台湾抗日小説選 (研文選書 41)

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  • 研文出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (285ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784876360840

作品紹介・あらすじ

本書に収録した作品は、日本統治下に白話文で書かれたもの、新聞、雑誌に公表されたもの、抗日意識を基調とするもの、である。作家は殆ど全員が当時の啓蒙運動、社会運動に深く関わっていた人たちで、作品は1920年代から30年代の日本統治時期の台湾社会の一面が、どのようなものであったかを語っている。作品はおしなべて写実的手法で書かれている。筋の設定も作者の見聞に基づくものが多く、作者自身の体験をふまえた私小説的なものもある。

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  • 1929年台湾生まれ、台湾大学卒業の陳逸雄氏が、日本統治時代の台湾新文学の中から、抗日的な短編小説を選んで翻訳し、収録した短編小説集。抗日小説選と題されているが、霧社事件のような直接の武装闘争を描いた作品はなく、日本の植民地支配権力の横暴さと、その中で生きる台湾人の悲哀、そして民族的変質を描いた作品が多い。また、一部に、政治的抗日組織であった、アナキズムの台湾黒色青年聯盟と、マルクス=レーニン=スターリン主義のコミンテルン支部台湾共産党について描かれた作品も存在する。

    “ 台湾新文学には発足当初から、底流に強い民族意識が脈打っていた。周知のように日清戦争の結果、台湾は一八九五年日本に割譲されたが、平和裏に移交されたのでなく、割譲に承服し(←3頁4頁→)ない台湾人民を制圧するため、日本は近衛師団を核とする数万の陸海軍を投入し、台湾の南北両地に上陸して現地義勇軍と長期にわたる戦争をせねばならなかった。注意に値するのは、義勇軍の指導者に徐驤、呉湯興、林李成、林維新など、筆を抛って従軍した読書人が多くいて、台湾防衛戦に殉じた人もいたことである。
     七年の歳月を経て、抗日義勇軍と抗日ゲリラが終熄した後も、山地原住民の武装抗争が間断なく続き、一方平地においても武装抗日事件が続発し、一九一五年(大正四年)に至って、多大な犠牲を払いながらも、連綿と続いた武装蜂起は山地を除いて一段落を告げた。
     こうした情勢の推移は、日本の台湾統治が軌道に乗ってきたことを示すもので、それに対応して武力抗日は、文化的手段による抗日へと方向転換することになった。啓蒙団体としての文化協会の誕生がそれであり、その思想系譜を文学の場で継承したのが、新文学運動であったとも言える。”
    (陳逸雄「まえがき」陳逸雄編訳『台湾抗日小説選』研文出版、東京、1988年12月1日初版第1刷発行、3-4頁より引用。)

    “ 本書に収録したような作品を読んで覚える感慨は、五十一年にわたる相当苛酷な日本統治下とはいえ、十二、三年の間こういう作品の発表が許されていたということである。一九五〇年代、六〇年代の台湾や中国大陸で、時の政治を批判するこんな作品が公然と存在できただろうか――答えは明らかにノーである。日本統治時代のほうが良かった、という意味ではない。差別、圧迫、収奪のない植民地政治があり得ない以上、いかに美辞麗句を連ねて治績を示しても、失われた人名と傷ついた魂を償うことはできないし、正当化できるものでもない。日本の統治が(←17頁18頁→)終結して四十三年の歳月が流れたが、その後遺症は今でも台湾に深い痕跡を留めている。ただはっきりしているのは、植民地統治の軛から解き放たれさえすれば、政治は自ずと良くなるものでもないということである。”
    (陳逸雄「まえがき」陳逸雄編訳『台湾抗日小説選』研文出版、東京、1988年12月1日初版第1刷発行、17-18頁より引用。)

    収録されている作品は以下の通りである。

    頼懶雲(頼和)
    「秤」
    「豊作」
    「事を惹き起こして「
    陳虚谷
    「無実を晴らす由もなく」
    「故郷に錦を飾る」
    「爆竹」
    楊守愚
    「十字街頭」
    「容疑」
    「処罰」
    蔡愁洞
    「保正さん」
    「一等賞」
    「新興地の悲哀」
    朱点人
    「秋の便りに誘われて」
    「抜け目ない男」
    王詩琅
    「没落」
    自滔
    「失敗」

    私が収録作品の中で最も強い印象を受けたのは、陳虚谷の「無実を晴らす由もなく」と「故郷に錦を飾る」であった。「無実を晴らす由もなく」は台湾人女性を強姦して回る日本人巡査の話で、「故郷に錦を飾る」は日本の高等文官試験に合格したらすっかり日本人らしくなり、台湾人らしくなくなってしまった学生の話だが、いずれも日治期にモデルになったような話があったのだと思い、暗澹たる気持ちになった。


    また、頼懶雲(頼和)は「台湾新文学の父」(本書20頁)の異名を取る人物であり、本書でその作品が読めたのは素直に喜ばしいことであった。ただ、小説よりも、人物紹介のところにあった漢詩の方が印象深い。

    夕陽
    日漸西斜色漸昏 日漸く西に斜(かたむ)き色漸く昏し
    発威赫赫意何存 威を発すること赫赫として意何くにか存る
    人間苦熱無多久 人間(じんかん)の苦熱多久(ひさ)しく無からん
    回首東天月一痕 首(こうべ)を回らせば東天に月一痕
    (本書21頁より引用)

    王詩琅は台湾黒色青年聯盟に参加していた台湾人のアナキストで、1927年に黒色青年聯盟に参加したこと理由となり、1年6か月拘禁されていた経験がある。本書に収録された「没落」は1935年の作品であり、台湾共産党も含めた台湾の抗日独立運動が全滅した後の虚しさが漂う、同時期の日本の転向文学のようなものを感じさせるものがある。なお、台湾黒色青年聯盟に関しては、アナキストではなく黒色聯盟に参加しなかった楊守愚も参加を疑われて弾圧事件に連座することになり、「容疑」にはその時の経験が描かれている。

    本書に収録された作品を、とりわけ私の同志であり大先輩である王詩琅の「没落」を、日本語で読めるようにしてくれた陳逸雄氏に心より感謝を申し上げる。

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