帝都最後の恋: 占いのための手引き書 (東欧の想像力 4)

  • 松籟社
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感想 : 11
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  • Amazon.co.jp ・本 (200ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784879842695

作品紹介・あらすじ

本書の冒頭には、次のようにあります。「本書は、章の順番どおりに読むこともできます。あるいはタロットカードを用いて、タロットが示す順に、それぞれのカードに対応する章を読んでいくこともできます。この方法によってあなたは、カード占い、あるいはカードによる運命の予言を行うことができます。」
 章の順番どおりに読むと、

ナポレオン戦争を背景にした、三つのセルビア人家族の恋の物語、三たび死ぬと予言された男をめぐるゴシック小説……

のような物語が展開されています、とひとまず言えます。
 と同時に、本書の二十二の章は、タロットカードの、大アルカナと呼ばれる二十二枚一組のカードに対応していて、それぞれの章でカードの「鍵」の《秘密》が明らかにされる、という趣向になっています。手元に置いたタロットをめくりながら、出たカードに対応した章を読んでいく……そのようにしながら、作家が用意したテクスト群を、読者ひとりひとりがむすびつけて、一つの物語を完成させる――そのような読みも可能なのが、本書の大きな特徴です。

感想・レビュー・書評

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  • まだ読んでないパヴィチがあったんだ、ってことで読んでみた。パヴィチらしい、東欧っぽいちょっとしたダークファンタジー。タロットはまるでわからんのやけど、それでもおもしろい。

  • 日本で実際タロット占いをしながら、この本を読んだ人がいるんだろうか。その読み方だと、新しい世界が開けるんだろうか。私は普通の読み方しかしなかったけれど、それでも十分面白かったけど。レオ・ペルッツやキアラン・カーソンとかが好きな人にはお勧めです。

  • パヴィッチの作品が日本語で読めるそれだけで意味がある。

  • 少し苦いような知らない風味のハーブが混ぜ込まれた黒パンのような。知らなかった読みごたえ、消化しきれていない感覚。これは何度もめくって自分の中にリンクを組み上げていくのが楽しい本なのだと思う。一度通して読んだだけでは味わい切れていない感触が強くある。

    それでもとりあえずの感想を書くと、強すぎる父さんと母さん、家族としての連帯が非常に薄い各人のふるまい、自由なのかもしれないけれど自由意志があるとも思えない男女の結びつきが、海外小説のなかでも知らない部類の感触。神話的・昔話的だというのもあったのかな? なにか「とって喰われそう」な荒々しさがあって、新しい読書体験だった。

    訳者解説がよい。他の作品やパヴィチ自身についてもくわしく書かれている。

  • タロットを用いた小説。

  • [ 内容 ]
    ナポレオン戦争時代を舞台に、セルビア人3家族をめぐる奇想にみちた愛と運命の物語が、タロットカード(大アルカナ)の1枚1枚に対応した22の章につづられる。
    章の順番どおりに読めばひとつの物語があらわれる。
    タロットが示した順番に読めば、また別の運命、別の物語が…。
    読者参加型小説。

    [ 目次 ]


    [ 問題提起 ]


    [ 結論 ]


    [ コメント ]


    [ 読了した日 ]

  • うーん……ところどころ目をひく点はあるものの、自分にはあわなかったようだ。タロットに関連づけた話なら、先に読んだ『宿命の交わる城』のほうが好みだったなあ。

  • セルビアの大作家ということであるが。豊富な東欧のイマジネーションの洪水はさすがに見事だが、あまりタロットのなじみのないというか理解のない人間にはよくわからない。きっとそれぞれの項目(どこから読んでもいいらしいので)に孕まれた意味があるのだろうが。他の作品も、とまではいかない。面白くないわけじゃないが。

  • 私にとっては「風の裏側」に次いで二冊目のパヴィチ。昨年この作品のことを知り買ったきり積んでいたが、先日一気読み。
    うーん、相変わらず感想の言いにくい作品だ。
    本書の不思議な仕掛けは、「占いの手引書」という副題があらわしている。
    この作品は各章がタロットの大アルカナ22に対応している。作者によれば前から順番に読むのではなく、タロットの結果で出た章を読み、その内容を占いの結果として読み解くこともできるとか。
    折角なので、この作品のためだけに生まれて初めてタロットカードを買ってみた。巻末に載っている方法で選び出したカードは「皇帝」。
    しかし読んではみたものの、完全に初見で、巻頭のWho'swhoにも目を通してなかったのでやはり消化不良に感じ、結局は最初から順番に読んだ。
    内容としては、ナポレオン戦争時代を背景にした、セルビア人3家族の物語。寓意に富んだ幻想的な文章なので、どこか神話を読んでいるような気分になる。性的なネタもばんばん出てくるのだが、乾いた筆致のためなまぐささはない。むしろ独特の表現で綴られる閨房の描写には、時には笑ってしまうこともあった。「風の裏側」にも出てきたが、「舌でボタンを外す」っていうのはなかなか好み。

    それにしてもこの作家の魅力は表現しにくい。私自身、「好きな作家は?」と問われても、パヴィチの名前はまず出てこない。
    しかし本を閉じた後、何とも言い難い余韻が残り、時間を置いて時折ふと心に浮かんでくる。正直、似たような雰囲気のものを挙げようとしても思いつかない。本当にパヴィチだからこその味わいだなと思う。
    忘れた頃に今度はタロットを使って再読してみようかな。

