間接的に触れている箇所を頼りに読者は推測するよりほかはない。
作品は三部に分かれている。第一部は、カエサルの暗殺からオクタウィウスが数多の戦いを制し、ローマ帝国の礎を築くまでの十三年間を、若い頃からの親友、軍人アグリッパの回顧録、同じく友人で外交・内政を担当した詩人のマエケナスの書簡を中心に描いていく。虚弱体質であったオクタウィウスに代わり、戦闘は常にアグリッパが指揮を執った。フィリッピの戦いやマルクス・アントニウスやクレオパトラとの戦いであるアクティウムの海戦などの様子は戦記物を読むようでもある。
第二部は打って変わってオクタウィウスの家族に目が向けられる。自分の家系を残すことにこだわるオクタウィウスと妻リウィアの間には子がなかった。そこで先妻の生んだ一人娘のユリアを何度も再婚させ、男子の跡継ぎを得ようとする。知力に長け、美貌の持ち主でもあったユリアは、父の威光の下、平和が到来したローマにいて、若い富裕層の享楽的な催しに耽る。政略結婚の道具であったユリアが自己に目覚め、ティベリウスという夫のある身で姦通の罪を犯し、流刑にされた島でしたためた回顧録が中心となる。この皇帝の娘のスキャンダルを描いてみたいと思ったのが本作の構想の基となった。
第三部は、七十六歳になり、死期を悟ったオクタウィウスが、ダマスクスに暮らす友人の歴史家、ニクラウスに宛てて船中で書く長い手紙が中心だ。アグリッパをはじめ、心の許せる数少ない友人を次々と逝かせ、孤独な余生を送るオクタウィウスに残されたのはヘロデ王との連絡役として長らく自分の傍に仕えたニクラウスよりほかにいなかった。ここに至って初めて、オクタウィウスは、カエサル暗殺の報を受け取ったときの心境に始まり、娘ユリアに寄せる父としての愛情や、野心家の妻リウィア、その子ティベリウスに対するわだかまりを自分の声で語り出す。
それまで、隔靴搔痒の感があったオクタウィウス像が、霧が晴れたように明らかにされる訳だが、自分の姿を容易に見せようとしなかったオクタウィウスのことだ。この手紙もまた一つの韜晦であると言えなくもない。それかあらぬか、オクタウィウス死去の後、この手紙が届けられたとき、ニクラウスもまた亡くなっていたというから、皮肉極まりない。皇帝の親書である。おいそれと他人が開けるはずもない。ということは、ここに綴られているオクタウィウスの切々たる心情はいったい誰の手になるものか。いうまでもなく作者による。それをいうなら、いくつかの資料は別として、この小説の中に書かれた大半の書館、回顧録はすべて作家の手になるものである。
これまで、大叔父のカエサルや、マルクス・アントニウス、クレオパトラに比べ、オクタウィウスは映画や演劇で採り上げられることがあまりなかった。しかし、その実態はパクス・ロマーナの創出者であり、ローマ帝国の版図を広げた最大の功労者でもある。どうしてそんなことになったのか。この小説の中のオクタウィウスは、先の三人に比べ、派手な演出を嫌い、自分が前に出ることなく、出自に関わらず有能な人材を登用し、戦いより婚姻関係で平和を維持しようと励む。もし、カエサルの跡を継がなかったら、一介の文人となっていただろう。そんな、思いがけなくローマを統べることになった人物の、稀有な半生とそれ故に引きうけざるを得なくなった孤独が読者の胸に迫る、壮大な叙事詩にも似た小説である。 -
世界史の知識がほとんどないので、最初の登場人物評に付箋を貼ってたびたび参照し、あとはときどき世界史地図を見ながら地名を確認したりして読み進めたが、途中からぐんぐんひきこまれて、一気に読みおえた。
すべて書簡や手記や報告書などを組みあわせて、史実や人物像を浮かびあがらせる手法なのだけれど、わかりにくさがないところが、作者も訳者もすばらしい。
第一部は史実をたどる形。カエサル暗殺の報を受けたときの友人達の回想は、大河ドラマを彷彿とさせるよう。そこからアントニウスとの対立と和解、最終的な決戦へと向かっていく。(ここらへんは、電子辞書で百科事典をちょいちょいカンニングしながら読んだりした。)
辻邦生の『背教者ユリアヌス』あたりとも読んだ感触が似ているかな。読んだのだいぶ前だから記憶がおぼろだけど。
第2部はオクタウィウス(アウグストゥス)の娘ユリアの回想。心の自由にめざめ、愛人と奔放な生活を送るようになるのだが、それがために陰謀に巻きこまれて、父の手で流刑になる。為政者の娘という自分ではいかんともしがたい境遇に生まれたことの悲劇でもあるし、すぐれた知性と感性をそなえた女性の誇り高さも伝わってきて、単に史実を追うだけの物語ではないんだと新鮮だった。
