回送先:府中市立中央図書館
第二次大戦下、デンマークにいたユダヤ人の多くが隣国スウェーデンに逃れることができたという話はヨーロッパではよく知られている(すでにハンナ・アーレントは『イェルサレムのアイヒマン』において紹介している)。本書はその「移送」を立脚的にとらえようとした部分がある。
アーレントは、この逃避行を個人の責任において行ったこととしている。本書もまたアーレントの系譜を引き継いでおり、正義とかそういった安物の価値で回収されていない。言わんとしていることは理解できるし、それによって人々がどのような行動をとるのかということに主軸を置いているという点では、あるところでは「ブレがない」内容になっている。
しかしながら、ホロコーストに関係する書籍のなかでは本書はあくまでもその問題についての言及を避けている。無理もない話で、これはあくまでもデンマークでの事例だからであり、全ヨーロッパ的な話に拡大解釈するのはどう考えても無理なことであるからだ。奥の書籍は無理を無理と表明できないところにある。それこそまさにアーレントの指摘した揶揄をいまだに引きずっていることの名残であり、本書との間でひかれる線引きでもある。
自由と同時に考えるは思考であり、その思考を豊かなものにするための糸口になるのかもしれない。