素顔の伊達政宗~「筆まめ」戦国大名の生き様 (歴史新書)

著者 :
  • 洋泉社
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感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (252ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784862488893

作品紹介・あらすじ

天下を目指し、みちのく東北の覇権争いに勝利した政宗。戦いに勝利するためには手段を選ばず、敵を皆殺しにすることもあった。武勇と知略に富み、二〇年早く生まれてくれば、天下取りも可能な逸材だった。武勇の人・政宗は、茶の湯、文芸、書なども嗜む文化人の顔も兼ね備えていた。当時、戦国大名の手紙は家臣が代筆することが多かったが、家族、家臣、友人との信頼関係を重視した政宗は、直筆で厖大な手紙を書き、たびたびの危機にも常に前向きに生きた武将だった。

感想・レビュー・書評

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  •  奥州の覇者・独眼竜こと伊達政宗の手紙や遺品を元に、その生き様と人物像を紐解く歴史新書。
     政宗の自筆の書状からは、人となりが鮮やかに浮かび上がり、彼を取り巻く父母や妻子、家臣たちとの関わりも篤く生々しく見えてくる。
     元・仙台市博物館長によって書かれた本書は決して居丈高な調子ではなく、入門的な内容で平易な文体ながらも、深い洞察による解説には大変興味を引かれた。
     中でも、巷では不仲説が通る母親・義姫との情愛の籠もった手紙の遣り取りと、当時の伊達家の状況をも背景に考察した『大悲願寺住職・法印秀雄=政宗の弟』の史料による『小次郎生存説』には瞠目した。
     また、鄙の華人と称された政宗の教養の高さにも広く言及している。
     特に、書の流麗さには白黒写真だけでも惹きつけられ、是非とも現物を拝みたいと思わせる。
     これを機会に、筆者の他の著作も読んでみたい。

  • 勇将のイメージがあったのだけれど、政宗の筆まめさ、そしてその手紙の素直さや、戦勝報告を自慢するかわいさが魅力的。

    追伸が多い方なので、私と一緒で、あ、忘れてたが多い、かわいい人なのかなと親近感(笑)

    責められている味方に対して、援護品を送ったが連絡がないので心配だ、とか、相手方からの工作が来ても私が直筆の手紙で必ず保証した様によく扱う、約束は守ると述べている誠意のある態度とか、それでも相手の気持ちも考えて、信用しているので安心ししていると追伸で述べているところとかもとってもキュートで人間味あふれている。

    お酒が大好きで、たまに飲みすぎて、粗相をしてしまった部下に対して、ごめんねと謝りの手紙を出したり、嫁いだ娘へも、昨日場を盛り上げようとしてお酒を飲んで、二日酔いでまとまらない文章でごめんねと謝っていたり、人間らしさもとっても好感。

    何かに不安を感じて、正月の祝い魚である鱈が出回らないのを気にかけて、ただただ命令するのではなく、漁師に安心して商いをするように伝えよと手紙を部下に送っていたり、細やかな気配りができる人でもある。他にも逼迫した藩の財政を何とかするために考えた案もおしつけるのではなく、部下に意見を言うようにとの手紙を送っている。

    家康とか、実際の気持ちは分からないけれど、子供を簡単に見殺しにしたりしているように思え、戦国時代は親子の情愛は薄いイメージがあった。政宗が嫁いだむう姫に出した直筆の手紙の数も300通を超えていたり、離婚した五郎八姫を手元に引き取るときに、色々してあげたいので自分が仙台にいる間にしてほしいと母親に手紙を書いていたりと優しさが垣間見える。

    若干18歳で家督を継いだ政宗。将来が不安であり、人の事に口をはさめる身分ではないと断りながら、自分より先にできた後継ぎを殺めようとする忠臣を諌めるとこなども、優しくて好感です。とにかく、殺めたりするなと繰り返し書いてあり、その必死な感じに誠意を感じた。

