1972青春軍艦島

著者 :
  • 新宿書房
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  • / ISBN・EAN: 9784880084046

感想・レビュー・書評

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  • 閉山直前の軍艦島で働いていた筆者が、当時の写真にエッセイを添えた一冊。懐かしい昭和な空間だけど、なじみの無い空気を感じさせる軍艦島。ファインダーに向けられる柔和な島の人々の表情が印象的。島の暮らしを振り返るエッセイは、まるで異国の旅行記を読むようで新鮮です。

  • 人がいた頃の軍艦島の写真は見た事がなかったので、大変興味深く読みました。
    先に読んでいた『軍艦島全景』の写真を思い浮かべながら、これはあそこかなぁとか思ったり…。
    筆者は、軍艦島に来る前は将来への不安などを抱えていた様ですが、写真と、添えられた文章には夢と若さがあふれていました。
    何より、島に生きる人たちの表情がとてもいいです!!

  • 元島民である「軍艦島を世界遺産にする会」の坂本道徳理氏は先日放送されたテレビのインタビューで印象的なことを言っていた。正確な言葉は忘れましたが、こんな感じだったと思う。

    観光だけでなく、軍艦島が残した未来へのメッセージを感じて欲しい。私たちは炭鉱がなくなり、島を捨てました。しかし、資源がなくなったからと言って、私たちは地球を捨てられますか?

    軍艦島は廃墟として有名である。

    廃墟の魅力はそこに濃厚な時間を感じるからだといった文脈で語られる。

    最高の廃墟というものは、人が蒸発したかのように消え、人知れず残っている状態なのだろう。そういう意味では上陸不能の軍艦島は「完璧な廃墟」であった、と言える。上質なワインのように大海という完璧な”セラー”の中で熟成したのだ。

    今回、観光地化されたことで、軍艦島は、廃墟としての魅力は少し薄れるのかもしれない。だが、軍艦島が上陸可能になったことはやはり意味は大きい。

    僕の祖父は軍艦島の隣にある島、高島で一時期を過ごしたという。高島も端島と同じように炭坑で栄えた島だった。祖父は沖合にある軍艦島を見て過ごしていたに違いない。

    「1972 青春軍艦島」は廃墟ではなく、生きている(晩年)の軍艦島を捉えた写真集だ。

    当時、27歳だった写真家の大橋さんは日当の高さに釣られて、軍艦島に渡る。約半年間、炭鉱の下請け労働者として働いた時に、撮影したフィルムを33年ぶりに現象してまとめたのだという。

    当たり前の話だが、写真には建物だけなく、必ず人がいる。そして、その表情が生き生きとしている。終盤には、島で起こった火災を捉えたショットもある。

    その火事では一人の方が亡くなった。葬式が行われる。島には葬儀所はなく、軍艦島と高島の間にある中ノ島で埋葬される。父を亡くした家族。一家の大黒柱を失った子供の表情が、悲しみを物語る。中ノ島に出る船を見送る人々の後ろ姿。それは島の終焉とも重なる。事実、大橋さんが島を出た後すぐ、炭坑の閉鎖とともに無人となるのだ。

    写真の数々は最後の島の姿、そこで暮らす人々の姿を活写しただけでなく、非情にもストーリー性を持っていることに何ともいいようのない感情を覚えた。

    完璧な廃墟にも魅力はあるが、誰もいない建物はやはり、悲しい。これは改めて同書を見て気づかされたことであった。

  • 廃虚の写真目当てで手にとってみたが、写真集じゃなかった。
    著者が軍艦島で短期アルバイトをしたいた時の思い出を写真とともに綴りつつ、みたいな。
    内容はいたって明るい(?)ものなのに表紙のデザインで損してるような気がしないでもない

  • 明治以来80年ほども採炭のために存在した長崎市沖合いの端島。島直下や周辺海底の石炭を採掘するために島には集合住宅や学校まであり、世界一人口密度の高い島と言われたとか。形状が軍艦に似ていることから軍艦島とも呼ばれたが、昭和49年に閉山。軍艦島という今は無人の島を知ったのはいつころだろうか。ぎっしりと立ち並ぶ集合住宅で暮らす人々。風を通すために各部屋の戸や窓は開けっ放しで、「見えても見えない」という島のルールがあった、という新聞記事からその特殊な生活形態に興味を持ったことを覚えている。で、これまでにも何度か写真集は手に取ったけれど、それは今は廃墟となっている軍艦島のものばかりで、壊れていくものの悲しさ、人間の息遣いの残っているからこその侘しさは感じられたものの、実際に稼動していた時の写真が見たいなぁ、と思っていた。で、たまたま手に入ったこの写真集。今も現役の写真家である大橋弘さんが、風来坊の若いころ、実際に軍艦島で働きながら撮り貯めた写真とそのころのルポという構成で、これだぁ〜〜、私の読みたかったのは、と興奮しながらページをめくりました。大橋さんは採炭には関わっておられず、そのために資材運びがメインの仕事だったので、炭鉱の中が撮れなかった、と残念そうに書いておられたが、私は島に生活する人々の日常が見たかったのだからむしろ願ったりかなったり。大橋さんのお人柄からなのだろうか、カメラを向けられた人々のゆったりした笑顔が、あぁ、ここに生きていた人たちなんだなぁ、という実感を与えてくれ、とても嬉しかった。また、写真に添えられた文章が、そこに暮らしていた人ならではの臨場感があり、特に、よそ者としての自分、いつかはまた元の世界に戻るはずの自分を見つめながら、若さと時代を伝えてくれたのもよかったし。そして、平成になってから再び軍艦島に入る大橋さん。自分の部屋があったところはすっかり廃墟となり、でも、かすかに残る生活の跡に万感の思いが。また、「人間が作ったコンクリートの塊、軍艦島が、また長い時間をかけて自然に帰っていく」という描写には私にも深い思いをもたらして。滅び行くものの美しさという観点から脚光を浴びることの多い軍艦島ですが、タイトルどおり、「青春軍艦島」を見れて、よかったです。

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著者プロフィール

東京大学公共政策大学院・大学院経済学研究科教授

「2020年 『EBPMの経済学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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