ある殺人鬼の独白 (TO文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (271ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784866995090

作品紹介・あらすじ

累計50万部突破!「最後の医者」シリーズの著者、怒涛の4ヶ月連続刊行第3弾! 全読者戦慄のサイコホラー!なぜ殺し、そこに何を思うのか。これは殺人者の記録を集めた一冊だ。

感想・レビュー・書評

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  • 理想の女性を求めて撲殺を繰り返すホスト、地球を守るために法を犯す女性、愛する肉を監禁する肉屋……。
    これは殺人者の記録を集めた一冊。


    「自分がいつ殺されるか、あるいは殺してしまうか怖くて仕方ない」という人物が、殺人者について調べ、実態を知るため蒐集した殺人者にに関する記録、という形で語られる、7人の殺人者の話。

    一人称視点で、自分の犯行について語る形式で、話によって多少程度の違いはありますが暴力的・グロテスクなので苦手な方は注意です。

    どの殺人者も、狂気に満ちているようでいてどこか冷静というか客観的な部分を持っていて、意外と、殺人を犯してしまう人とそうでない人の違いはほとんどないというか、ただ単に些細な切欠からすとんと良くない方向へ落ちてしまう人も多いのかなと、読みながらそんなことを考えました。
    私は肉屋の話、『真愛』が一番好きでした。自分の異常性と性癖に向き合ったうえで上手いこと生きていけそうだったのに、惜しいなと思ってしまった。

    中には、殺人者とあきらかになっていない人もいそうなのに、収集者はどうやって彼らが殺人者と知ったのか。収集者やその収集方法、また聞き手の正体を考えるとまたそわっとします。

  • どういうふうにこの独白を集めたのか気になるところ
    インタビューではなさそうだし
    細かいところがよく分からなくて気になってしまった

    殺人鬼たちの話す内容は面白かった
    肉屋の話が一番面白い


  • 羽がとれて飛べなくなった蜻蛉は悪なのか、足が折れて巣に帰れない蟻は悪なのか。まあ悪なのかもしれないな。集団からみれば、個の理由なんて関係ない。決められた仕事を果たさないやつは、社会の構成員として失格だ。排除されてしかるべし。だが、そういうことなら悪とは、品質基準のようなもんだ。一定の質を満たしていれば善、そうでなければ悪。ご大層に道徳とか言うけれど、その程度のものさ。いいんだ、善のあんたらは、俺を何と罵倒してくれてもいい。好き放題、傷つけてくれて構わないぜ。殺したっていい。さっきも言ったけどな、あんたらにはその権利がある。心の準備はしておくべきだろうけどな。あんたも、何かの拍子に故障したり、質を満たせなくなったら、悪に転がり落ちるってこと。品質が低いから死刑ねって言われても、断る権利はないってこと。



    要するに、人がもがき苦しむのが見てえんだろ。さんざん食い合った結果、紙一重で自分が応援してる選手が勝つ、そのシーンを待ってるわけだ。それも努力して、なんか友人の死とかスランプとか怪我とかそういうの乗り越えて、涙の優勝。負けた選手も悔し涙を拭って、勝者と握手。はいはい感動感動。そういうことだろ、求めてんのは。あのね、それなら映画でも見てくれる?  私はお前らの奴隷じゃないんだわ。楽しませマシーンじゃないんだわ。何が見てると元気が出る、だ。元気くらい自分で出せないなら死んじまえ。私には誰も元気づけてくれねえんだよ!

