背守り ― 子どもの魔よけ (LIXIL BOOKLET)

制作 : 住友和子編集室  村松 寿満子  祖父江 慎  鯉沼 恵一 
  • LIXIL出版
3.82
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (80ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784864805087

感想・レビュー・書評

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  • 主に江戸時代、子どもの着物に付けた魔除けのお守り、背守り。
    子を慈しむ想いを込めた、その様々な造形を紹介する。
    ・糸じるし ・紐と小裂 ・刺繍  ・押絵
    ・百徳   ・帽子   ・守り袋 ・迷子札
    背守り端縫い考  佐治ゆかり
    産着に託された願い  夫馬佳代子
    interview 背守りを現代に継承する  鳴海友子
    interview ハギレの力を活かす百徳着物  三瓶清子

    江戸時代から戦前の昭和初期にかけて作られた、背守り。
    子どもの死が多かった時代に、幼子が健やかに成長出来るよう、
    願いを込め、災いからその身を護るまじないとして背に付けた。
    背縫いの無い子どもの着物に縫い目を付けた、糸じるし。
    神様が子どもの危険を防ぐために摑んで引き上げる、紐と小裂。
    刺繍したのは、魔除けの意味をもつ文様や吉祥文。
    布細工の押絵は、立体アップリケの如くで、可愛い。
    背守りの他にも、作られたものがある。
    福徳のある家々から貰い集めた端切れを綴った着物、百徳。
    お宮参りや初産帰りの特別な、帽子。
    帯に下げられた巾着形の、守り袋。
    押絵の技法で作られた縮緬細工の迷子札は、
    裏に住所・氏名・親の名前を記した。
    江戸人情物の小説に登場することがある背守りですが、
    種類が多いことに驚きました。
    どれも一針一針想いを込めて縫った親の願いが感じられる
    ものばかりで、惚れ惚れしながら眺めました。

  • 山本耀司がTVで、この本見ながら服を作っている場面があったので、興味が湧いて読んでみました。

    背守り。
    子どもの着物の背に魔除けのためにする刺繍。

    江戸から昭和初期までの実際の背守り(子供の着物)の写真集。

    写真家は石内都。
    写真自体がかっこよく、着物が個別の歴史を持った深いものとして感じられる。

    子どもが着る服は大人の服から作られたり、端切れを組み合わせたり、ハンドメイドで作られていた。
    母親は子供が長く生きられるように願い背守りを縫う。

    現在よりもずっと、子どもが若く死亡していた時代。
    経済状態も悪く、医療のケアも受けられない。そんな家が多数。

    背守りは、シンプルに→のような形状なのだが、魔除けとして、デザインとして、シンプルなものだからこそ、威力が際立つ。

    その他にも、子どもの命を守るための装飾として、以下の色々なバリエーションが紹介されていて、どれも面白い。

    ・長い紐をたらす
     →子供が誤って井戸や囲炉裏に落ちた時に、神様が引き上げてくれる

    ・刺繍。背紋。飾り縫い。
     →明治半ば以降、背守りが小学校、女学校の裁縫教科書に載り、文様が多様化。装飾性を加えていった。

    ・押絵(アップリケ。立体的な布細工)

    ・百徳
     →子育ちのよい家や長寿の年寄から端切れをもらい集め、百枚を丹念に塗って子どもに着せると丈夫に育つという風習。金沢の鬼子母神(子育ての守護神)を祭る真成寺には百徳が多く奉納されている。

    ・守り袋
     →こどもの帯に下げられていた巾着型の守り袋。交通安全祈願など。

    百徳の様々な色、素材を絶妙にパッチワークしているすさまじさに驚き。

  • 「背守り」とは子どもの魔よけ。
    背縫いのない子どもの着物に、縫い目を施し、背後から忍び寄る魔を防ぐという風習。

    近世以前の日本では、3人に1人以上が5歳までに命を落としていた。お産で亡くなる母親も多かった時代だ。常に生と死が隣り合わせにあった。背守りは、子どもの無事成長を願う心が形象化されたものと言える。

