引き裂かれた身体―ゆらぎの中のヘミングウェイ文学

著者 :
  • 松籟社
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  • Amazon.co.jp ・本 (305ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784879842619

作品紹介・あらすじ

ヘミングウェイは生涯、身体を描きつづけた作家でした。作家生活の最初期から、最晩年の未完成の作品にいたるまで、彼の関心は終始人間の身体に向けられていたのです。「未開」の地で出産する女性の身体、戦場で近代兵器によって粉々にされる兵士の身体、突進してくる牛に剣を突き立てる闘牛士の身体、アフリカの平原で壊疽に蝕まれる身体、性病に感染して肉が崩れ落ちつつある娼婦の身体、あるいは老いて思い通りに動かなくなった漁師の身体……。ヘミングウェイ作品には身体の描写が満ちあふれています。
 そして興味深いのは、それらの描写からかいま見えるヘミングウェイの身体観なのです。

 ヴィクトリア朝期アメリカのいわゆる「お上品な伝統」の中で、旧弊な価値観を持つ厳格な両親に育てられ、二〇世紀の新しい価値観を目の当たりにしながら青年時代を過ごしたヘミングウェイ。彼は、ちょうどこのふたつの価値観の過渡期に作家生活を始めました。彼の作品には古い世代に対する反抗心と、新しい価値観に対するあこがれが色濃く映し出されていますが、その一方で自らの生まれ育ってきた古い時代の価値観を捨て去ることもできませんでした。表面上は新しい時代の作家として二〇世紀的価値観を唱道しているように見えながらも、その背後にはどうしてもぬぐい去ることのできない父親たちの価値観が強固に根づいているのです。いわば新しいものを求めながら、新旧の価値観の狭間で葛藤し、ゆれ動いていた――そういう意味でヘミングウェイ作品に現れる身体は、常に引き裂かれています。
 本書は身体の問題を中心に置き、ヘミングウェイが新しい時代の身体観と、それまで生まれ育つ間に植えつけられた旧弊な身体観とに引き裂かれ、苦しみながら作品を生み出していったさまを描き出す試みです。最初に伝記的事実を簡単にふまえた上で、四つの個別の問題系からヘミングウェイ作品を読み直します。まずは二〇世紀初頭、アメリカだけでなく全世界に圧倒的な影響を与えた第一次世界大戦と、その結果としての新しい身体観の問題を。次に痛みの問題、すなわち麻酔テクノロジーや道徳的麻痺の問題。そして三つ目に梅毒を始めとする性病とそれにまつわる性描写の問題。最後にファッションとしての髪型とジェンダー形成の関わりの問題をとりあげます。

著者プロフィール

九州大学大学院人文科学研究院准教授。
著書に『アーネスト・ヘミングウェイ、神との対話』、『下半身から読むアメリカ小説』(ともに松籟社)など。訳書に、『マクティーグ─サンフランシスコの物語』(幻戯書房)など。

「2021年 『テクストと戯れる』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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