窓辺のこと

著者 :
  • 港の人
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本棚登録 : 181
感想 : 15
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784896293722

感想・レビュー・書評

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  • 石田千さんの文は、いかに清楚で無駄がないのか、日常の小さなことをそのままに伝えてくれてるだけでただそれだけなのに、読んだ後のかすかな清涼感は何なのか。
    無理押ししない、無理に誇張しない、無理に媚びない、この無理をしてない自然体が石田千さんの魅力なんでしょうな・・・・。

  • +++
    50歳になった作家の2018年、暮らしに根づいている言葉を丁寧にすくい、文章に放つ。 いいことも悲しいことも書く。人気作家の新境地をひらく傑作エッセイ集! 2018年の1年間、「共同通信」に連載した作品を中心に、その1年に雑誌などに発表したエッセイをまとめる。
    +++

    特に華々しいこともなく、堅実に丁寧に生きる日々の暮らしに、著者の視線が向けられるだけで、これほどにも愛おしく豊かに感じられるものだということに感動さえ覚える。キラキラと飾った言葉を遣うわけでもなく、淡々と目の前のこと、胸の中のことを書き綴っているような言葉の中に、その「人」がすべて現れていて、うなずかされる。悲しみの深さも、しあわせの噛みしめ方も、抑え目に書かれているからこそ真に伝わるというものだろう。ますます好きになる一冊である。

  • おいしくてとっておきのお酒をちびちび呑むように、寝る前にちょっとずつ読み進めた。お酒と人間が大好きであろう石田さんの文章は滋味にあふれている。

    下戸のわたしでも、からだがじんわりあたたかくなる。

  • 『旅のみやげに持ち帰って、祖父母の写真のとなりにおいた。貯まりますように。よくよく拝んだ。いらい、だるま銀行東京支店に、五百円玉を貯めている』―『だるま銀行』

    石田千のエッセイは「深夜食堂」のエピソードのように、市井の人々の生活と強く結んだ話。一見したところ教科書に出てきそうな道徳観が先に立ち、表面的な印象もないとは言い切れないが、言わなくていいことを巧みに保留する。もちろん、考えなしで言いよどんでいる訳ではない。世の中には皆まで言わずに飲み込んでおく方がいいこともある。そんな誰に教わったのかはっきりとしないことわりを守って黙す。その間合いに著者の言いたいことは潜んでいる。たとえば、どの言葉をかなに開くか漢字にしておくか、そんなことへのこだわりさえ著者の言いたいことの延長にあるのだと思えば、そこからするすると紐解かれるものもあるような気もしてくる。

    繰り返されるエピソード。石田千を読み継いで来たものにとっては見慣れたような風景。日々の暮らし。田舎に住む親。季節の移ろい。実際に見た訳ではないけれど、著者の住む下町の風景はいつの間にか自分の記憶の風景となる。そんな既視感を誘う文章が、この作家を読み続けさせる魅力であると思う。その言葉は常に作家自身の生き方に直結する。そう書くと倫理観を問うようにも響いてしまうけれど、自身の生活のエピソードを常に文章の出発点とする姿勢は、ソーシャルネットワークのような表層的な自己演出にはない作家の内面を思わず描き出してしまう効果もある。とは言え当然のことながら思いのすべてが明かされることはない。それが杓子定規な印象に繋がる読者もいるかも知れない。しかし「いいね」も「中傷」も全て書き下さないといけない、はっきりさせなければいけないとする世の中よりも、ルールがなくても、誰が見ていなくても、誰に言われずとも悪いことはしないと皆が考えている世の中の方が、なんぼか棲み易い。

    強い一言を吐けば同調するにしても反感を買うにしても反応は得られ易い。何か一歩踏み込んだ強い言葉にはそんな力もあるけれど、その踏み込みは本当に自分自身をさらけ出したものなのか。自分の気持ちを自分はそんなにきちんと理解しているのか。石田千の逡巡にはそんな思いが透けて見えるようでもある。その逡巡にそっとついてゆく。それがいいように思えてならない。

  • キレイな声の小鳥はウレシイ。
    この人の言葉がウレシイ。
    静かでリズムがあって‥心地いい。

  • この人の描くエッセイがほんとうに好きだなぁ
    としみじみ思う。
    言葉の選び方、表現、テンポ。
    うっとりしながら少しずつ少しずつ大事に読み進める。
    誰に見せるでも見られるでもなく
    自分のためだけに生活を楽しむ。
    かざりもなくへりくだることもなくただただそこにある日常。その日常への視点が尊い。
    毎日の営みが愛おしくなれる1冊。

  • 読み始めて早々、わたしに必要な言葉をもらった。
    「鬼のようにそそり立っていた我の牙」P.18

    親が幼子に絵本を読んで聴かせるような。干したばかりの布団に包まれるような暖かさと心地よい厚み。

    ちいさな星があつまって、おおきな一輪になる。
    ちいさなよろこびがあつまり、忘れえぬ一日になる。 P.184

    めでたいものは 大根種
    花咲いて 実なりて さあめでたい
    俵重ねる めでたい P,225

    へたも絵のうち 熊谷守一 P.16
    だまっこ鍋 P.135 秋田
    フェルナンド・ペソア P.217 ポルトガルの詩人
    アントニオ・タブッキ レクイエム P.219
    ナタリア・ギンズブルグ P.236


  • 後半にむかうほどジワリときました。
    言葉や表現は勿論、情報も沢山あり‥へぇ~とか思いつつ。
    本棚にのこして、また読み返したい1冊です。

  • 同い年のせいなのか
    単に文章のまとってる何かが
    考えたりしなくても頭に入ってくる
    ずっと使ってる肌掛けや洋服みたいに
    今回の『こと』には
    ポルトガルに行った時の事が
    何遍かあってうれしかった
    行ったことある場所の風景を
    文章の中に見つけては
    「そうだったなあ〜、いいなぁ」なんて
    以前人と話していた時に
    自分は前世はポルトガル人だった気がする
    って言った事がある
    なんかしっくりした土地だったから
    でもスペイン行った時は
    よく食べて眠れて歩き回って、と
    この土地は私に力を分けてくれる
    って思った事もある

    何にしても石田千の本を読むと
    気持ちが安定して
    そしてなんか大丈夫な気がする

  • 毎朝起きてから、まずは原稿用紙3枚書く。そこから一日が始まる。私にとって未知の生活。知らないことをたくさん知りたい。いろんな人を知りたい・・・と思った一冊。

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著者プロフィール

石田千(いしだ・せん)
福島県生まれ、東京都育ち。國學院大學文学部卒業。2001年、『大踏切書店のこと』で第1回古本小説大賞を受賞。「あめりかむら」、「きなりの雲」、「家へ」の各作品で、芥川賞候補。16年、『家へ』(講談社)にて第3回鉄犬ヘテロトピア文学賞受賞。16年より東海大学文学部文芸創作学科教授。著書に『月と菓子パン』(新潮文庫)、『唄めぐり』(新潮社)、『ヲトメノイノリ』(筑摩書房)、『屋上がえり』(ちくま文庫)、『バスを待って』(小学館文庫)、『夜明けのラジオ』(講談社)、『からだとはなす、ことばとおどる』(白水社)、『窓辺のこと』(港の人)他多数があり、牧野伊三夫氏との共著に『月金帳』(港の人)がある。

「2022年 『箸もてば』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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