- Amazon.co.jp ・本 (412ページ)
- / ISBN・EAN: 9784903480893
作品紹介・あらすじ
ドイツ文学者であり歌人である高安国世。残された数多の手紙を手掛かりに、友人たちとの交流、家族とのふれあいの一端を描き取る。人間高安国世の素顔を浮き上がらせ、言葉と時代の関わりを見据えた更なる地平に到達する評伝。
感想・レビュー・書評
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一語一語声張り上げて区切り言ふ兵たりし苦しみの余韻の如く
高安国世
ドイツ語詩人リルケの翻訳者として知られる作者。松村正直による新刊で、その交友関係と、時代との接点をつぶさに知ることができた。
1913年(大正2年)、大阪生まれ。母が歌人で、少年時代から雑誌に短歌を投稿。京大文学部に進学し、母と同じ「アララギ」に入会した。
旧制高校では、後の経済学者内田義彦と親しくし、また、作家野間宏、富士正晴らとも長い交流があった。掲出歌は、野間宏の戦後の講演を聴いての連作「誠実の声」より。野間宏は「兵たりし苦しみ」を体験したが、ぜんそくの持病があった高安は、召集されても即日帰郷となり、「兵」とは距離のある戦中を生きていた。
だが、生活者としての「苦しみ」は味わっていた。3歳の長男が突然の病で急死したのだ。動揺する心を救ったのは、リルケの「死者は我らを必要としないが、我らは死者を必要とする」という思想だった。
54年に歌誌「塔」を創刊。後続世代を育て、還暦目前に初めて自動車の運転免許を取得。生活にも短歌にも変化が生まれた。
限りなく道を走りて何せんに新しき道は我をいざなう
なるほど、ドライブ詠がそのまま境涯詠となっている。それまではやや受け身で、世界の傍観者であった高安だが、運転によって「世界と直接関わるようになった」という松村正直の分析も興味深い。
84年に病没。貴重な蔵書は現在、県立長野図書館「高安国世文庫」となっている。
(2013年9月15日掲載)
凄い!
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