    遺品の中から、筆が納められた筆箱なども出てきたことなども書かれており、興味深かったです。

    手紙を通して、生まれるのが少し遅く、戦乱の世が安定期へ移りつつあり、戦いを挑む機会さえ与えられなかった政宗。
    乾坤一擲で戦い一花咲かせて散るか、現実を見極め秀吉に屈服するか正直に家臣に伝え悩む様子など、彼の夢への挫折が感じ取られて、切なくなる。
    実力が伴う人が、挑むことも許されず、諦める事は
    非常に辛いことだったでしょう。

    文化も豊かで、教養も高い政宗は、それでもなお人に誠意を尽くせる人で、素敵な人だったんだなと思います。
    ユーモアに富んで部下と遊べる懐に余裕もあり、直筆の手紙をもらうと素直に喜ぶかわいらしさもある人。
    魅力的に描かれていました。

    あとがきで書かれている様に、政宗の魅力は「行き先の見えない不安な時代。自分の可能性を信じ、自由な意思と決断で前途を切り開き、夢に向かって突き進んだ」だと私も思いました。

    辞世の句の解釈
    何も見えない真っ暗闇の中で、月の光を頼りに道を進むように、戦国の先の見えない時代の趨勢を 自分が信じた道を頼りにただひたすら歩いてきた一生であったなあ

  • 筆武将 言い得て妙

  • 『伊達政宗の手紙』の著者による、手紙に拘らず伊達政宗の生涯を追う本。
    著者は研究者かつ元仙台市博物館館長という方で、新書で手に入る政宗解説書の中では最も信頼が置ける部類に入ります。

    ただ内容としては単に初心者向けというわけではなく、伊達政宗の家族や人的関係、地理、及び彼がどのような活躍をしたかを軽く押さえている人以上に向けて書かれているような気がします。(一部内容はもともと宮城県で発行されている情報誌に連載されていたものなので、「おらほの殿さま」を知っている県民の皆さんにはわかりやすいかも?)
    政宗のことをもっと知りたい! という方にお勧めの本。

  • 伊達政宗は“戦国武将”であり、どうしても彼が身を投じた激しい戦いの行方や、豊臣政権や徳川幕府との駆け引きや、晩年近くまで抱き続けていたと言われる「天下への野心」というようなことに脚光が当る。しかし実際…彼は「当時としては一流の教養人・文化人・文化活動のパトロン」であり、教養に裏打ちされたなかなかの文章家で詩才も在り、「自ら筆を執らず、失敬…」というようなことを右筆(現代風に言うと“秘書官”)に書かせた書簡に追伸として綴るなどする「書簡を綴ることを大切にしている」という人物で、副葬品にかなり手の込んだ文房具が在るという具合に、「文章を綴ることを愛した」とも見受けられるような人物である。
    なかなかに興味深い…

  •  仙台市博物館長の佐藤憲一氏による、伊達政宗の素顔に迫る入門書。
     戦国大名の中でも特に人気が高い政宗の、豪放でありながら繊細で細やかな心遣いあふれる性格を、手紙から読み解く。戦国大名の多くは手紙は右筆に任せ、直筆のものはきわめて少ない。しかし政宗は自筆の手紙を駆使して、一族や家臣への愛情を伝えようとした人物であったことに感動した。花鳥風月を愛し、和歌や書道で第一級の才能を持っていた政宗らしい、教養あふれる振る舞いだと思った。
     特に面白かったのは、鷹狩りにおける印判状。酒癖の悪い政宗が、その場を盛り上げるために、悪ふざけのような直筆の手紙が紹介される。政宗の人柄や、暖かい主従の様子にほのぼのとする。
     政宗はとりわけ一族や家臣への情に厚い主君だったというが、手紙によってその事実を証明した、珍しい一冊と言える。文章も平易で読みやすく、入門にはうってつけの一冊だと感じた。

