- Amazon.co.jp ・本 (243ページ)
- / ISBN・EAN: 9784861828300
作品紹介・あらすじ
ハクスリー、オーウェルの先駆をなすフェミニスト・ディストピア小説の古典、百年の時を経て蘇る!
第一次大戦後の英国。国民を知力でランク分けするという大胆な政策を打ち出す脳務省に務めるキティは、脳務大臣のニコラスと密かに愛を育んでいたが、脳務省の権力が増大していく中、二人の愛は迷走する……
「いろいろな点で、『その他もろもろ』は一筋縄ではいかない作品だ。……2020年に我々が生きている政治もメディアもメチャクチャな世界は、真面目に考えるよりもこういうブラックユーモア的なアプローチで考えたほうがいいのかもしれない」――北村紗衣
ここで語られる物語は、戦争が終わり、希望の光が見えた時代である。よって、現実を映したものではない。楽観的すぎる部分もあれば、厭世的すぎる部分もある。……本書は予言というより提案である。ただ、読者の多くは薄っぺらい提案だと感じるだろう。人間が時代を問わず抱えてきた病気の治療法の提案とはいえ、現在の苦しみがおさまればおさまったで、またいっそう重い病気を患ってしまうにちがいない。……本書ではきわめて古い難病の治療法を提案し、怠慢で鈍感な政府に無料で提供する。一意専心で研究した結果、筆者は官庁を新たに創設するのもそう悪くはないと思えるようになった。
すぐ近くなのに模糊とした未来のある時期、世界が、社会がどうなっているかに軽く触れている。筆者には不慣れな未知の分野であり、この後は知識豊富な読者の感性に委ねるしかない。――本書「弁明」より
感想・レビュー・書評
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百年ぶりの再販だそうで。フェミニズムディストピアとのこと。イギリスでは第一次世界大戦の被害が激しく、建て直しが必要だった。物語では人間を階級分けし、同じランクでないと結婚できない。イギリスって、爵位とか一番うるさい国だよね?結局それを遂行してる大臣自身が身分違いの結婚をして弾劾される。物語としてよりも、体制批判のため発禁扱いという。まあ仕方なかったな。読みやすいし、結構いやみなく、上品な書き方だと思う。
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第一次大戦後のイギリス。国民を知力でランク分けし、子どもに引き継ぐ知能の観点からその国民の結婚を推奨すべきか否かを確認。その是非によって賞罰を与えるという政策を打ち出す脳務省に勤めるキティは、脳務大臣のニコラスと密かに付き合っているが…という話。
なぜ国民を知力でランク分けするかというと、人間の知力の無さ、愚かさが人間を戦争に向かわせる、ということが理由であり、事の始まりは善意である。戦争で傷ついた人々を希望へと立ち返らせるための政策であったはずが、その極端さでかえって人々を束縛することの皮肉。
こうした悪法がいかにして人々へ行き渡るのか、その手法やコツが、これまさに今政治の世界で行われていることなのでは…?という、100年前に書かれたものとは思えないほど共通点があって、100年間進歩がないとも言えるし、人々は学んでいないとも言える…と危機感を覚えてしまう。
この本は政府側、メディア側が圧倒的な悪なのではなくて、それを受け取る国民側にも非があって、善悪の区別が明確ではない。それがかえってすごくリアルである。この強烈なブラックユーモアが100年前の世界から現代へ、鮮明なまま通じてしまう、そんな本だった。