冥王星を殺したのは私です

  • 飛鳥新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784864101622

作品紹介・あらすじ

2006年8月、冥王星はこれまでの太陽系惑星の地位を剥奪され、準惑星に降格した。その事件の"犯人"となったのが本書の作者マイク・ブラウンである。冥王星に次ぐ「10番目の太陽系惑星」を発見し、一躍時の人になった天文学者がなぜ"冥王星キラー"と呼ばれることになったのか?その人間味あふれる天体発見史をなぞりながら、天文学の醍醐味を味わう、良質の科学読み物。

感想・レビュー・書評

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  • 冥王星残しておいて欲しかったなぁ~

  • 水金地火木土天海冥。
    ここから冥王星が外れたというのは中学生の時にニュースを見て知っていて、当時は矮惑星(現在では準惑星というのが通例らしい)に分類されたのも覚えていた。
    しかし、それがどうしてなのかというのははっきりとは覚えていない。
    山本弘の「ビブリオバトル部シリーズ」で紹介されていたことがきっかけで本書を知り、ずっと読みたいとは思っていたが、文庫がないために後回しにしていた。
    最近図書館を利用するようになったので、すぐに借りられる中から本書を選んだ。

    冥王星がどうして惑星の枠から外れることになったのかが主題ではあるが、予備知識は全く必要ない。
    読み進める上で必要な事柄についてはジョーク交じりにわかりやすく教えてくれる。

    いくつかあるので箇条書きでメモ。
    ・英語圏の人は惑星の順番を覚えるときに「My Very Excellent Mother Just Served Us Nine Pizzas.」を使うらしい。英語圏の人に聞いてみたらやはり知っていた。
    ・天体には命名規則がある。水星のクレーターには亡き芸術家の名前、天王星の衛星にはシェイクスピアの作品の登場人物の名前、カイパーベルト天体には神話に登場する創世神の名前。そういう一種の縛りがあるのに、その天体の特性にあった物語を持つ名前が見つかったりするのはロマンチック。
    ・惑星が見つかると、それを記念して新しい元素に名前が使われる。天王星(Uranus)→ウラン(Uranium)、ケレス(Ceres)→セリウム(Cerium)、パラス(Pallas)→パラジウム(Palladium)、海王星(Neptune)→ネプツニウム(Neptunium)、冥王星(Pluto)→プルトニウム(Plutonium)
    ・新しい天体の発見には「ブリンク・コンパレーター(点滅比較計)」というものを使う。同じ空の領域を時間差で撮影した2枚の写真を見比べる……結構原始的!もちろん今はプログラムがある。
    ・宇宙船を遠くに行かせたいときには宇宙船を木星に向かわせ、その重力を利用する。同じようにカイパーベルト天体が海王星に近づくと弾き飛ばされてしまうが、海王星の重力が小さいために、太陽系外まで飛ばす力はない。そのため、軌道が楕円形になる。これを散乱カイパーベルト天体という。

    こういう知識を得られるのもおもしろいが、個人的には天文学が科学という学問でありながらとても人間臭い一面を持っているということが興味深かった。
    学者には誰かに先を越されないかという不安があり、そして早く発表したい気持ちと正確にまとめなければいけないという責務の間の葛藤と戦っているということ。
    研究には膨大な作業と時間が必要で、優秀な学者でも甘えたくなる気持ちがあるということ。

    そして話は「惑星」の定義に及んでいくが、そこには天文学会内での政治が影響していたり、科学が文化とも結びついているせいで科学における判断だけでは決めきれないものごとがあったりする。
    こういう自然界には関係のない人間界のごちゃごちゃを見せられると、言葉の定義などというものは人間が勝手に決めているただの言葉遊びで、必要ないんじゃないかと思えてくる。
    実際にそういう学者もいるらしい。
    でも、著者は何かを科学的に理解するときには分類が必要だという話をしていて、彼の科学に対するスタンスが見える。
    「分類とは、自然界がもつ無限の多様性をそのままにせずに、最終的に理解できるようなもっと小さなかたまりに分けるための方法だ。」

    冥王星をどこに分類するかという話の中で、準惑星(Dwarf Planet)という名前は形容詞がついているだけで惑星の仲間だと誤解される可能性について触れていたが、私は「じゃあ小惑星はどうなんだ?」と思った。
    それで調べたら小惑星は英語だとAsteroidでplanetってついてないんだな……。
    これは本文中に訳注であってもいいと思った。

    今や8個になってしまった太陽系の惑星だが、最近の研究だと9個目が存在する可能性が提唱されているらしい。
    そして、惑星を8個にしてしまった著者がまたも関係しているとのこと。
    これらの研究にまつわる本も読んでみたい。

    このレビューを読んだ方で、何か関連する本をご存じの方がいましたらぜひ教えていただけると幸いです。

  • 「水金地火木土天海冥」から冥王星が消えてしまった2006年。
    太陽系の惑星から外れて準惑星へと格下げになった裏側には、
    冥王星発見以来1世紀以上も果たせなかった「第十惑星」となるかも知れない天体を発見した著者。
    彼こそが『冥王星を殺した男』なのだ。世紀の大発見をした功績や名誉よりも天文学的に冥王星は惑星ではない、と自分の発見と刺し違えて引きずりおろすことに成功した。

