- Amazon.co.jp ・本 (36ページ)
- / ISBN・EAN: 9784864104524
感想・レビュー・書評
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たった一頁の中で、物語は螺旋形の滑り台を降りたかのようにくるくると行き先を変え、降り切った地点に立った瞬間には自分が向いている方向の感覚を失ってしまう。その戸惑う感じが心地よい。
夏目漱石の夢十夜という話が好きなのだが、その読後感とよく似た思いがわく。夢十夜では、背中の子供が急に重くなったり女が死んで花が咲いたり、不思議な展開の話が並ぶのだが、その展開の妙が似ているというだけでなく、何処か薄暗い雰囲気が全体を覆う印象もよく似ていると思う。薄暗さは当然のことながら死と隣り合わせの感覚で、さらに言えばそれは天を向いたものではなく地に向かう視線である。あたかもそれこそが人の業であると言わんばかりの後ろ暗さを思い知らされるような感覚がよく似ていると思うのだ。
夢というものが本人の意識下の倫理観に縛られれることなく、むしろ業欲に任せて展開しがちであるように、夢十夜の物語には無意識に放って置かれた脳がシナプスを好き勝手に繋ぎ合わせたら、思ってもいなかったものや自分自身がすっかり忘れていた畏れや罪悪感のようなものを記憶の底からつるつると手繰り寄せてしまったという感覚を強要するところがある。この「夜の白昼夢」にも、それと似たような後ろ暗さを喚起するところがある。もちろんそこに一神教と八百万の神を信じる文化との小さな差異はあるとしても、その差とて天と地というような大きな構図の共有を否定するだけの力はない。なべて人の業など陳腐なものに過ぎないのかも知れない。
物語の強いる暗さを、添えられたイラストレーションが視覚的な印象として固定する。あえて「夜の」と断らねばならない程に物語には救いがない。弱肉強食の動物とどこも変わりはしないのだと言わんばかりの黒い印象を焼き付ける。その一方で、死ねば極楽、というような生ぬるい信仰を瞬時に否定し、人が考えついた魂の救済プロセスを逆手に取って未来永劫罪を糾弾する。短い物語に底無しの無間地獄を見る。詳細をみるコメント0件をすべて表示