リベラル教育とアメリカの大学

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  • ふくろう出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (146ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784861861925

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  • 本著は、アメリカ・インディアナ州のEarlham College(リベラル・アーツ・カレッジ)などでの教歴経験から、アメリカのリベラル教育を紹介し、それとの比較から日本の大学教育の問題点を明らかにし、その解決策を提示しようとするのが目的のようだ。

    それにしても、「リベラル教育」という言葉は厄介である。リベラル・アーツに基づく教育だと著者は言うが、そのリベラル・アーツについての明確な合意が、これまたないのである(カーネギー財団が、アメリカの大学を分類する際に使うリベラル・アーツの定義が参考になるが、日本では参考にされることがほとんどない)。
    著者は、「リベラル・アーツとは、教養的・一般的知識を与え、言語・文学・自然科学・哲学・歴史などの科目を通じて、知的能力の総合的な開発を目的とした教育」とし、それに基づいたリベラル教育を「直接には職業教育・専門教育につながらない、人間・人格教育に重きを置く、高等普通教育とか教養教育と理解される」としている。

    しかし、著者はこの定義において、いくつかの矛盾と問題を冒している。まず、キーワードとなる「教養」とは何なのかの定義をしていないこと、リベラル教育を優れたものとして紹介する一方で「一般知識を与える」ことは殆ど役に立たない(p.125)と上記定義の一部を否定してしまっていること、そして、著書の中盤(p.98)では、Liberal EducationとGeneral Education(高等普通教育)は異なるものと紹介している点、などである。

    本書で紹介される、アメリカの大学の取組み例では、参考になる点は少なくない。しかし、そもそもアメリカの大学と日本の大学が置かれた環境が違う(少人数教育や学生の流動化を許さない多くの大学の財政問題、終身雇用を基本とする日本の労働法、文科省による定員管理等の締付け、高等学校側の諸事情など)ため、安易に導入することはできないだろう。一方で、アメリカの大学の構成員の長年の経験と合意と協力のもとで進めてきた教育改革の様々な「ツール」が、表面的には日本の大学で導入されながら、実態が伴っていない状況は、大学の教育改革を形式的・非効率なものにしていることは間違いない。アメリカの大学の長年の経験からその本質を学ぶ意義は大きいい。

    著者は、大学教育の最大の有用性は「学生が問題発見能力を自分でつけることを助けること」だとしている。だとすれば、大学関係者自身も大学運営において問題発見能力を身につけ、本質的な問題にまで踏み込んで、解決に導く力を身につける必要があるのではないだろうか。大学改革は、様々な問題が複雑に絡み、かつ制約が掛けられているので、世間やマスコミが言うほど簡単ではない。しかし、日本の大学が置かれは諸条件を勘案しながら、その改革のモデルとなっているアメリカの大学の教育改革の現場の取り組みから直接学ぶことは有益には違いない。その意味でも、本書での紹介は大学に係る者にとって有益だと思う。

  • ダブルメジャーで無茶苦茶とも思われるような専攻をする学生が多いようだ。それでもちゃんと人生は成り立っている。私だって、独文と国際関係のダブルだから。

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著者プロフィール

帝京大学経済学部教授、開発経済学
[主な業績]
『東アジアにおける経済統合と共同体』(共著)日本経済評論社、2014年。
Dynamics of Poverty in Rural Bangladesh,(共著)Springer、2013年。
『貧困と差別の経済学』(翻訳、B. R. シラー著)ピアソン桐原、2010年。

「2015年 『連帯経済とソーシャル・ビジネス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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