夢の栓

著者 :
  • 幻戯書房
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本棚登録 : 17
感想 : 3
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  • Amazon.co.jp ・本 (395ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784901998994

作品紹介・あらすじ

だれかが夢の栓を抜かなければ、この国は沈んでしまうかもしれない神がふたたび眠りにつくまで。ひとりの日本兵が残した謎の神ブラナをめぐり、現代と戦争の記憶が交錯し-待望の長篇小説。

感想・レビュー・書評

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  • 青来有一はどうしようもなく長崎という土地に繋がっている作家であると、思う。それはすなわち信仰ということに行き当たるということでもある。もちろん長崎における信仰は、歴史の中で起きた「宗教」的問題と切り離せないとも思うけれど、青来有一の場合、信仰はただ信心の問題に還元されるように常々感じてもいた。その思いをこの「夢の栓」を読んで強くする。

    全ての信仰が来世を確約する教えと結びついているとは限らないけれど、青来有一の描き出す信仰心には来世に対する期待などというものよりも、この世の生に対する、ぶつけようのない怒り、あるいは諦め、のようなものが色濃く底流にながれていように思う。それはしばしば、死というものと向き合わざるを得ない状況に自らを追い込んしまうものでもあるようにも思うのだ。

    そんな青来有一をやんわりと意識しながら読み進めていると、境の曖昧だった生と死は、いつの間にか、現と夢という関係に変化していることに気づく。もっとも、死と夢の違いはどこまでもはっきりとはせず、読み替えてみることもできはする。しかし夢は現に積極的に関与するかのようにもみえるので、それが死と夢の違いであるとすることもできる。その筈だが、実は、関与していると捉えるのは現実を生きている側の、ある意味勝手な捉え方であるとも見做すことができ、堂々巡りのようだけれども、やはり青来有一の描いているのは、生と死のあわいなのだなと思い返し、そこにどうしたって信仰が入り込むのだなと思ってみたりする。

    そう思うと、書き下ろされた連作短篇の順番の意味するところもおぼろげながら見えてはくる。作者のあとがきにあるようにこれを長篇小説と思って読み進めると解りにくいものが、一章毎に区切られたものと捉え直すことで、少し解り易くなる。ああ、元々青来有一はこんなまとまり方のある文章を書く一人であったな、と腑に落ちた気分がする。

    夢とはなんなのか。現とどこが違うのか。物事を突き詰めようとすると苦しくなることが多いけれど、その問いはどこまで行っても宙に浮いたままの状態を保つ。その状況を嫌って更に踏み込んでみようとしても、夢は現とするりと入れ替わるだけである。それを十分に意識しながらこの生をいきること、その意味を青来有一は問い掛けているのだろうと思う。

  • 挫折しました・・・

  • タイトル「夢の栓」5章に分かれた長編小説ですが読んでみると5話の夢の中での安寧と夢告げ信仰そして緩やかなシャーマニズムがテーマのオムニバスの様でした。

    大変丁寧に書かれた夢告げに象徴される物語は読み応えがあります。
    「ねるよりらくはなかりけり」私もよく感じることです心身ともに疲れてくると眠っているときほど人にとって幸せなひと時はないもの思います。
    一種の現実逃避でもあり心の洗浄でもあり再生なのかもしれません。

    夢の中で何かとつながる感覚や夢の中で何かが壊れる感覚や夢の中で何かが満たされる感覚は夢告げ信仰や忘れられていた神や精霊を生み出すには十分な不可思議さがあるものですね。
    そんな感覚を全部伝えてくれるお話でした。

    戦争、高度成長、自然破壊、金満資本主義、宗教の相違などが複雑に絡まり合い、文化の変遷とともに変わりゆく世の中で私たち人類はは長い夢を見ているのかもしれません。そんなことを考えさせてくれる一冊でした。

    読後感=寝るより楽はなかりけり・・想いは夢のなかへ溶ける・・

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