砂の降る教室 (現代短歌クラシックス02)

著者 :
  • 書肆侃侃房
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本棚登録 : 68
感想 : 1
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  • Amazon.co.jp ・本 (160ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784863854062

作品紹介・あらすじ

第一回塚本邦雄賞(2020年)を受賞した著者の原点、
23歳のときに発売された『砂の降る教室』を17年ぶりに新装版として刊行します。



【歌集より】
カーテンのレースは冷えて弟がはぷすぶるぐ、とくしやみする秋
とてつもなく寂しき夜は聞こえくる もぐらたたきのもぐらのいびき
みるくみるくはやく大きくなりたくて銀河の隅で口を開けをり
想はれず想はずそばにゐる午後のやうに静かな鍵盤楽器
窓がみなこんなに暗くなつたのにエミールはまだ庭にゐるのよ
くすくすくすくすの木ゆれて青空を隠すくす楠の木ひとりきり

感想・レビュー・書評

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  • 2003年に刊行された石川美南の第一歌集の新装版。高校〜大学時代の歌を収録。


    柴田元幸編『短篇集』収録の「物語集」を読んで以来好きな石川さん。単独の歌集は持っていなかったので、リーズナブルな値段で復刊されて嬉しい。
    全編が青春の匂いに包まれている。Ⅰ章は移転することになった大学の旧キャンパスへの郷愁に始まり、
    おまへなんか最低だって泣きながら言はれてみたし(我も泣きたし)
    のような、恋に憧れる気持ちを歌った作品が多い。「文化祭にて」の連作は、高校の文化祭でフラメンコを踊るクラスメイトに感動する側だった思い出が蘇った。
    Ⅱ章は高校時代に作った歌と小中学校の思い出を詠んだ歌を収める。
    まだ君が全てではなくうすあおき銀杏の影に身を浸しおり
    という歌もある通り、恋を知る前の無邪気な感情と、家族と学校だけの小さな世界を描いた歌を集めている。小学校の思い出とおぼしき
    ピストルを手にするときのときめきを顔に出したらだめよ、先生
    のように笑える歌もある。軽くて明るいユーモアはこの人の持ち味だと思う。人間の暗い面を覗き込みながら、カラッと乾いたままでいる強さがある。
    Ⅱ章終わりに置かれた「完全茸狩りマニュアル」からⅢ章にかけてだんだんと幻想味が増してくる。もちろんⅠ章から日常を異化するフィルター越しに世界を見ている人だということは伝わるのだが、Ⅲ章ではそれが加速し、虚構と現実の境目はより曖昧になっていく。
    鍋の蓋だけを盗む泥棒にまつわる連作や、年かさの古書店主との淡い恋と別れを逆順に辿る連作の歌、
    澄みきつて夜 わたくしは持ち去られしなべのふたなど恋ひつつぞある (なべのふた泥棒に捧ぐ)
    ちりちりと痛む指 君は満開の金木犀を褒めすぎてゐる (茨海書店店主と出会ふ)
    などは、虚構性が高くもそこに忍ばせた心の動きは真に迫っている。
    また、擬態語を嵌め込んだ連作「だぶだぶ」をはじめ、Ⅲ章の作品は音感がいい。
    鉄琴の上に降る雨 許す前に許されてゐる苛立たしさは
    は、上の句で聞こえてくる音と光景が、ひんやりとした感触を伴って下の句でうたわれる感情に浸み込んでいく感じが好きだ。
    最後に、現代短歌クラシックスというシリーズをはじめて手に取ったが、装幀と判型がとてもいい。今の短歌はこんなふうに、コートのポケットに入るサイズであってほしい。

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著者プロフィール

神奈川県横浜市に生まれる。同人誌poolおよび[sai]の他、さまよえる歌人の会、エフーディの会、橋目侑季(写真・活版印刷)とのユニット・山羊の木などでふらふらと活動中。2020年3月、5冊目の歌集『体内飛行』刊行。その他の歌集に『裏島』、『離れ島』『架空線』がある。最近の趣味は「しなかった話」の蒐集。

「2020年 『砂の降る教室』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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