    あのままだったら、人の肉に興味を持つのも時間の問題だったろうな。もっとも身近にあるのに、もっとも手に入りづらい肉、それが人肉だもんね。うん、やってたと思うよ。人をさらってきてさ、挽き肉にしたり、冷やしてみたり、焼いてみたり、こねたり練ったり千切ったり刻んだり弄んだり、したと思う。だってそうじゃない?  体も大人になってきて、知恵とか腕力だけでいえばできちゃうからね。人間一人から、どれくらいの肉が取れるのかな。どのくらい遊べるのかな。まあ、そんな犯罪を繰り返していたら、いずれ捕まるだろうけれど。どれだけの人間が、僕の慰みものに成り果てたか、わからなかったはずだよ。


    もちろん社会で生きるなら、守らなくちゃならないルールはある。だけどそれは、本当に最低限のルールだ。要するにあらゆる肉の中で、ホモサピエンスだけを特別扱いしてやればいいんだよ。目の前が開けたような思いだったな。

    本当の異常者は、そんな愚かなことはしない。上手に自分の欲望を制御して、普通という仮面をつけて、日常生活という劇を演じるんだ。そんな風にして、この国には相当な数の異常者が紛れ込んでいると思う。そして誰にも知られないまま、天寿を全うするんだ。僕もその一人。 ……しばらく前までは、そう信じてた。

    もう、夢中で考えていた。この部分の肉は切ったらどんな感じなんだろう。サシはどんな風に入っているのか。順目と縦目と、どっちで切った方が映えるか。焼いた時の柔らかさは、脂の量は。骨はかなり太くて丈夫だ。不健康そうな外見の割には、カルシウムとリンをしっかりとっている。

    もし人肉に等級があったとしたら、肉子は間違いなく A 5ランク。その奇跡のような肉が、価値を知られないまま、劣化してしまうなんて耐えられないんだ。

    僕は肉子と添い遂げるつもりだったんだ。どれだけ体調管理しようとも、老いと共に肉は劣化していくだろう。肉子の最盛期は、やがて過ぎてしまう。でも、それで構わなかった。一番近くで肉の変化を見届けられたなら、それで十分満足だったんだ。ましてや肉子の肉を切ってみるとか、食べてみるとか、もちろん興味はあるけれどね、そんなつもりは毛頭なかった。僕はただ、このまま肉屋として人生を楽しみ、そばに最高の肉がいてくれればそれで良かったんだよ。罪なんて犯すつもりはなかった。

    肉子への想いが恋だったとするなら、これは不貞行為だ。そのままの君でいて、と言ったのを忘れたのか。裏切りだ。僕の愛した肉は消された。殺された。悪気はなかったんだろう、それはわかる。じゃあ悪気がなければ何をしてもいいのか?  そんなはずがないだろう。償わせなくてはならない。ああ、無残にも消費されてしまったカロリーよ。何の価値もない、ただ重りを上げたり下げたりする不毛な運動のために消えていった脂肪よ。どれだけ無念だったことだろう。必ず仇は取るよ。涙を拭いて、そう決めたんだ。そして、今に至るというわけだよ。自分で言うのもなんだけど、僕は夫として最善を尽くしてきたつもりだ。異常者の割には、よくやっていたと思わない?異常者だって、悲しみもすれば喜びもする。基準が肉にあるというだけで、普通の人間だ。当然、いわれもなく害を被れば、黙ってはいられない。だけど、世間はわかってくれないだろう。ここが辛いところだ。僕は肉を心から愛しているといったところで、「そうだよね、美味しいもんね」くらいの反応しか返ってこない。ずっとそうだった。だから警察に駆け込んでも、弁護士に相談しても、僕の味方はいないだろう。僕は、自分の力で罪人を罰するしかなかった。

    なるべく捕まりたくはないけれど、隠し通す自信があるわけじゃない。不審がった親戚や誰かが乗り込んできて、僕たちの日々が白日の下に晒される日が来るかもしれない。そうしたら、どうなるかな。裁判官は、わかってくれるかな。話をしっかり聞いてもらえたら、無罪になると思うんだけど。理解できないものを、頭ごなしに否定するような人だったら難しいだろうね。死刑になるかもしれない。いいよ、それでも。この社会のルールだと言うなら、仕方ない。僕は胸を張って法廷に立つよ。僕は肉を受けてこの世界に生まれ、誰よりも肉を愛した。疚しいことなど一つもない。肉子の肉を一番愛したのは、肉子本人でもパーソナルトレーナーでも、他の誰かでもない。この僕なんだから。いつか人々が心に余裕を持ち、もう少しだけ肉に目を向ける時代が来たなら……僕の行いにも正義があったと、気づいてくれるはずだよ。