    日本人が「背」というものに対してどんな観念を抱いていたかなどの考察は、とても興味深い。
    無事丈夫に育った子どもや長命な老人の古着の布を寄せ集めてつくる「寄せ着物」など、浮かんでくるのは強烈な親の愛情ばかりだ。

    色とりどりの着物の写真の美しさもさることながら、よくぞここまで集めたものと感心する。良書。

  • 大阪のLIXILギャラリーで3月から5月までやっていた「背守り 子どもの魔よけ展」にあわせて刊行された、LIXILブックレット。会期中に展示を3度見にいって、このブックレットに掲載されている背守りなどの実物をじっくり見た(ブックレット掲載の写真は、石内都による)。

    「背守り」とは、背に縫い目のない子どもの着物は背後から魔が忍び込むと思われていて、それを封じるために背中に縫い取りや刺繍、ちょっと綿を入れた押し絵などをつけたもの。子どもが幼いうちに亡くなることも多かった時代に、健やかな成長を願ったもので、「背守り」のほかに、金沢のお寺に奉納されたものがいっぱいあるという「百徳着物」、お守り袋や迷子札など、子どもを守ろうとする心のこもった衣類が展示されていた。

    長寿の人がいるうちや、子どもの育ちがいいうちから端布をわけてもらって(=たくさんの徳をもらえるように)、集めた端布をつなぎあわせて着物にしたという「百徳」もよかった。

    展示で見たそんなんを反芻しつつ、小さな字でいろいろと書いてあるキャプションや、巻末に収録されている文章(佐治ゆかり「背守り、端縫い考」、夫馬佳代子「産着に託された願い」、鳴海友子「背守りを現代に継承する」、三瓶清子「ハギレの命を活かす百徳着物」)を念入りに読んだ。

    いろんな縫い取りとその伝承(たとえば「蝶」は幼虫から変身して成長するところから不死、あるいは復活のシンボルとして古来吉祥文の一つだったとか、唐辛子と多産の鼠の組み合わせは古くから子孫繁栄や豊穣のシンボルとされてきたとか)を読んでいると、このごろ綻びたシャツや靴下をときどきちくちくと繕っているので、ついでに私も自分で背守りの縫い取りをしてみようかな~と思った。

    子どもの着物は傷みが激しいので、背守りのついた古着が見つかることはなかなかないそうだが、そんな中でも「背守り」つきの子どもの着物を集めてきた鳴海友子さんが書く縫い目についての話は私には強く印象に残った。

    ▼…着物を一枚一枚丹念に見ていくと、昔の母親たちの姿が浮かび上がってくると鳴海さんは言う。
     「大きな針目でざくざく縫っているものもあります。縫い物は夜なべ仕事でしたから、暗い灯りのものtではどうしても針目が大きくなったのでしょう。また、すぐほどける粗い縫い目にしておいて、使い終わるとオムツなどに再利用したのかもしれません。…」(p.72、鳴海友子「背守りを現代に継承する」)

    ギャラリーの展示を見にいったときにも思ったことだが、このブックレットでも、とりわけ「母親」の願いや「母」の手仕事ということが強調されている。おそらく、実際に針仕事をしたのは多くの場合に母親だろうけれど(祖母など身内の女性という例もあったのではないかと思うが)、子どもの健やかな育ちを願うのは、そんなにも「母親」ばかりだったのだろうか?と考えてしまった。

    明治期には学校教育で使われた教科書にも背守りのことが記載され、「背守りを産着につける習俗は、当時では若き女性が結婚前に教養として身につける身近な生活文化であったことが窺われる」(p.70、夫馬佳代子「産着に託された願い」)というものであったことや、その後の教科書の記述が、背守りの刺し方の手順を具体的に示し、運針練習として位置づけられていき装飾技法の習得として記されるようになっていったことを知ると、もちろん親の願いもたしかにあっただろうけれど、同時に、いずれは母親になる存在である女性に必須の技術・教養として裁縫があった、ということも反映されて「母親」の強調になっているんじゃないのか?と思えた。

