フロントミッション: 最前線報告 (ログアウト冒険文庫 89)

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  • Amazon.co.jp ・本 (361ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784893663757

感想・レビュー・書評

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  • 悪夢は終わらないというけれど、この解釈もひとつの悪夢ではあるのだろう。

    最初に申し上げておきますが、文芸作品としては元よりファンアイテムとしても微妙な作品です。
    コレクターアイテムとしてなら……、オススメはしませんが所蔵の価値はあるかもしれません。
    それと私が飯野文彦氏のほかの著作は拝見したことがないので、この作品単独の評価と申し上げますが……。それに私自身の思い入れの深さで冷静な評価もできていない部分もありますが……、やはり擁護できません。

    もし万が一、この本から『フロントミッション』の世界に入ろうという方がいらっしゃったら悪いことは言いません。実際にゲームを最後まで遊ぶか、ほかの攻略本(『フロントミッション―ミリタリーガイド』など)で大筋を掴むか、それが叶わないならネット上に転がるネタバレを踏んで回った方がまだ有益と思われます。
    なんでしたら個人的にSFC版『フロントミッション』のレビューも書かせていただいておりますので。

    ひとりのフロントミッションを愛する者として、ファースト・インプレッションをこの作品からは絶対に味わってほしくはない。私は本書が希少本で、高価で安定していて良かったと思っているくらいですから。

    なぜならば、このノベライズ、コンセプトが不明瞭なうえにクオリティが総じて低めです。
    加えて読み進める度、公式から監修入っているのか微妙な、極めて雑なオリジナル設定を積み重ねてきます。
    ファンの怒りのボルテージを上げながら評価を下げてくる作品だと言い換えてもよいかもしれません。

    では、ここでひとつ、深呼吸。
    ここからもほとんど罵倒しか並べませんし、致命的ではないにせよネタバレも述べていきます。
    それでよろしければ、以下のレビューをご総覧ください。

    本作は、主人公「ロイド・クライブ」の行動記録としても。
    ロイド率いる傭兵部隊「キャニオンクロウ」隊員たちの群像劇としても。
    キャ二オンクロウが駆け抜けた二大国間の戦争「第二次ハフマン紛争」の戦場記録だったとしても。
    すべてが中途半端でした。

    というか至らないところばかりで至っているところが見当たりません。
    まず原作の大筋こそなぞっているものの、カットされた部分があまりにも多いのです。
    具体的にはSFC版『フロントミッション』の全三十あるミッションから、ざっと半数ほどは省かれています。
    キャニオンクロウが正規軍を側面から援護したり、大物部隊を撃破したり、敵の重要拠点を陥落させたりといった――、要は戦争の推移に関わるキャニオンクロウの戦闘はすべてカットされていると言っていいかと。

    「地獄の壁」もクリントン型も、ラークバレーの悲劇とモーリーも、モーガン要塞攻略もオールカットです。
    ロイドたちも交戦したと間接的に言及されることすらなく、知らない間に正規軍が進軍していきます。
    ぶっちゃけこの世界のキャニオンクロウは戦争の行方自体にはほとんど寄与していません。
    「最前線報告」のサブタイトルには偽りありですね。

    その癖、何の説明もなくキャニオンクロウは強いとされており、自陣の数倍はあると思われる敵集団を片手間に殲滅していくなんてシチュエーションがざらです。説得力はまったくありませんけどね。

    なぜなら戦闘描写が、撃った敵機が破壊されたの繰り返しな面白みのない稚拙な文章に尽きるからです。
    正直、こんなくだらない文章ならカットした方がマシというか、山場を除いて経過報告だけで済ませてほしいと心底願いました。ゲームの特性を踏まえて、ヴァンツァーの部位破壊こそ意識しているものの……。
    それと隊員たちが使用する武器が段々とステップアップしていく演出になっているのは悪くないのですが。

    また、ヴァンツァーのセットアップは元より、敵味方がどんな機体に乗っているかの言及も色くらいでほぼほぼ見当たらず。唯一紹介されているロイドの機体説明すら公式の設定資料とは齟齬があるという体たらく。
    刊行時期からすると公式から資料提供がなかったという好意的見方も効かず、しかもデザイン的には主人公が乗るにはイロモノ寄りだったりします(宿敵「ドリスコル」にとっては皮肉じみたセレクトですが)。

    ひるがえって、ストーリーパートをロイドの恋人「カレン・ミューア」の足跡を追う方に集約した試みはある程度成功しているとは思われます。そちらの各種イベントについては取りこぼしはありません。

    ただ、全般的にゲームからのセリフの引用に頼り過ぎており、小説ならではの換骨奪胎はできていません。
    オリジナルのやり取りにセンスを感じた部分はないことはないのですが、幼稚な印象の方が先立ちます。
    それと前述した通り、極めて雑なオリジナル設定の積み重ねが、それらを台無しにしてくるのです。

    たとえば、キャニオンクロウの中核メンバーのひとり「キース」がなぜだか殺人狂になっています。
    一応理由づけと擁護のようなものはされていますが、リカバリーに成功しているとはとても言えません。
    キースと同じ守銭奴でも悪友兼戦友の「J.J」と十分個性の色分けはできたと思うだけに溜息しか漏れませんでした。正直に言うと、なんでこんな設定付けたのが必然性が皆無でしたから。

