- Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
- / ISBN・EAN: 9784864882095
作品紹介・あらすじ
目にするものはすべて詩であり、手に触れるものはすべて痛みである。
不正義、不条理に満ちた世界で人びとはいかに生きるか。
歴史に翻弄される民族を見つめ、人類の希望を「橋」の
詩学として語り続けたノーベル文学賞作家アンドリッチ──
「橋」、短編小説八篇、散文詩『エクス・ポント(黒海より)』
と「不安」、エッセイ三篇を収録した精選作品集。
歴史の不条理を、若きアンドリッチは身をもって体験した。第一次大戦中の思想犯としての獄中生活は、戦争という外的世界を凝視させると同時に、「幽閉された者」の精神的な内的世界へと作家を招き入れる。歴史と魂の問題は、作家の生涯を通じて、詩学を支える二本の柱となった。この詩学の魅力は、新現実主義と形而上主義の両面を持ちあわせ、見える世界と見えない世界を結び合わせる力にある。集団と自我、天と地、魂と肉体、異なる二つのものを引き裂くもの、繫ぎ合わせるものに、作家は光をあてる。アンドリッチの問いかけは、人はどう生きるべきかではなく、人々はどう生きるかという人類的な問題である。──「訳者解題」より
感想・レビュー・書評
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2月15日、ウクライナ国境に近いベラルーシ南部のプリピャチ川に、新しい橋が架けられた。
橋は川を隔てた村と村、町と町とを繋ぐものだが、世の中には侵略するための橋、分断するための橋もあるのだ。
プーチン氏の「橋」が、もう一つの「橋」、イボ・アンドリッチの「橋」を呼び起こさせた。/
「橋」:
【人間が生きる本能に駆られて築き、建てたものの中で、私の見るところ、橋よりも優れ、価値あるものはない。橋は家よりも大切であり、普遍的であるだけ聖堂よりも神聖である。だれのものでもあり、だれに対しても平等で、役に立ち、人間の必要がいちばん多く交錯する場所に、常によく考えて造られており、他の建造物よりも堅牢で、秘密のことや悪しきことには使われない。
ー中略ー
そのように、世界のあらゆる場所で、私の思いの向かうところ、留まるところではどこでも、忠実で寡黙な橋に出会うのである。それらはまるで、心や目や足の前に現れるものすべてを結びつけ、和解させ、繋ぎ合わせて、分割や敵対や別離がないようにするという永遠の、飽くことなき人間の願望のようなものだ。】/
「一九二〇年の手紙」:
【親愛なる竹馬の友よ
(前段略)だがしかし、ボスニアの人びとが、(略)認識しなければならず、けっして見過ごしてはいけないことがある。それは、ボスニアは憎悪と恐怖の土地だということです。
ー中略ー
ところが、ボスニア及びヘルツェゴビナでは、(略)多くの人びとがさまざまな動機やいろいろな理由のもとに、無意識の憎悪に駆られて、互いに殺したり殺されたりする。これが事実なのです。】/
ボスニア紛争の後、難民を助ける会が「スルツェ」という活動をしていた。
「スルツェ」とは、セルボ・クロアチア語で「心」という意味で、旧ユーゴ紛争後の戦争トラウマを抱える人たちに対して心理社会的な支援を行うという活動だった。
その後、NHKのドキュメンタリーで旧ユーゴ諸国の現状が取り上げられていたが、一度民族間に掻き立てられた憎悪の炎を消すには、まだまだ多くの時間を要するように感じた。/
プーチン氏がやってみせたように、「橋」を壊すための橋は、いとも簡単に作れるものなのかも知れない。
それと同じように、人々の心の中に「憎悪」を作り出すのも、案外簡単なことなのかも知れない。
だが、一度壊された「橋」が再建されるためには、どれだけの時間を要するのだろうか?
いったいどれだけの人が死んだら、為政者は愚行を繰り返すのをやめるのだろうか?/
【美は、地上では手に入らず、彼岸にある。】(訳者解題)
ひょっとしたら、平和もまた同じようなものなのかも知れない。
「橋」もまた、虹なのかも知れない。/
※本書は、『サラエボの鐘』(恒文社、1997年)をもとにしており、「エクス・ポント(黒海より)」と「不安」は、同書に収録されているものの新訳である。また、「作家としてのニェゴシュ」の代わりに「コソボ史観の悲劇の主人公ニェゴシュ」を収め、新たに「三人の少年」と「アスカと狼」を加えた。
(注)NHKのドキュメンタリー:
“虐殺”の傷は深く~紛争終結から10年 ボスニアはいま~
https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/2185/index.html詳細をみるコメント0件をすべて表示