  • ミロラド・パヴィッチは、セルビアの作家、詩人、文学史家で大学教授の肩書きを併せ持つ。それまでほとんど無名の存在であったが、1984年に上梓した『ハザール事典』で一躍世界的に知られることになる。その作品の特徴は、本はたとえ小説であったとしても、かならずしも初めから終わりまで読まねばならぬものではないことを明確に謳っていることだ。『ハザール事典』は事典形式で書かれ、好きな項目だけ拾い読みすることが可能だ。また、『風の裏側-ヘーローとレアンドロスの物語』は表と裏の両側から読み進め、真ん中で終わるという一風変わった形式を持っている。

    この最新刊は、副題に「占いのための手引き書」とある通り、タロットカード、大アルカナ22枚に対応する22章で構成されている。読者は巻末に附された三種の占いの方法に倣ってカードを並べ、決められた順にカードに対応する章をたどって読むことができる。無論タロットであるから、付属のカード(巻末に堅牢美麗な紙に印刷されたタロット・カード所収)を使って自分の運勢を占ってみることも可能である。

    目次に、各章に対応するカードの解説がついている。たとえば「愚者」の場合。カードが正位置に出たなら「首尾一貫性のなさ、けれども幸福な結末。選択が与えられている。いくつかの道。あらたな体験」。逆位置に出たなら「たくらみ。頭突きに注意。周囲から憎しみを示される」とある。解釈のしようにもよるが、どうやら物語はカードの解説に対応しているようだ。何とも不思議な本だが、もちろん、ふつうの小説のようにはじめから読んでも無類に面白い。

    物語の舞台は、ナポレオン戦争当時の東ヨーロッパ。トリエステの船主で、劇団の所有者でもあるフランス軍騎兵隊大尉ハラランピエ・オプイッチは、劇団に自分の「三つの死」の場面を上演させていた。それによると、第一の死は1789年の熊によるもの、第二の死は1797年のオーストリア軍大尉バホミエ・テネツキによるもの、そして第三の死は1813年、オーストリア軍少尉アヴクセンティエ・パピラによるものであった。

    実は、ハラランピエは「第一の死」で死んでおり、その後は吸血鬼として現れていたことが、最初の人物紹介で明らかにされている。第二の死の相手テネツキは、芝居とは逆に吸血鬼のハラランピエに殺され、その息子パナ・テネツキは、復讐として父の敵の息子であるソフロニエを殺そうとする。パナに刺され、タロット・カードの「吊された男」そのままに戦場に遺棄されたソフロニエを救ったのは奇しくもパナの妹イェリセナであった。二人は後に結ばれることになる。

    この両家の確執に加え、戦場でバホミエにつき従っていたラスティナが、その死後ハラランピエに鞍替えし、男の子を身ごもる。その後地元の豪商に嫁いだラスティナは娘を生む。この種違いの兄妹をはじめ、人間関係は麻の如くに入り乱れ、物語は展開するのだが、バロック的というか歌舞伎的というか敵同志が惹かれ合ったり、義理の娘が父を恋したり、実の母と子が愛し合ったりとその乱脈ぶりはただごとでない。おまけに例の如く魅力的な悪魔が登場するなど、ミロラド・パヴィッチならではの一筋縄ではいかない筋立てとなっている。

    サーベルにランタンを吊しておき、暗闇で待ち伏せして、来かかった相手を斬り殺すという『ハザール事典』にも出てきた剣法が第三の死の場面で使われているように、サービス精神旺盛なパヴィチのことだ、自身の他の物語からの引用や言及も事欠かない。読む愉しさはふんだんに用意されている。

    読者は好きな読み方で読むことができるが、どこから読んでも題名どおり「帝都」における「最後の恋」がすべてを収斂することになる。ちなみに「帝都」はセルビア語でツァーリグラード。ツァーリは「皇帝」、グラードは「町」なので、「帝都」と訳されているが、英訳ではコンスタンティノープル、つまり現在のイスタンブールのことである。

    その「帝都」イスタンブールはアヤソフィアにの柱に掛けられた楯の穴に親指を入れ回転させることで、祈願は成就するのだが、何かを得る者は何かを失わねばならない。はたして、それは何なのか。最後のカードをめくって、その結末に至るとき、官能的なまでに入り組んだ波瀾万丈の物語が、まるで砂上の楼閣であったかのような不思議な眩惑感に襲われる。バロック的な恋愛物語とも愛と憎悪の渦巻く復讐譚とも、カードの並べ方しだいで幾重にも印象を変える。あなたには、どんな物語が待ち受けているだろうか。実に蠱惑的な意匠を身に纏った物語である。

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著者プロフィール

セルビアの作家・詩人・文学史家。1929年、ベオグラードにて生まれる。
ベオグラード大学卒業後、編集者として働きながら、大学でセルビア文学史を講じ、創作や学術論文の執筆を行う。1967年、詩集『パリンプセスト』で詩人としてデビュー。70年代から80年代前半にかけて、セルビア文学史をまとめた大著を刊行した。1984年に発表した小説『ハザール事典』がその斬新な形式ゆえに話題となり、一躍世界的な名声を得る。その後も、小説を読む行為に読者をより能動的に関わらせる仕掛けを施した作品を多数発表。
2009年、生地ベオグラードで逝去。

「2021年 『十六の夢の物語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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