    初めて天体望遠鏡で天空を眺め目をキラキラ輝かせた少年の日。
    そのキラキラした目のまま大人になったような著者。

    冥王星と同等もしくはそれより大きいかも知れない天体を発見したとほぼ同時に進行した初めての我が子の誕生を、同じレベルで尊重し慈しみ、
    少年のような科学的好奇心でもって生命・宇宙の神秘を語る。

    科学ノンフィクションだが科学者当人の人柄そのままでフレンドリーな語り口、非常に読みやすく天文学への入門書にもなっている。

    また日本の「すいきんちかもく・・・」に相当するアメリカでの惑星順列語呂合わせが「My Very Educated Mother Just Served Us Nine Pizzas(私の教養溢れるお母さんがたった今私たちにピザを9枚出してくれた)」であるとか、新惑星が発見された後発見された新元素には惑星の名前が由来となること。(冥王星(プルートー)発見後の元素は悪名高き名前(プルトニウム)になったことなど、一般人にも分かりやすいプチ知識も。

  • 「水金地火木土天海冥」から『冥』が抜けたその裏側で、第10惑星候補の発見があったとは恥ずかしながら知らなかった。
    この本では、その第10惑星候補が発見されるまでの道のりから、その発見が引き金となって巻き起こされる新しい惑星の定義決定までが描かれている。

    「存命する唯一の惑星発見者」という名誉を捨ててでも、厳密な惑星の定義にこだわり、自分が発見した天体とともに冥王星を惑星の座から引きずりおろしていく著者の姿勢には心打たれる。

    広大な宇宙を相手にしながら新天体発見に至る過程は、実に地味で根気の要る作業の連続だ。こういう自分の知らない世界を知るのはおもしろい。天文学に明るくない自分でも読みやすくわかりやすかった。

    やはり科学にはロマンが詰まっているなぁ。

  • 岐阜聖徳学園大学図書館OPACへ→
    http://carin.shotoku.ac.jp/scripts/mgwms32.dll?MGWLPN=CARIN&wlapp=CARIN&WEBOPAC=LINK&ID=BB00478909

    冥王星は惑星なのか、それともただの氷の塊なのか――

    2006年8月、冥王星はこれまでの太陽系惑星の地位を剥奪され、準惑星に降格した。
    その事件の“犯人"となったのはマイク・ブラウンである。冥王星に次ぐ「10番目の太陽系惑星」を発見し、一躍時の人になった天文学者がなぜ“冥王星キラー"となったのか?その人間味あふれる天体発見史をなぞりながら、天文学の醍醐味を味わう、良質のサイエンス・ノンフィクション。(出版社HPより)

  • 実に面白かった。
    冥王星が惑星でなくなったときのことはよく覚えているが、エリスの発見者自身が、エリスも冥王星も惑星に含めるべきでないと主張していたとは、知らなかった。

    太陽系の惑星に全く興味のない人が読んだら、保証の限りではないけど、ユーモアたっぷりだし、全体の構成も良く、とても読みやすい。訳も良いんだろうけど、元が良くないとここまでにはならない。

  • 科学の道100冊 2020

  • 冥王星は「惑星」だった。
    しかし、いまは「準惑星 (dwarf planet) 」である。
    いわば「優勝」から「準優勝」へ格下げだ。

    Michael E. Brown (マイケル・E・ブラウン) さんらは
    冥王星より大きいかもしれない天体「エリス」を発見した。
    その結果、惑星としての冥王星は死んだのである。


    冥王星は「惑星」としては小さかった。
    発見された当時も「惑星」とすべきかどうか議論があった。
    冥王星を「惑星」扱いするのはしっくりこない。
    だが、「惑星」以外に分類するともっとしっくりこない。
    そんなわけで冥王星は「惑星」ということになった。

    エリスは冥王星と同サイズである。
    測定誤差5%を考慮すると言い切るのは危険だが、
    冥王星より大きいかもしれないくらいだ。

    となれば、当然「エリス、10番目の惑星発見!!」となりそうなもの。
    でしょ?

    でも「待った」がかかった。
    冥王星が発見されたのは約100年前。
    100年も経つと、技術や天文学も進歩する。
    冥王星クラスの天体は200個くらいは見つかりそうだという話になった。

    水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星...これが200個になると?
    なんだかしっくりこない。


    天文学は科学なので、特別な思い入れがあるからといって
    「例外」「特別扱い」にしようというスタンスとは相性があまり良くない。

    よって「冥王星」が「惑星」なら、「エリス」も「惑星」となる。
    そして、惑星は200個になる。
    「エリス」が「惑星ではない」なら、「冥王星」は「惑星ではなくなる」。
    そして、惑星は8個になる。

    「惑星」とは何か?
    その定義を議論して曖昧さを減らす必要がでてきてしまった。
    定義にそって、何を惑星とするか、惑星から外すかを決めねばならない。


    ところで、わたしたちは「惑星」をどのようなイメージで捉えているのだろうか。
    おそらく「物理的または天文学的に目立った存在で、かつ、わたしたちの
    心や文化の中で重要な地位を占める天体」みたいなイメージではなかろうか?

