神の器 (上)

著者 :
  • 里文出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784898063422

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  • 秀吉の朝鮮出兵のさいに半島から連れてこられたという陶工が主人公の歴史小説。
    自らも陶工(沙器匠)であるという著者ゆえに、作陶の描写やその原料に関する説明などが非常に詳しく、また創作上の登場人物として、浅川伯教と巧兄弟がモデルと思われる人物が出てきたりして、民藝好きもニヤリとさせられます。それでなくとも李朝陶磁のリアルな製作現場の描写は、やきもの好きには垂涎ものです。
    しかし、よくもまあ文章が本職ではない陶芸家がこれだけのものを書いたと…その意味では間違いなく感動します。
    舞台は安土桃山から江戸初期にかけての半島と日本。
    当時、戦国大名たちの間で流行していた茶の湯において、最高峰の茶碗とされ(現在もなお国宝として伝わる)珍重されていたのが、「井戸茶碗」と呼ばれる半島からの渡来ものでした。
    朝鮮の支配階級では白磁や青磁などの端麗な器がもてはやされ、井戸茶碗のような素朴な庶民の器は、茶器としては使われなかったそうです。ひびが入り、歪み、とうてい上手物とは呼べない井戸茶碗…しかし、日本の乱世を生き抜いたサムライたちは、それを得るために血みどろの争いすら起こしたと伝わります。一見下手なその茶碗一つが、一国一城に値したとも。
    この小説では、秀吉の朝鮮出兵の目的の一つとして「井戸茶碗」を手に入れる、もしくはそれを作れる陶工を連れ帰る、ということが強調され、主人公が仕えることになる戦国大名の鍋島勝茂も、それを作ることを主人公に執拗に命じています。主人公もまた、作陶家としてのプライドと故国への愛ゆえに、それを作ることを生涯の使命として生きてゆくことになります。
    2冊分の単行本のうち半分以上が日本での出来事なのですが、主人公のモデルである陶工らの足跡を、本国でほとんど発見できなかったという著者の、ジレンマのようなものが想像されます。日本では陶祖とも呼ばれ称えられる朝鮮陶工らですが、本国では名も残らない存在だったことは事実のようです。
    本作を通して伝わってくるのは、暴力でもって自分を祖国から引き剥がした日本に対する怒りと、けれど祖国では取るに足らない卑しい存在と見なされていた自分たち陶工を「先生」と崇め、技術に値するだけの地位を与えてくれたのも日本だった、という行き場のないジレンマ。実に愛憎入り乱れています。
    あと小説としては、細川三斎だとか小堀遠州だとか茶道の歴史に燦然と輝く有名人がほいほい出てきたり、かと思えば忍者に襲撃されたり、あんまり史実に照らし合わせて読むようなものではないです。でも時代劇としては見せ場があって良いんじゃないでしょうか(チャンバラがないと視聴率稼げないからねって違う?)
    ところで、へうげもの10巻で法基里窯が舞台になってたのは、作者と編集のチームが申先生の工房に取材に行ったかららしい…公式ブログに載ってた(^^;)
    へうげものblog記事:http://hyouge.exblog.jp/8447190/
    へうげもの10巻:http://booklog.jp/asin/4063728692

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