    ほか、やたらと大食漢が強調されており、なぜかロイド・サカタと旧知になっている設定を付与された「ピウィー」の使い方が下手です。コメディリリーフにしても浮いていて悪目立ちしていました。
    そんな二人に使う文章があるのなら同じくキャニオンクロウの隊員でも「サカタ(坂田竜二)」と「ナタリー」の両名をもっと掘り下げてほしかったというのが正直なところです。

    サカタとナタリーのふたりとその家族はシナリオの中核部分に位置している分、途中まではゲームにない掘り下げが挟まっておっ、原作の補完か!? と目を見張っただけに、裏切られた感覚が色濃く残りました。
    ゲームではプレイヤー各人の解釈に任された登場人物たちの心情に、作者なりの答えを出すことができれば多少はファンも認められたでしょう。本書はその辺、ゲームの後追いに留まっています。

    そして最大の問題点、クライマックスパートが最悪でした。
    この一点のみで本作が駄作であることが原作ファンにとって不動の評価になったと断じてよいでしょう。
    そこに至るまでの流れですが、主人公の宿敵「ドリスコル」は原作と比べて多弁になっており、序盤で早速その正体をほのめかす描写が入っているなど、終盤に至るまでの存在感については問題ありません。

    ただ、当初の搭乗機体が「TYPE11DS(レイブン)」ではなくシーキング型を名乗るナニカ。
    そして、ラストバトルで唐突に超能力オカルトバトルがはじまり、撃破に至ります。――ドリスコルの扱いもありていな三流悪役に貶められました。原作のセリフこそ吐きましたがまったくの別物といってよいかと。
    あと、本作は先ほど述べたモーリーを除くキャニオンクロウ全メンバーが登場するんですよ、困ったことに。

    なお、冒頭のロイドのキャラクターが軽薄この上なかった時点で嫌な予感を感じた方はきっと正しい。
    どれだけ原作『フロントミッション』が最低限のセリフ回しで、過酷で武骨な世界を表出させているのか。
    そして、あえて語らない部分を用意したからこそ、プレイヤーにおぞましい真実を悟らせたのか、それが見えてくるはずです。ノベライズとは原作ありきのコンテンツですから、これくらいの比較なら許されますよね?

    ――総評として、本書は名作の悪質なパロディの一言で片づけてよいと思います。
    原作のふたつあるストーリーラインのうち、戦争部分を思い切って切り捨てるのも構わないと思います。
    ただ、文は最初から最後まで稚拙この上ない。情景も心情もスカスカな文章がチープさを演出します。文体の組み立ては会話と反応の繰り返しに過ぎず、短節というよりは細切れな印象を抱きました。

    一応、評価すべき点としてはある意味で主人公よりも重要人物であるジャーナリスト「フレデリック・ランカスター」がピックアップされており、彼の視点から話が展開することが多かったことが挙げられます。
    フレデリックの妻子を含め日本についての言及が増えており、伏線として機能している点も見逃せせん。

    ただ、結局のところ本作って原作のシナリオをチープにまとめた後追い本に過ぎないのですよね。
    本作ならではの新解釈を打ち出すには何もかもが足りず、意味をなさなかった体でもあります。冒頭でのフレデリックと彼の愛娘とのやり取りなどは、世界観の説明も兼ねていて良かったんですけどね。

    作品の舞台「ハフマン島」の形を音楽記号のフェルマータにたとえる発想なんかは民間人視点だからこそなので、この作品は全編フレデリック視点で展開するような思い切りが必要だったのかもしれません。

    では、レビューを〆る前に補足として。
    この作品に評価できる点があるとすればそれは二点挙げられます。
    まず一点目、「横山宏」先生の挿画十一点です。
    内訳を述べることはしませんが、これだけは見返す価値があると言わざるを得ません。

    すべてラフ画寄りなのですが、ヴァンツァーが戦場に佇む姿などはまさに心なき機械が作り出した悪夢といわざるを得ません。人物画にしても天野絵を踏まえた上で荒廃したロイドの心情を表現するようで良いです。
    ハンスの素顔も拝むこともできたので、立派にファンサービスとサプライズをやっておられるようでした。

    次に、手早く二点目。
    「フロントミッション」を冠する作品のうち、多少自分の好みに合わなくても許容できるようになる。
    そこに尽きます。
    おそらく、関連書籍を含めた「フロントミッション」ブランドの中でも本書は最底辺でしょう。原作の延長線にありながら余計な不純物をまぜこぜにして台無しにした本作は、好みに合わないを通り越して不快でした。

    ここまでレビューを読んでこられた方ならおわかりの通り、私は怒っています。
    怒っているかといってそれが正しいとは限らないので、ここまでのレビューを批判的に読んでいただきたいのも本音なのですけどね。この小説を気に入られた方の感性を否定するつもりはもちろん毛頭ありません。

    また、当たり前といえばそうですが、この作品で打ち出された独自設定が後世のシリーズで採用された例は私が知る限りでは皆無、ほぼ完全に無視されているので許容できている部分もあります。
    本書が世に出たことは間違いなく悪夢です、ですがここで終わったのも事実なのですよ。

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著者プロフィール

1961年生まれ。84年『新作ゴジラ』(ノヴェライズ)でデビュー。多くのゲーム・映像作品のノヴェライズを手がけながらも、怪奇幻想味の強い独特の作品を発表。著書に『バッド・チューニング『ハンマーヘッド』他多数。

「2015年 『ゾンビ・アパート』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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