    何かを大切に感じること。
    その大切なものを中心に世界を考えること。
    この感覚が、わたしたちに冥王星は惑星だと語りかけてくる。
    それと同時に、惑星が200個は受け入れられないとも語りかけてくる。
    なにより、学校で約200個も新惑星の名前を覚えるのは辛い。。。

    さて困った。


    でも、結局は科学的スタイルで決着した。
    「地動説」以降「地球」が世界の中心ではなくなったように、
    「科学」以降「人」が世界の中心ではなくなったように。
    「科学」には「何かが特別ではない」としたときに
    「あたらしい何かが見えてくる」ような営みという側面がある。

    わたしたちは「思考」や「コミュニケーション」に「言葉」を使う。
    だから、世界をよりクリアに理解できそうな「言葉の定義」を議論して決める。
    そして「エリス」は「冥王星」を道連れに「惑星」から外れていった。

    それでも価値観や習慣による認識の歪みはそう簡単に変えられない。
    「エリス」と「冥王星」が同格という感じがしないし、
    冥王星は「準惑星」だとしても「限りなく惑星」に近い感じがしてしまう。

    実際、専門家でさえその感覚からは逃れられず、「古典的惑星」とか
    「冥王星」を「惑星」にし続けるための表現が色々と考えられたらしい。


    ふと、「1秒の定義」と「惑星の定義」を並べて思ってしまう。

    1秒は、1956年までは地球の自転周期の86,400分の1と定義されていた。
    わたしたちは、いろいろな現象について時間を使って考えることが多い。
    だから、時間は不確かさや曖昧さがあると実生活ですごく困ってしまう。
    例えば、GPSは時刻が100万分の1ズレただけで300メートルも位置ズレしてしまう。

    1967年にはセシウム133原子を使った原子時計が基準となり、
    定義の変更と技術の向上におり、時間の不確かさは10^-7から10^-16レベルに向上している。
    GPSは時計だけで機能するわけではないけれど、単純に9桁も精度が向上したら
    1キロも位置ズレしていたものが、0.001ミリしか位置ズレしなくなる。
    つまり髪の毛1本分 (0.05ミリ) もズレない正確さになる。

    その一方で、時間再定義が日常生活におよぼす影響はそれほどなく、
    あいかわらず機械式時計やクォーツを使って、問題なく待ち合わせなどできている。

    それと比べると「惑星の定義」変更は全然スムーズでなかったように思える。
    わたしたちの知らないところで、秒の定義も大変な議論があったのかもしれないが。

    「冥王星」「エリス」あんなに遠いのに、*1
    わたしたちの心のなかでの距離は意外と近くて、特別なのだなと思った。


    *1
    冥王星の遠日点距離は約49[AU]。
    エリスの遠日点距離は約98[AU]。
    太陽から地球までの距離 (約1億5,000万km) を1天文単位 (AU : Astronomical Unit) という。
    地球からエリスまで、フェラーリ (約300km/h) で向かえるとしたら5,500年くらい掛かる。
    ボルトさんが不眠不休の世界記録ペースで走り続けたら45,000年くらいでたどり着く距離。

  • 冥王星が惑星でなくなった話を当事者が語る。
    「かくして冥王星は降格された-太陽系第9番惑星をめぐる大論争のすべて(ニール・ドグラースタイソン)」も併読すると面白い。

  • 太陽系の惑星は「水・金・地・火・木・土・天・海・冥」。そう教わってきた。
    それが2006年8月、冥王星は太陽系の惑星から「準惑星」へと降格された。その報道を、理屈は全くわからなかったけれど「へぇ~、そんなこともあるんだ」と驚いた記憶がある。
    なぜそのようなことになったのか?。

    著者のマイク・ブラウンは太陽系の惑星を研究している天文学者で、冥王星よりも遠くにある惑星を探していた。そしていくつかの小惑星を発見する。
    「第10番目の惑星発見か?」
    しかし、調べていくうちに、“惑星”の定義に疑問を持ち始める。
    「水・金・地・火・木・土・天・海」と、冥王星・発見した小惑星との間には決定的な違いがあるのだ。
    他の惑星は太陽を中心に円軌道であるが、冥王星は楕円である。
    他の惑星は軌道面が平面上に並んでいるが、冥王星は20°近く傾いている。
    そして、国際天文学連合総会で、惑星の定義を決めるための論議が始まった。

    遠い遠い太陽系の果ての写真とにらめっこして、動かない星ぼしの中から動く惑星を探していく。誰が先に発表するか、早い者勝ちの天文学者間の競争。
    冥王星を惑星として残したい天文学者たちとの攻防。
    発見した小惑星を“惑星”にせずに、科学的な正しさを選ぶ著者の潔さ。

    そんな中でも、夜空には金星や木星や月が輝いている。

    プラネタリウムを時々見に行くけれど、いくつかの星座は見分けることができても、惑星まではわからない。
    それでも、夜空を見上げてみたくなった。

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