- Amazon.co.jp ・本 (238ページ)
- / ISBN・EAN: 9784896424249
作品紹介・あらすじ
アゼルバイジャン文学、本邦初紹介!復讐に対する復讐、聖戦の円環を断ち切る壮大な物語。
感想・レビュー・書評
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アゼルバイジャン文学は読んだことない!と思って読んでみた。
「復讐に対する復讐、聖戦の円環を断ち切る壮大な物語」…とはどういった物語だろう?と思いながら、まさにそのような内容のお話だった。
文化への無知さもあってか(馴染みない響きになかなか登場人物の名前を覚えられなかった笑)、私には理解しきれない部分もあったが、それでも物語のラストまで染み入った。
魔術師の谷という場所やそこで生きる魔術師たちの神秘さと、リアルに血生臭いまでの復讐譚の重なり合いが絶妙。
何度か読んだり、他の人と感想を言い合って理解を深めていきたいタイプの本だなぁと思いました。
タイトルが「魔術師の谷」なので、読む前はその場所を探し至るまでの物語なのかな?と思ったが(大きく解釈するとあながち間違いではなかったかもしれないけど)、それは本題ではなく魔術師の谷にはあっさり辿り着く。
シャー(王)に使えるキャラバンバシ(隊商の長)が、霊を呼ぶことのできる魔術師を連れてこいと腹心の部下に命じる。
なぜ霊を呼ぶ必要があるのか分からないまま、キャラバンバシと、マメドクリというシャーお抱えの刑吏(処刑人)のエピソードが交互に折り重なって綴られる。
次第にこのエピソードたちは絡み合い、繋がりを持ち、まさに円環となる。親の因果が子に報い、とでも言えばいいだろうか…
キャラバンバシの目的がはっきりした瞬間、物語は怒涛の展開を迎える。
霊を呼び出すために連れてこられた魔術師サイヤフ(彼の人生も興味深い)も、最終的に彼らの円環に関わりあい…
このまま、絶望のまま終わるのかと思ったら、ラストは救いがあり、復讐の円環を断ち切れるだろう希望が見られた。
物語はそこで終わっているから、そこから先は知る由もないが、どうか…と思いたい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
アゼルバイジャン文学という聞きなれないジャンル。
キャラバンの長は行方不明のまま亡くなった父親の霊を呼び出すため、魔術師を探し出し父親の霊と再会するが、実はその一族には深い因縁があった、という筋書き。
アゼルバイジャンはイスラム圏なので、最初は千夜一夜的な話のようであったが、キャラバンの長の現代、その父親の過去の時代の話が錯綜し、多重構造的に話が進む。
しかし、現代日本人からすれば、どこか唐突に話が終わってしまうが、そこは我々の価値観だからそう感じてしまうのだ。
本来、作者がその価値観に基づいて伝えたかったことが、受け取り側の理解力はともかくとして、伝わっていれば、十分良書、良い話だと思う。それを味合わせてくれる作品。
なお、巻末には訳者とアゼルバイジャンの大学教授のあとがきがあり、アゼルバイジャンの文化を踏まえての解説は素晴らしい。 -
解説を読んでから、もう一度谷へ戻った。
スーフィズムとはなんぞや。興味深し。 -
物語は、隊商の長が亡父と交霊を行うべく魔術師を探すところから始まる。隊商の長は、ある復讐のねらいを亡父に打ち明けるが、亡父が語るのは息子の誕生にも影を落とした別の復讐劇...。
目には目を、血には血を、という復讐の応酬が代を継いで人を毒する様が描かれる。復讐自体がアイデンティティー化してしまった登場人物達は、カフカスの地におけるハムレットに見えなくもない。
このアゼルバイジャンの小説は、構成も巧みで、筋立ても先のページをめくらせる魅力に溢れている。男性的な粗く削り落としたような短文が力強く、説得力がある。あまり紹介されることのないこの国の文学について強い関心を呼び起こされた。