    「ただいま!  お父さんだよ」私は、扉を開いてそう叫んだ。いつもの挨拶だが、一種の宣言でもある。帰宅するなりこの一言を元気よく放ち、自分に聞かせる。そうして私はお父さんになる、自分自身をお父さんにしていくのだ。

    「吸いづらい……はあ。でも、美味しい。ねえ須賀谷さん、結局この世界ってさあ、人と人とがぶつかり合って、みんなが幸せになろうって蠢いてるわけじゃん。殺人なんてあっちこっちで起きてる気がするの。面接で落とした学生が悩んで自殺しちゃったら、それって殺したようなもんじゃん?  取引先の仕事を打ち切って、その会社が潰れて社員が路頭に迷ったら、それもそうじゃん?  なんか凄い面白い漫画描いてさ、それでたくさん儲かって読者が喜んでも、その分売れない漫画描いてる人が苦しんで、貧しくなって死ぬかもしれないじゃん。これも殺しじゃん?」「そんなことを言い出したら、切りがない」「そうだよ。だからわかりやすいやつだけ、警察が追っかけるわけでしょ。でもそれって、現実的な落としどころってだけで。世の中の殺人とか自殺とか、本当はみんなでちょっとずつ殺したようなもんだよ。最後の一押しをした人だけが、悪いのかなあーってのはいつも思う」女は煙を吹きながら、淡々と続けた。「だから同じだよね。みんな、誰かをちょっとずつ殺してる。そしてミイコたちも、誰かからちょっとずつ殺されてる。別にいいよ?  そういうものなんだから、変えようとか思わない。でもさ、なんか改めて考えると気が滅入ってくるじゃん。だからミイコ、アイドルになろうと思ったんだ。見ている時だけは嫌なこと忘れて、楽しい気持ちになれるアイドルにね。ま、多少なりとも?  みんなを幸せにしたかったし……ふふ」女はにやっと笑った。

    「どうしてあんな風にして殺すの?  外側は綺麗で整ってて、内側はグロくてキモい、二つは紙一重ってのがいいのかなあ。ちょっとわかんない。ね、何のために人を殺すの」「殺すんじゃない。『裏返し』た結果として、死ぬだけだ」「じゃあなぜ『裏返す』の?」

  • 7人の殺人鬼の独白。
    戦時中自分の子供を見捨てた話を見ず知らずの若者に語り出す老女の「選別」(この人だけは殺人鬼ではないな)言ってることが支離滅裂すぎて逆に何かリアルに怖い「信頼」肉を愛しすぎてる肉屋の「真愛」が面白かった。

  • 自分はいわゆる凡人なので、
    散々、サイコパスなホラーな物語を
    読んできたはずなのに、
    どこか殺人の動機はいつだって、
    復讐だったり、怒りや衝動によって
    起こりうるのだと思っていたようだ。
    あらゆる嗜好の延長線上に殺人があるのだとは
    信じがたいと考えていたようだ。
    まだまだ摩訶不思議な嗜好が
    溢れているのがこの世界か。

    スルスルと読めてしまい恐ろしい。
    目の当たりにしたら耐えられるはずもないのに
    文章ではスルスル理解してしまう。
    なんてことだw

  • 短編集なので、軽い読み物だとあまり期待せずに読んだが、面白かった。
    最後の「元凶」は、ちょっとグロかったが、「沸騰」の主人公の気持ちは、なんとなくわかると思ったし、戦時中の話である「選別」は、切なくてやるせない話だった。

  • 人は殺人するものと殺人しないもののどちらかに分かれる。その分岐点は日常の中にひっそりと、でもあちこちにあって知らずに通り過ぎる場合もあればいつの間にかそこに立たされたりする。らしい。怖かった。

  • ノンフィクションだと持って読んでいたため、ガッカリ感が半端なかった。
    確認してなかった自分が悪いが、思っていた作品と違って、たらればで書かれていて私は好きじゃない。