そして第3部は、オクタウィウス本人が死の間際に、ただひとり生きのこっている(と思われた)友人にあててしたためた回想。自分を殺し、ローマのことだけを思って、淡々と、冷徹に政務をこなして、はたして何が残ったのか。それがほんとうにローマのためだったのか。この都市はまた腐敗へ向かおうとしているではないかという諦観にさいなまれながらも、「強くて永続的な愛」を感じる瞬間があったから、満足して死に向かうことができる……このあたりに『ストーナー』との共通点を感じた。寡作の作者で、生前は作品が評価されず、不遇であったかもしれないが、きっとオクタウィウスに語らせたような愛を感じながら生涯を生きたのだろうな。
「あの詩人達が最も幸福でいられたのも、そのような愛があったからでしょう。それは、古典学者が原典にいだく愛であり、哲学者が概念にいだく愛であり、詩人が言葉にいだく愛です」(p.385) -
養父カエサル(シーザ-)の後を継いで、ロ-マ帝国初代皇帝「アウグストゥス(尊厳者)」の称号を贈られた「オクタウィアヌス」の波乱の生涯を、彼を取巻く周辺の人々の書簡や回顧録で綴られた歴史長編小説です。地中海世界を統一し皇帝となるまでの興奮の第一部、帝国の繁栄と辺境の防備・後継者問題に絡む陰謀・妻リウィアと娘ユリアとの確執に苦悩する第二部、76歳の生涯の忌憚のない回想を、友人ニコラウスに送った書簡(第三部)まで、壮大な創造力で語られる生身の男の人物像が、二千年の時を超えて浮かび上がってきます。
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【情熱とは、必然的に度を越すものだ。愛においても戦争においても】(文中より引用)
ローマ皇帝・アウグストゥスの生涯、そして彼が生きた頃のローマ帝国を、書簡や日誌から浮かび上がらせる形を取った「歴史書簡小説」。類い稀なストーリー・テリングで、読者に物語としてのローマ帝国を感じさせてくれる一冊です。著者は、『ストーナー』が死後に注目を集めたジョン・ウィリアムズ。訳者は、ジョン・ウィリアムズのその他の作品の翻訳も手がけた布施由紀子。
堂々たる風格漂う名著。書簡の内容をいわば「小出し」しながら話を進めていくため、読み手の頭の中に次第にミステリーやサスペンスの要素が付け足されていく仕組みになっており、「どうやったらこんな手法を思いつくのだろう」と驚嘆せずにはいられませんでした。そして手法だけでなく、静逸さを備えた文体と翻訳もまた魅力的です。
こういう本をじっくり読むのってイイなと☆5つ -
ローマ帝国の初代皇帝アウグストゥスの話。
書簡による第三者の目線で、アウグストゥスの行動や人となりが語られ、最後にようやく本人の語りがある。
最後の語りでは、途中のちょっとしたエピソードがそんな時系列でそんな意味があったのかと言う驚きもあった。
以前に読んだローマ人の物語によると、実際の本人も自分の業績を声高には語らなかったらしく淡々とした業績録だけが残っているとのこと。
この小説での人物造形はさもありなんという人物になっていて、想像していたアウグストゥスや周りの人物イメージに肉付けがされた感じがした。
出来事とか登場人物についての説明は薄いので、ローマ人の物語を読んでから、この本を読んだほうが面白く読めると思います。
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世界史の知識が乏しい自分でも楽しめた。ストーリーについていけた。
ストーナーが気に入り、他作を読んだが、全くテーマは違うものの面白かった。
人は誰しも、遅かれ早かれいつかは自分はひとりであり、孤立していて、自分という哀れな存在以上のものにはなれない -
4.37/88
内容(「BOOK」データベースより)
『養父カエサルを継いで地中海世界を統一し、ローマ帝国初代皇帝となった男。世界史に名を刻む英傑ではなく、苦悩するひとりの人間としてのその生涯と、彼を取り巻いた人々の姿を稠密に描く歴史長篇。『ストーナー』で世界中に静かな熱狂を巻き起こした著者の遺作にして、全米図書賞受賞の最高傑作。』
原書名:『Augustus』
著者:ジョン ・ウィリアムズ (John Edward Williams)
訳者:布施 由紀子
出版社:作品社
単行本 : 404ページ
ISBN : 9784861828201 -
最後のセネカへの手紙がその後を知ってる現代人からするとすごい皮肉に思えてしまう