三人姉妹: 四幕のドラマ (ロシア名作ライブラリー 5)

  • 群像社
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  • Amazon.co.jp ・本 (179ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784905821250

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  • ・物語の舞台はプローゾロフ家の邸。「県庁のある都市」 とある(後述するが、ウクライナ地方のドネツク州らしく思われる。ハリコフ近郊かもしれない)。
    プローゾロフ家の4人兄弟が主要登場人物。三姉妹である。長女オリガ、次女マーシャ、三女イリーナ。そして、長兄らしきアンドレイ。
    三姉妹は現状の生活、自身の生き方に充たされぬものを感じ、終始モスクワでの新生活への夢を語っている。それは見果てぬ夢のようだが、それでも3人の女性たちは、誇り高い充実した生き方をしたいと願い、その意味で知的な印象を感じさせる。アンドレイの妻、ナターシャが子育てと生活にまみれてガミガミ言っているのと対照的だ。

    三姉妹が生きたこの時代、19世紀末頃は、農奴解放後、ロシア社会が激動の変化のもとにあった時期。それまで労働と無縁だった有産階級や地主たちは、仕事をして日々の糧を得る新たな生き方を余儀なくされている様子。
    現代人は物心ついた頃から、自ら働いて糧を得ることを考え始めるが、三姉妹は人生の途上で時代の変化の渦中に放り込まれたため、自立して生きていく生活力や覚悟が未成熟のようである。 それゆえに「モスクワでの新生活」という漠然とした夢想・理想に逃避しがち。
    かような三姉妹のやるせない思い、悲哀が主題のように思われた。

    ・解説で「『三人姉妹』は音楽的な戯曲だ」と評している。そうか、なるほど、である。
    人物らの長台詞の合間に、他の登場人物の声や作業音などが、背景からまるで合いの手のように挿入される(ト書きで書かれている)。そういう、舞台手前と舞台奥のメリハリ感、奥行き感が豊か。あたかも協奏曲である、とでも言えよう。
    最も劇的なのは第4幕の終盤、クルーギンとマーシャのやりとり会話の間に、遠くから銃の発報音が聞こえる場面。
    という次第で、戯曲を読むときは、小説を読むときのように文章をたどるのではなく、芝居の台詞・音声を耳で聞くように音像を膨らませて読むのが望ましいと思い至った。とくにチェーホフの戯曲の場合はそうであるらしく思われる。

    ・本書の作者チェーホフのプロフィールに「黒海につながるアゾフ海沿岸の町タガンローグの商人の家に三男として生まれる。」とある。現今注目を集めているマリウポリのすぐ近くだ。ロシア軍侵攻後恐らく激戦地のひとつだったと思われる。また、今はロシア軍の支配占領地域である。
    戯曲のなかで、二百年後三百年後の人々は平和でよりよい社会で暮らしているはずだ、という思いが幾度か語られる。歴史は皮肉である。やるせない思いを抱いた。

    ・ヴェルシーニンの台詞に、「下書きの人生」と「清書の人生」があったらいいのに、という趣旨の夢想が語られる場面がある。練習問題というかリハーサルのような段階を経て、そのあとで、実人生を歩むことが出来たらいい、という観念だ。だが、人生はそんな都合よくはいかない。最近、妙に自身の半生をふりかえることの多い私自身、ヴェルシーニンのその夢想が心に残るのであった。

    ・刊行1900年。
    ・チェーホフ「四大戯曲」読みを思い立ち読み始めた。

  • 文学座研修生の公演に合わせて数年ぶりに再読。以前はかなり読み込んだ本だが、さすがに数年経つと細部は忘れているし、実演を見た後だと、これまで見落としていた様々な点に気がつく。読むたびに新しい発見がある、果てしなく奥深い作品。人生の卑小さと世界の深遠さ、その両方を含み込み、喜劇性と悲劇性を兼ね備えた壮大なるホームドラマ。やはり『三人姉妹』こそチェーホフの最高傑作だと思う。

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