  • 私は人を殺すのも人に殺されるのも怖いのです。どちらも最悪な事態であって、回避したい。しかし、回避するには殺人について誰よりも知らなくてはいけないのです。ですから、私は殺人についてよく知るために、それらの話を収集しています。
    ***
    先日読んだ「文藝モンスター」の作者二宮敦人さんの小説。前作はコミカルなミステリ小説だが、表紙から醸し出される殺伐とした感じからもわかるように、こちらは正真正銘のホラー小説。実際に人を殺した殺人者たちのあらましを独白という形で、内容は狂気の沙汰ばかりだ。
    この作者さんの本を読んだのは、まだこれで二冊目なので偏見の極みのような発言だが、この人の本はこれだよな!という感じだった。 殺人者、しかもシリアルキラーや性癖をかなりこじらせている頭のねじが何本も吹き飛んでいるような面々ばかりが出てきて、読んでいるこちらが頭がおかしくなりそう。事件はどれも痛ましく、悲惨という言葉がふさわしいのだが、独白形式だからなのだろう。殺人者の成り立ちと、殺害方法、今まで起こしてきた事件の内容を、何ともない様なあっけらかんとした感じで語るので、深刻さが薄れてしまう。後味はどれも悪いのに、なぜか癖になる。読んでいる間は私も非常に深刻そうな顔をして読むのだが、読み終えると何故か腑に落ちていて納得している。 全く謎である。 以前もこの作者さんの本の感想を述べるとき登場人物たちが個性的で生き生きしている、という言葉を使ったが、もしや、今回の小説もこれが当てはまるからそう感じたのかもしれない。 やっていることは陰惨だし、起こった事件は惨劇でしかない。
    普通に殺すだけでは飽き足らず、遺体の損壊や、自分の欲望に忠実に動き独りよがりな犯行を繰り返すシリアルキラーもいた。だが、最初から最後までブレることなく、やり切る様はなんとなく美学の様な物を感じる。もちろん、真似をする気はないし、通常の精神状態の人間ではできるものではないが。 もしこんな事件が実際に起こってそれをニュースで見たり、新聞の一面で見たりしたら、最悪の殺人者としか思えない。なのに、そこ殺人者たちの人間性を加え、なるべくしてなったという背景を加え、それを独白という形で表現し、魅力的なキャラクターに昇華してしまう作者の手腕には舌を巻いた。
    そうか、私は彼らのキャラクターに魅力を感じたのか……。(栄光という話に出てくる男はまごうことなきクソ野郎だったが) しっかり犯罪の描写や殺人の描写、人が死んでいく描写が書き綴られているので、読む人によっては、悲惨で、グロテスクで、最悪な一冊かもしれないので要注意。後味は絶対に悪い。 そういえば、人間が与えるバイオレンスは苦手だったはずだが、この本はどうしてだか読めてしまった。 いつもは少し読んだだけでゲェッ、となるのに……。
    グロテスクであるのに、グロテスクじゃない。陰惨なのに陰惨じゃない、と感じるこの作者の小説は非常に私にとって癖になる不思議な本。なんて、面白い!

  • 犯罪心理学に興味があり、手に取りました。
    読んでいく中で、「どうして人を殺めることをしてしまう、できてしまう人がいるんだろう」という疑問についての答えが少しずつわかってしまった、そんな感覚になりました。
    人それぞれに、信じるもの、大切にしているもの、譲れないものがあり、それが度を超えてしまった「ふとした瞬間」に、私たち人間は人を殺めてしまうのかもしれない、と感じました。

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著者プロフィール

1985年、東京生誕。一橋大学経済学部卒。著書は他に「!」「!!」「!!!」「!!!!」「暗黒学校」「最悪彼氏」(ここまですべてアルファポリス)、「占い処・陽仙堂の統計科学」(角川書店)、「一番線に謎が到着します 若き鉄道員・夏目壮太の日常」(幻冬舎)などがある。

「2016年 『殺人鬼狩り』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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