- Amazon.co.jp ・本 (246ページ)
- / ISBN・EAN: 9784871986519
作品紹介・あらすじ
バブル経済に浮かれる時代の外務省キャリアの一家を主人公に、サディズムとマゾヒズム、価値の変換、両極の同位性を追求した傑作。リアリズムの極致とファンタジーが交錯する(『背徳の方程式-MとSの磁力』)。若者の偏執的な愛情を描く。三次元から二次元へのスライドと狂気(『人形-暗さの完成』)。一九七八年三月二十六日の成田空港開港阻止決戦、三里塚闘争をユーモラスに描く。生き生きと描写される新左翼活動家たちの闘争は、まさに現代の神話(『七十八年の神話』)。野村秋介と見沢はともに千葉刑務所に十二年収監されていた。野村と自分とを重ね合わせた、自伝的作品(『獄中十二年』)。遺品から発見された、未発表原稿。「主観的な真実」を信じ抜いた作家の原点。
感想・レビュー・書評
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「背徳の方程式 MとSの磁力」
著 見沢知廉
出版社アルファベータ
「僕は、古い人間だ。黴臭い骨董品だ。流行も好きになれなければ、会話も貧弱だ。陰気で友人も少ない。付き合っていて、全く面白くない。遊び場所も知らない。あるものと言えば、偏執狂じみた、片寄った一方的な情熱位のものだ・・・・・・僕は、取り残されている。・・・・・・でも、僕一人が浮き上がっている。僕だけが、違う人間だ。卑屈で悲惨な異邦人だ」(「人形ーー暗さの完成」)
いいねぇ。自意識過剰の自虐的ナルシシズム。青春小説の王道っちゃ、王道。
しかし、この文章が見沢知廉によって、書かれた物となると、そんな事はどうでもよくなる。
あんた、普通の小説も書けるのね。見沢知廉にこんな引き出しがあった事に驚いてしまう。
見沢知廉という作家、90年代後半に、活躍した作家である。しかし、経歴、作風から、サブカル好きには知られているものの、一般的な知名度は、そんなにない。
見沢知廉の簡単な経歴、1959年東京に生まれる。中学で非行に走り、高校在学中に、新左翼の活動家になる。1979年、新左翼の活動に失望し、新右翼の活動家に。英国大使館火炎瓶ゲリラなどを指揮するも、1982年に同じ組織の人間を、公安のスパイと疑い、殺害。懲役12年の刑を受ける。1994年、出所直前、獄中で書いた「天皇ごっこ」が、新日本文学賞を受賞。出所後は、獄中の体験に基づいた小説「調律の帝国」が、三島由紀夫賞候補になったり、獄中体験記の「囚人狂時代」がスマッシュヒットする。
が、以降は寡作となる。12年間の刑務所生活の後遺症が心身共に蝕んでいったのだろう。2005年、自宅マンションから飛び降り自殺。
てな、作家である。
見沢の作品の舞台は、右翼、左翼の政治思想の話と、獄中がほとんど。で、小説家としての技量も、大した事ない作家だと思う。けど、見沢作品から感じられる不器用で暑苦しく、狂っている情念が、俺は好きなのだ。
今回、見沢の死後、残された原稿から、この短編集が出版された。見沢としては、もっと推敲を重ねたかったかもしれない。
今回の短編集の中で一番印象深かったのは、冒頭に引用した「人形」である。見沢の作品で、唯一と言っていいのではないのか?政治の匂いが全くせず、冴えない、持てない大学生の男の話である。作品後半は、やっぱり物騒なオチがついてるが、見沢作品にしては、かなり普通に冴えない若者を描いている。
で、思うのだ。見沢知廉も、右翼だ、左翼だ、いう前に普通の男の子だったんだなぁ、と。
「人形」という小説は、見沢作品にしては、ポップである。見沢作品で、一番読みやすい。しかし、なんで、生前発表されなかったのだろうか?なんだか、見沢は、「異端児」である事にこだわり過ぎて、自ら作風を狭めていったのでは、ないだろうか?
今回収められた4つの短編、表題作の「背徳の方程式」は、タイトルがカッコいいわりに、小説としては、評価しないが、それ以外の「人形」を含む、3つの短編のどれもが、肩の力が抜けた作品だった。これまでの見沢作品を読んできた人からすると、違った見沢を知る事ができる作品集、あくまでファンアイテムな作品だが、唯一、俺が、全ての作品を持っている作家なので、日記に書いてみたかったのだ。
もし見沢知廉に興味を持ったら、小説は「天皇ごっこ」、エッセイは「囚人狂時代」を俺は、勧めます。詳細をみるコメント0件をすべて表示