    お産で母親自身が命を落とすこともあった時代に、その子どもは別の大人たちに見守られ、育てられていただろうと思えばなおさらに。

    (6/21了)

    *「背守り 子どもの魔よけ展」は、東京のLIXILギャラリーで開催中
    2014年6月5日(木)~8月23日(土)10:00~18:00 
    休館日:水曜日、8/14-17
    入場無料
    http://www1.lixil.co.jp/gallery/exhibition/detail/d_002767.html?_ga=1.168920291.318561310.1403355006

  • 写真が多い。子どもを思っての「背守り」だけでなく、「守り袋」、「迷子札」もあり。図案集ではなく、民族的な考察。

  • 背守り 子どもの魔よけ 展
    SEMAMORI  Stitched Amulets on the Back of Children’s Kimonos
    ギャラリー1(東京): 2014年6月5日(木)~8月23日(土) 休館日:水曜日□10:00~18:00 □入場無料
    http://www1.lixil.co.jp/gallery/exhibition/detail/d_002767.html

    LIXIL出版のPR
    http://www1.lixil.co.jp/publish/book/detail/d_86480508.html

  • 図書館で目に留まって借りた。

    背守り(せまもり)とは、子どもの健やかな成長を願って、子どもの着物の背に縫いつけた魔除けのお守りのこと。
    針で糸を直線に刺したもの(糸じるし)、長い紐を縫いつけて垂らしたもの、色々な形を象った刺繍、押絵のアップリケをつけたものなどの写真集。
    巻末に解説あり。
    展覧会の図録的な図書。

    家で表紙をめくって石内都さんの写真だと知ってびっくり、縁を感じます。
    感想、きわめて日本的だと思いました。
    背中は自分では見えないから魔が忍び寄る、大人の着物には背中に縫い目があるからそこで魔をシャットアウトできるけれど、子どもの着物は縫い目がないからお守りを。
    はじめは千人針みたいだなと思いました。
    それから千羽鶴もそうかなと。
    一目一目、一羽一羽に祈りや願いをこめる、その時間には雑念も入るでしょうが、相手のための時間です。
    昔は医療も未発達で子どもも幼くして命を落とすことも多かったから、儀式としてうまれたこと。
    それが時代が新しくなるにつれて、運針の練習になったりおしゃれ要素が強くなったりする。
    巻末に背守りのワークショップをしている方の解説が出てきます。
    それを読んでいると、文化や習俗は形骸化したとしても残ることが大切なのだ感じました。
    形が変わっていたとしても変わらない気持ちこそが、過去と現在と未来を繋ぐのだと思います。

  • INAXの趣味の本シリーズ4冊・その1
    <写真の本>
    ●背守り ― 子どもの魔よけ
    ●山と森の精霊 高千穂・椎葉・米良の神楽
    ●文字の博覧会―旅して集めた"みんぱく"中西コレクション
    ●考えるキノコ 摩訶不思議ワールド

    INAXの趣味の本シリーズです。
    どれも内容はハイレベル。
    魅力的。
    なにせデザイナー、確か祖父江真だから。
    他にはないものばかりなので、公共は全部買い!
    学校はいるものだけ買えばいいでしょう。
    ネット見たらリスト、でてくるよ。

    2017/02/16 更新

  • 霊魂の世界との境界としての背中を守るためのもの、という論考がおもしろかった

  • 昔は、幼くして亡くなるということは今よりとても多かったのでしょう。「背守り」には母親や周囲の人たちの願いが込められています。

    「9つまでは神さまの子。10でやっと自分の子」とは「ペコロスの母に会いに行く」の中で聞いた言葉。

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