異端思想の500年: グローバル思考への挑戦 (学術選書 73)
- 京都大学学術出版会 (2016年1月20日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (357ページ)
- / ISBN・EAN: 9784876988730
作品紹介・あらすじ
マキアヴェッリ、スピノザ、ディドロなど、西欧近代には「永遠の人間観」にもとづいて既存の正統思想を批判し、時代を超える思考のグローバル化を試みたために、「異端」として排除されてきた思想家は少なくない。本書は西欧近代が誕生して以来500年のあいだに現れたオッカムからランゲに至る哲学、政治、経済、社会思想を環境に対する人間精神の果敢な挑戦としてとりあげ、現代に生きる発想の転換を迫る。
感想・レビュー・書評
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はじめに
第1章 永遠の相の下に
ギリシア人は神話を信じたか?
比較と差別
強力なのは身体
人間の頭のなか
想像力は欲望である
コペルニクス的転回
想像力の作用主
自由と主体の結びつき
存在と本質
人間の本質
必要は発明の母
進歩と自由
第2章 宗教的思考からの人間精神の解放
1 オッカムの生涯と神学論争
薔薇は一般名詞
時代が待っていた人物
オッカムの剃刀
理性と信仰の分離
異端嫌疑
代置理論
代置の危険な罠
唯名論的聖餐論
司式者と奇蹟の多発
正統教義における聖餐論
オッカムの聖餐解釈
清貧論争
ドルチノ派異端
千年王国の実現
オッカムの破門
宗教改革の先駆者
晩年のオッカム
2 オッカムの教会制度改革構想
信仰に至る理性の道
信仰に至る聖書の道
信仰に至る最後の道
ローマ法王も無謬ではない
法王権力の限定
信仰におけるマルチチュード
3 パドヴァのマルシリウスと帝権主義
ウィリアムの回想
時代が待っていたもうひとりの人物
ルートヴィヒの宮廷顧問になるまで
驚嘆すべき著作
マルシリウスの演出
マルシリウスとルートヴィヒ
4 『平和の擁護者』について
統治体の動力因
人間の法
聖書による教会論
マルシリウス政治思想の特徴
第3章 異端の国家観の系譜—マキアヴェッリからスピノザへ
1 政治学の宗教からの自立
統治者たちが愛読した『君主論』
密かなる政治的計画
宗教改革の先駆者
模範としてのローマ国家
2 マルチチュード概念と国家契約説の否定
少数者による多数者の支配
マキアヴェッリの国家統治論
3 『神学=政治論』におけるスピノザの国家観
自然権としての思考の自由
マルチチュードの力を実現する
「舌」の自由の確立
信仰の自由と真の宗教
永遠の人間本性と自由
4 『国家論』に見るオランダ政治
『国家論』執筆の動機
戦乱のなかの謎の行動
5 オランダ共和制の瓦解とマルチチュード論
貴族国家オランダ
オランダ共和制崩壊の原因
第4章 植民地グローバリゼーション時代の世界史
1 『両インド史』とレーナル
啓蒙末期のベストセラー
天才的編集者レーナル
『両インド史』第三版の刊行と出版弾圧
レーナルの亡命と帰還
2 『両インド史』とディドロの寄与
広大な地域に及ぶ世界史的叙述
『百科全書』的テーマ
ディドロの叙述の魅力
ディドロの自然主義的人類学
3 ディドロは『両インド史』をどう書いたか
歴史と主体
社会変革への呼びかけ
4 ディドロの反植民地主義と奴隷解放論
植民に関するディドロの原理
ヨーロッパ・グローバリゼーションの罪悪
植民地主義の告発
奴隷貿易廃止論
5 新しいスパルタクスをめぐるランゲとディドロ
白いスパルタクス
アンシアン・レジームの病根
革命的宣言
第5章 蘇るランゲ
1 忘れられた天才的社会理論家
反啓蒙のジャーナリスト
ランゲとマルクス
自由と社会は両立しない
社会が先か、奴隷制が先か
狩猟社会の食料危機
生きることはパンを食べること
社会の発展と自由の主張
モンテスキュー批判
奴隷制廃止の原因
東洋的専制の擁護
2 ランゲの社会観
真に自由な状態とはなにか
自由の喪失と社会状態=奴隷状態
社会の根本原理
苛酷な競争社会
3 近代の奴隷制
法律の制定
奴隷はなにを持っているか
近代の奴隷制の特徴
マルチチュードの叛乱権
第6章 思考する「力」に関する考察
一元論を語る勇気
カント二元論の謎とき
欲望一元論への恐れ
真理と「舌」
真理は力である
勇気は相対的なもの
勇気の中身
常識を打破する勇気
真理に口なし
恐怖はどこから?
理性と自由の実現詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ネグリによって提出された「マルチチュード」の発想に通じるような思想を、西洋近代の思想史のなかから掘り起こし、その意義を解明している本です。
本書でとりあげられている思想家には、ネグリが参照しているスピノザのほか、マキャヴェリやディドロといった著名な思想家たちも含まれていますが、そのほかにも唯名論的な立場から自由な個人の立場を明らかにすることでキリスト教の世界観に風穴を開けたウィリアム・オッカムをはじめ、パドヴァのマルシリウス、『両インド史』の執筆にたずさわったギョーム=トマ・レーナル、マルクスの先駆ともいうべき業績をのこしたシモン=二コラ=アンリ・ランゲなど、マイナーな思想家たちについても、立ち入った考察がなされています。
西洋社会思想の裏面史のような内容で、通俗的な社会思想史の入門書などでは見えてこない思想史的水脈の存在を教えられ、たいへん興味深く読みました。 -
かなり面白かった。表紙はブリューゲルのイカロスの墜落。
タイトルの「異端思想」は宗教的な意味合いではなく、圧倒多数の常識に反する思考力をもった思想家、ぐらいの意味合い。
扱っている思想家は、各章で
オッカムのウィリアム,パドヴァのマルシリウス
マキアヴェリ,スピノザ
レーナル,ディドロ
ランゲ。
名前ぐらいしか知らない思想家が多く、僕みたいな半可通にはちょうど良い。
著者ははっきり進歩史観を否定していて、時代の束縛を逃れるほどの強靭な思想であれば、その射程は現代でも有効だと考えている(いわく「永遠の相の下」に考える)。
オッカムのウィリアムは、もちろん『薔薇の名前』のバスカヴィルのウィリアムのモデルだが、著者もばらなま好きらしく、ちょくちょく話が出てきた。
レーナルの『両インド史』は、啓蒙主義時代の植民地主義批判の大著で、当時のベストセラーだったそうな。百科全書的な目次だけでも面白かったので、早速最初の一巻だけamazonで買った(定価の1/10ぐらいになってた)。