ビトナ ソウルの空の下で

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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784861828874

作品紹介・あらすじ

田舎町に魚売りの娘として生まれ、ソウルにわび住まいする大学生ビトナは、病を得て外出もままならない裕福な女性に、自らが作り出したいくつもの物語を語り聞かせる役目を得る。少女の物語は、そして二人の関係は、どこに辿り着くのか――。
ノーベル文学賞作家が描く人間の生。


 サロメは「キティの話をしてよ!」と言い、「そのあとは、チョさんの鳩の話の続きをお願いね」と付け加える。
 彼女はお茶をちびちびと飲む。左手が震え、右手はもう何の役にも立たないのか膝に置かれたままだ。サロメはわたしが目を凝らしているのを見てとり、ただこう言った、「これがわたしには何よりも受けいれにくいのよ」彼女はちょっと顔をゆがめて何かおもしろいことを言おうとするが、思いつかない。「毎日少しずつ死んでいくの、何かが去っていく、消えていく」
 わたしは何も言わなかった、サロメのような人を慰めるのに言葉はいらない、憐れみもいらない。ただ、旅をさせるための物語があればいい。(本書より)

感想・レビュー・書評

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  • 詩の魅力 Charme de la poésie(日本語字幕) | UTokyo TV
    https://todai.tv/contents-list/2017FY/le_clezio/2017

    作品社|ビトナ ソウルの空の下で
    https://sakuhinsha.com/oversea/28874.html

  • ソウルに住む大学生ビトナが、『千夜一夜』のシェヘラザードのように、病で外出の出来ない女性に物語を語る。
    女性歌手ナビの話が私は好きだった。

  • いずれ私たちは死ぬ。端的なこの事実をどう受け取るべきか。サロメに向けてビトナは瑞々しい物語を語る。その物語の中では物語作家は自由に彼らの運命を描くことができる(場合によっては運命に抗い「転生」を語ることもできる)。その「語る」行為を通してビトナは死というどこまでも個人的な現象から、その分断を超えたメッセージを伝えんとしているかのように思う。「分断」を超えた「対話」ないし「コミュニケーション」はこの作品のキーワードではないだろうか。誰かに対して語る時、人は自身の中にまだ「希望」が眠っていることに気付かされる

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著者プロフィール

(Jean-Marie Gustave Le Clézio)
1940年、南仏ニース生まれ。1963年のデビュー作『調書』でルノドー賞を受賞し、一躍時代の寵児となる。その後も話題作を次々と発表するかたわら、インディオの文化・神話研究など、文明の周縁に対する興味を深めていく。主な小説に、『大洪水』(1966)、『海を見たことがなかった少年』(1978)、『砂漠』(1980)、『黄金探索者』(1985)、『隔離の島』(1995)、『嵐』(2014)、『アルマ』(2017)など、評論・エッセイに、『物質的恍惚』(1967)、『地上の見知らぬ少年』(1978)、『ロドリゲス島への旅』(1986)、『ル・クレジオ、映画を語る』(2007)などがある。2008年、ノーベル文学賞受賞。

「2024年 『ブルターニュの歌』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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