  • 自筆の手紙を駆使して人心掌握に成功した猛将。政宗は、武勇の裏で家族、家臣、友人との意思疎通を大切にした。

    本書は、仙台市博物館に学芸員として勤務した著者が伊達政宗の素顔に迫った本である。全体的に、政宗贔屓の観があるが、それを踏まえても面白い本である。自分的には、伊達政宗というと大河ドラマの渡辺謙のイメージが強く、ギラギラした印象があった。
    本書を読むと、独眼竜政宗は、結構史実に忠実に作られている事がわかる。(唯一気になったのは、ドラマの中では、伊達成実に子供がいたが、本書によると子供はいなかったのだという事。)

    小田原参陣前の実母による政宗毒殺未遂事件については、元禄16年に編纂された伊達家の正史「貞山公治家記録」に詳しいそうであるが、著者は、伊達家の一本化を図った政宗と母の共謀で、手討ちしたことにして密かに逃がし出家させたと考えている。(東京都あきる野市、大悲願寺の歴代住職のなかに法印秀雄という人物がおり、寺の記録によると、政宗の弟とされている事。正史の記述には、義姫の出奔時期につじつまが合わない点があるそうである。)今となっては、証明不能な問題であるが、考え方としては面白い。正史が後世に編纂されたものである事を考えると、疑問の余地はあると思う。

    もうひとつ、関ヶ原の合戦時の百万石のお墨付きの問題がある。以前、読んだ文の中で、お墨付きは、領土の切り取りを保障したもので、政宗が自力で上杉領を占領することが出来なかった(白石城のみ攻略)以上、反故にされても仕方ないという説があり、納得したものであるが、著者は、反故にした理由として、家康の政宗に対する警戒心をあげている。(味方には付けたいが、強力にはしたくない)上杉氏が米沢領を安堵された事や相馬義胤が改易を免れたのは、政宗を封じ込めるためという説は面白い。(相馬家が領土安堵されたのは、政宗のとりなしがあったという話を読んだことがあるが、本書では、反故にされたお墨付きの代償として空き地となる相馬領を狙っていた事が窺える)
    著者は、関ヶ原合戦での政宗の働きを十分評価に値するものだったとしているが、私としては疑義がある。和賀一揆の問題だけではなく、白石攻略後、上杉氏との直接対決を避けるような姿勢を考えると、最終的に、最上に援軍を送ったとはいえ、功績として、すんなり納得できないものがある。(上杉と伊達の戦力差を考えれば、やむを得ないとは思いますが)
    とはいえ、のちに秀宗が取り立てられて、宇和島十万石を得る事を考えれば、幕府としても気を使っていた事がわかる。(この点を考えると、陰謀家であったゆえに、自業自得で報われなかったというイメージがあるが、まるっきりそうとも言えまい)

    書に堪能で、茶道や香などを嗜む文化人であったことや、残された自筆の手紙から、家族、家臣、友人を大切にする人柄など、政宗の意外な一面を知ることが出来るのは面白くおススメである。

    「伊達政宗、最後の日々」(小林千草著)や、「伊達政宗の研究」(小林清治著)を積読状態であるが、本書に続けて読みたいと思った。

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著者プロフィール

佐藤憲一(さとう・けんいち)
東京理科大学教養教育研究院教授。専門は初期近代トランスアトランティック文学文化。著作に『異形のピューリタン―ジョン・ウィンスロップ・ジュニアとトランスアトランティック・トランザクション』(春風社、2020年)、『救いと寛容の文学―ゲーテからフォークナーまで』(共著、春風社、2019年)、『異文化理解とパフォーマンス―Border Crossers』(共著、松田幸子・笹山敬輔・姚紅編、春風社、2016年)、『人間関係から読み解く文学―危難の時の人間関係』(共著、日本人間関係学会・文学と人間関係部会編、開文社出版、2014年)、『知の版図―知識の枠組みと英米文学』(共著、鷲津浩子・宮本陽一郎編、悠書館、2007年)がある。

「2023年 『越境のパラダイム、パラダイムの越境』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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