ドラマトゥルク: 舞台芸術を進化/深化させる者

著者 :
  • 三元社
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感想 : 3
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  • Amazon.co.jp ・本 (269ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784883032785

作品紹介・あらすじ

近年日本でも「ドラマトゥルク」を名乗る者が現れている。しかし演劇・ダンス界の当事者すら、まだその本当の役割を知らない。ヨーロッパの舞台芸術制作の現場では必須の存在となっている彼らは演出家でも脚本家でも役者でもない特別な位置に立ち、作品にかかわる全ての者・事をつなぎあわせ、より高い次元に導くための知的で人間的な機能を果たしている。ドラマトゥルクの知られざる歴史と役割を初めて詳しく紹介し、日本における導入の可能性についても考える。

感想・レビュー・書評

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  • まさに僕の果たしている役割はドラマトゥルク的なものなんだな、と思った
    僕は演劇関係者ではないけども、自分のプロジェクトにおいての立ち回りはまさにドラマトゥルクだな、と思った

    そして、そういう立ち回りの指針になるのでは、と期待して読んだのでバッチリだった

    ただ、ドラマトゥルク本人ではなく、あくまで研究者による調査、観察なので、体系的ではあるが、血は通ってない内容と感じた
    実体験の伴った内容ではない

    「老いと踊り」という本を読んでて出てきた見慣れぬドラマトゥルクという言葉に惹かれてこの本を読んだんだけども、ドラマトゥルク当人の言葉としては、「老いと踊り」の中心であり、この本にも出てくる中島那奈子さんの言葉のほうが響く

    演出家や俳優がまず生み出すものを、最初の試作品ととらえ、その最初の観客者としてフィードバックをうんでいく、という制作ドラマトゥルギーの役割、うんうん、とても(シロートなりに)よくわかる
    観客ドラマトゥルギーについても、よくあるマーケティングやプロモーションの本では語り得ない観客との関係の在り方が描かれてて、そうそう、こういう関係性からよね、これからの時代、と思った

    がんばろ

  • おもしろい本だった。
    ドラマトゥルクの役割、歴史から現場での具体的、実践的な仕事内容や方法論までが、著者の膨大な資料研究とインタビューによって書かれていてとても分かりやすい。演劇の専門用語もそれほど目立たず読みやすい。

    日本の演劇にも

     演目ドラマトゥルギー:劇場で何を上演するか、戯曲の掘り起こしから
     制作ドラマトゥルギー:演出がブレないように稽古を外の目で見る
     観客ドラマトゥルギー:観客の作品理解を深めるための演劇教育
    (教育のための演劇でも演劇が上達するための教育でもなく、作品の演出意図と演劇の媒体特性を理解するための教育)

    が必要、というのは大いに賛成。

    ただ、疑問もいくつかある。

    ドラマトゥルクはドイツが発祥で、18世紀から必要性や理論が語られていたものの現代でさえうまくいかない事例もあり、うまくいかないことや晒されている危機について、ドラマトゥルク自身たちが自らを批判しながら議論するというのも素敵だと思うが、であるなら、日本の演劇にもドラマトゥルク必要!ぜひともドイツ方式(=公共劇場の職員)で!というのはピュア過ぎる気がする。もちろん、著者は、今の日本の演劇制作では、名ばかりドラマトゥルクになってしまうと危惧も述べているが。

    イギリスとアメリカでもこの十数年、ドラマトゥルクの導入が公共劇場で試みられているが、イギリスの場合は戯曲&作家>演出、アメリカの場合は反知性主義によってうまくいってないらしい。
    それぞれの国でドラマトゥルクたろうとした人たちの資料も引用されているが、いずれもうちの演劇は知的でなくて遅れていて、といった内容だ。ここはぜひ、反対意見も聞いてみたいところである。単に演劇業界の権威構造の問題なのか、プライオリティの違いなのか。(生み出した経済学者の違いじゃないの?とか…)

    でなければ、日本で導入するときもうまくいかないと思う。
    なにしろドイツ流は陸軍と50ヘルツとサッカープロリーグくらいで(他は知らない)、ほかはアメリカ式とか英国式の国なので。

    (蛇足:先に挙げた3つのドラマトゥルギーだが、こんなことはハリウッド映画やアメリカのドラマ制作でだってやっている。あの人たちは「知的」とか「美的」とかいうのがどういうことかは分かった上で、敢えて、よりたくさんの人に見てもらえる可能性の高いことを選ぶ。優先順位が違うだけ。その意味では「芸術」ではないワケだけど。)

    もう一つ、日本でドラマトゥルクが活躍するには公共劇場でないといけない理由もよく分からない。

    私に前知識がないからだが、公設公営のことなのか、公設民営(指定管理者?)でもいいのか。ドラマトゥルクの仕事はマネジメント的でもあるワケで、まさか正職員の公務員?あるいは、不安定でない雇用形態というだけなら別にどっちでもいいんじゃないか、むしろ今の日本の公共ホールの雇用形態に不安定でないものはない。

    日本の民間劇場は娯楽芸能寄りが多いが、在京の美術館なら民間企業がやっているものの方が圧倒的におもしろい。自治体がやってることは保守的でつまらない。ときもある。

    芸術性を高めるために不安のない予算を確保したいということなら、「公共」でない選択肢があってもいいんじゃないの?とか。(ロレックスとか…http://www.rolexmentorprotege.com/en/theatre/index.jsp
    自由度の話でいうなら、日本の「公共」はびっくりするくらい超保守的ですよ。金の出所だけの話ならどこからでも同じ。たくさん準備しときましょうよ。

    今後経済成長なければ公の財政状況だってまずくなるのはわかりきっていることなワケで。(そのときは企業の方が見切りつけるの早いけど。)

    採算性とか費用対効果とかを集客や収益性とだけ思い込むのもどうだろう。
    結局は、ゴールは何か、それを測る指標は何かということなだけなので、別に他の指標を設定すればいいだけの話(大変だけど)。


    (1990年代のドイツの財政悪化はそれこそすべてが「公共」だった東のせいじゃないの?ということは書かれていない。)

  • おれがしたいのは、これなのだ

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著者プロフィール

慶應義塾大学文学部教授。演劇学・ドイツ演劇。
著訳書に、
『在と不在のパラドックス  日欧の現代演劇論』
(平田栄一朗 著、三元社、2016年)、
『ドラマトゥルク 舞台芸術を進化/深化させる者』
(平田栄一朗 著、三元社、2010年)、
『バルコニーの情景  ドイツ現代戯曲選30
 第22巻』
(ジョン・フォン・デュッフェル 著、平田栄一朗 訳、
 論創社、2006年)他がある。



「2021年 『文化を問い直す 舞台芸術の視座から』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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