凍りついた香り

著者 :
  • 幻冬舎
3.50
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本棚登録 : 294
感想 : 49
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  • Amazon.co.jp ・本 (325ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784877282233

作品紹介・あらすじ

プラハへ。死者をたずねる旅に出る「新世界」ミステリー書き下ろし長編。

感想・レビュー・書評

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  •  母の期待に応えるべく頑張ったあげく、押しつぶされ、逃げた息子。息子が全てでの
    めり込み、精神をやんでいる母。兄も母も見捨てず尽くす弟。愛した男に自殺され、原因を探るうち、男のことを何もしらなかったと気づかされる主人公。
    みんな悲しい。何だか歪んでいる。
     これがほんとだよ、変わっているのは貴方かも知れないよ、と言われているような、淡々とした文章。小川洋子の作品は、いつもそんな気分にさせられる。

  • 恋人の調香師が自殺。
    残された主人公は、プラハヘ、遠い香りの思い出を手繰り寄せる旅へ出る。

  • 自殺した恋人の過去を求めて彷徨う主人公。

    隣にいるべき人がいてくれさえすれば、過去など要らない。
    過去が必要なのは、あるはずだった未来の代わりに、こぼれ落ちてしまった空白を何かで満たさずにはいられない、切実な喪失感からだと思う。

    知れば知るほど自分の知らなかった過去が掘り起こされる。
    けれど、それは主人公が恋人のことを知らなかった、ということにはならない。
    本当に繋がっている者同士においては、たとえそれが虚構(あるいはその人の一部)であったとしても、相手が自分に見せている部分が、その人が与えたかったものの全てなのだから。
    ましてそれを貫き通したまま去っていったのであれば、それこそが相手の本質、最も大切な真実なのだと思う。

    だからこそ死者の気持ちを代弁するのは不粋に過ぎる。としても、敢えて最後に香水を送った気持ちを想像で補完するならば。
    語ることのなかった過去の全てを、言葉にすれば嘘になってしまう種類のものを、自分にとって唯一真実に値する、香りという形で主人公に贈りたかったのだろうか…。
    それだけでもう、あぁこの人は心から愛されていたのだろうな、と、そんな風に思う。

  • 丁寧な描写で死んだ恋人の過去を探っていく作品。
    日本での話とプラハでの話が交互に来ていて、少しずつ自分の知らなかった恋人の姿が明らかになっていく構成。
    自分が過去を偽られていたという虚しさや自分の知らない過去を知っている人が居るという嫉妬心を決して激情するわけではなく静謐に描き出していた。本当にこの人は日本語が綺麗。
    最後まで読んでも、自分が教えもしなかった過去を何故香水に込めて贈ったのかは分からなかった。読み直したら何か分かるんだろうか…?

  • 2度目・・・
    凍ってはいないんじゃない
    モヤモヤは続く
    面白かったけどね

  • 調香師という仕事をしていた弘之が、香りによって記憶を定義付けしている部分の描写が、とても小川洋子の文章が持つ静けさと美しさにマッチしていて読んでいて、不思議な気持ちにさせられました。「凍ったばかりの明け方の湖」「締め切った書庫。埃を含んだ光」この2つが特に好きです。

    主人公である涼子の恋人、弘之が死んでしまったところから始まる物語。涼子は、弘之の弟と弘之の生きた記憶を辿ったり、彼らの実家に訪れたり、プラハに旅立ちます。何が現実で、何が幻なのか。温室に孔雀とともにいた人物は何者なのか。

    弘之が自殺してしまった理由も明らかにはなりませんでした。小川洋子の世界にどっぷり浸かった事による疲労感と、結局物語のなかで何が起きていたのかわからないまま終わる、突き放されたような感じがとってもすきな一冊でした。

  • 死んだ恋人が作った香水から始まる旅の話。
    作者らしい、奇妙なエピソードが次々と待ち伏せしていて、想像力の豊かさに圧倒される。
    文章も端正。
    ただ、イメージの広がりは彼女の優れた特色だと思うのだけど、私は一点に集約していく物語が好きなこともあり、最後まで幾つかの点に物語が散らばったままに感じられ、読み終えて少し戸惑った。
    けれど読後感は良い。

  • 数学の規則性が持つ静謐さや、調香師など一般的ではなく謎めいた職業を描くところが小川洋子らしくてよい。
    ただ謎にうっすらと包んだまま終わるには長編だと物足りない感じもある。

  • あなたをどんな香りとしよう。

  • 30歳で突然自ら命を絶った弘之(ルーキー)と1年間同棲していた涼子の前に初めて登場した弘之の弟・彰。彰から聞く弘之の過去はあまりにもかけ離れた姿でした。その謎を求めて涼子が仙台の史子を訪問、そしてプラハへ。亡くなった弘之のスケート、数学そして香りへの天与の才能と爽やかな人柄は印象に残ります。同じ著者の「博士の愛した数式」を思い出しました。それだけに、弘之が何故死を選んだのか、何故、脚本家であるなどと履歴に嘘があったのか、など疑問のままであることが、十分に熟成していないのではないかと、やや残念です。

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著者プロフィール

1962年、岡山市生まれ。88年、「揚羽蝶が壊れる時」により海燕新人文学賞、91年、「妊娠カレンダー」により芥川賞を受賞。『博士の愛した数式』で読売文学賞及び本屋大賞、『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞、『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞、『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。その他の小説作品に『猫を抱いて象と泳ぐ』『琥珀のまたたき』『約束された移動』などがある。

「2023年 『川端康成の話をしようじゃないか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

小川洋子の作品

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