国家の歴史社会学〈再訂訳版〉

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  • Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784905497325

作品紹介・あらすじ

'Etatとは何か。歴史学と社会学の絶えざる対話の成果-国民国家研究の基本書。

感想・レビュー・書評

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  • 国家を階級的搾取の道具に過ぎないとするマルクス主義の国家観や、国家を社会の機能的分化の産物とするデュルケムに始まる進化論的国家観を批判的に検討した上で、ウェーバーの比較歴史社会学に依拠しつつ、西洋各国の国家形成を封建制の崩壊過程においてそれぞれの社会が直面した内外の危機への対応の結果と捉える。歴史的個体としての各国の特殊性を一貫した理論的なパースペクティブのもとに位置づけようとするものであり、社会学と歴史学の意欲的な総合の試みだ。

    前半の国家の理論的な把握をめぐる学説史的な検討は、抽象度の高い議論のオンパレードで、社会学プロパーでない評者には正直かなりきつかったが、そのぶん訳者による懇切丁寧な解説は非常に有難い。本文を読む前と後に解説を読むとよい。著者たちの主張のポイントは国家を内在的・内生的な社会発展の産物として過度に一般化するのではなく、国際的な経済システムや軍事圧力を含む特定の危機への対応としての側面、さらには分化過程における国家の機能的な側面だけでなく逆機能的な側面に着目し、その歴史的相対性を明らかにすることである。

    こうした方法意識を前提に後半では各国の具体的な比較分析が展開されるが、こちらの方は論旨もクリアで内容的にも極めて興味深い。国家による中央集権化は政治の領域から領主権力を締め出すものであり、前史としての封建制の強弱によってそれを打破する国家機能の強弱が決まる。封建的な分権性が根強かったフランスでは強力な国家機構が出現し、封建制の発達しなかったイギリスでは国家機能の自律性は弱く「政治的なるもの」と市民社会が完全に分離していない。プロシアでは軍事的な圧迫を受けてフランス同様強力な国家機構を築き上げるが、土地貴族の勢力が温存され、家父長的な秩序原理が国家に組み込まれる。これはプロシアでは貨幣経済の進展に伴う封建危機を農奴制の強化によって乗り越えようとしたため、土地貴族が生き延び、ブルジョアが成長しなかったことによる。

    西欧的国家モデルはそれを支える文化システムと不可分であり、それを欠いた非西欧社会に適用しても失敗するとみるところなどは、東南アジア諸国が曲がりなりにも国民国家として成熟をとげつつある現在、かなりの修正が必要と思われるし、日本をどう位置づけるかも問われるところだ。こうした限界はあるものの、従来の機能主義的社会学が暗に前提とする単線的発展史観を相対化するものであり、初版から25年(1979年の原著初版からは36年)を経た今回の再訂訳の出版は、本書が比較歴史社会学の古典としての地位を得つつあることを示すものだろう。

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