ひとりも殺させない: それでも生活保護を否定しますか

著者 :
  • 堀之内出版
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感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (200ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784906708512

感想・レビュー・書評

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  • 人の先入観やイメージはほんとうに怖いと思う。
    生活保護の不正受給は全体の0.4%だが、まるでほとんどが不正なんじゃないかとばかりにメディアがバッシングを始め、政治家や影響力のある有識者の保護費削減への訴えが増え、社会の空気をある種洗脳していく。
    社会がつくる物事への先入観が人を死に追いやっていく構図が見える。

    すばらしい本でした。
    すばらしすぎる本でした。

    「生活保護=不正受給、がんばらない人たちになぜお金をかけるのか」
    という先入観と社会のイメージは、
    「ニート=怠け者」のそれとよく似ている。

    筆者の藤田さんは、あるホームレスのおっちゃんとの出会いから日本の貧困問題に取り組むようになる。対象の実態はさまざまで多種にわたる。今から自殺したいという人、ホームレス状態にある人、売春を強要される女性、DVを受けている人など。
    孤立し餓死、凍死、自殺していく人を何人も見てきた中で沸き起こる、お金を与えれば終わる支援への疑問、専門性のないソーシャルワーカーの限界、捕捉率が極めて低い(生活保護を受けられる生活水準にある人の70%が生活保護制度を受けれていない)生活保護制度変革の必要性。

    ホームレスになった、行政のお金をもらわなくてはいけなくなった人の自己責任に走る政治の在り方に警鐘を鳴らし、社会構造・社会福祉の変革の必要性がとても力強く発信されている1冊。今の支援現場への疑問を恐れずに発信している。冒頭のひとつの命の孤立死の描写は、この豊かなはずの日本でなぜこんなことが起こりえるのかと涙が出るほど痛ましかった。

    生活保護を受けているんだから余裕があるはずでしょ
    なんで家族がいるのに扶養を求めないの
    まだ若いんだから働けるでしょ
    ニート問題と同じく、生活保護の分野でも、社会のイメージと先入観が強烈な足枷になっている。

    生活保護は、どのような状態の人も排除しないで支援していくという社会包摂の理念の上に制度化されている。「最後のセーフティーネット」と呼ばれるくらい、「最終的には誰も排除しない制度」。かわいそうな人のために社会保障があり、その中のひとつとして生活保護などの貧困政策があるのではなく、普遍的に誰でも受けることができる社会保障の中に、生活保護制度を位置づける必要がある。いつ体を壊し働けなくなるかもわからない、いつ鬱になってひきこもってしまうかもわからない、いつリストラにあうかわからない、再就職できないかもしれない、新卒だって無職になる時代。今の社会に生きる誰もが貧困と隣合わせに生きているのだから。

    あまりに心に響く本だったので、長々と語ってしまいましたが
    興味が湧いたら絶対に読んでほしい。この本に「関係のない人」は、ひとりとしていないと思いました。日本人の課題図書です。

  •  さいたま市で生活困難者を支援するNPOの運営者が生活保護バッシングに反論する。

     現場で動いている人の声は重い。
     ソーシャルワークのない金銭だけの支援は効果が薄く、社会システムの変化を提言しないソーシャルワークもまた意味が薄いといった記述に強く納得した。

     生活保護を考える上で必読の一冊。


    ※ 2021追記 藤田孝典氏がネット等でヘイト発言を繰り返すようになったことに抗議し評価を1点に修正しました。

  • 「早めに生活保護制度に入ってもらって、早めに支援したほうが自立支援は有効に機能します。生活保護受給者を排除するよりも、丁寧で重厚な支援を導入した方が、生活保護からの脱却にも有効です。これまではそういった納税者に転換するべき人たちが、機会を与えてもらえなかったといえます。」(157)

    支援の前に財源のことを考えろ、云々というとても真っ当なように見えて凡庸な論理ではねられてしまうのは、社会福祉も教育行政も似通っている。お金周りをよくするセクターや企業への投資も大事だけれども、身体の自由が効かなくなった時にそれでも回復し就労出来るだけの「生活上の弾力」を、全ての人間に与えることこそが、そう遠くない将来の日本の基礎体力を少しでもまともなものにするはず。

    そうした事態の認識が広がっていかないようでは、「将来世代によい日本を」という先行世代の言葉は勿論、「何とか生きて行ける国を」という私たちの世代の言葉すらも、恐ろしいほどに空しい。

  • チェック項目21箇所。もうこれ以上、貧困によって人を殺させないために、どうすればいいのか、ほんとうの意味で、貧困から自立できるようにするために、どのような考え方が、しくみが必要なのか、わたしが10年間の支援のなかで考え、取り組んできたことを、この本をつうじて、少しでも多くの人にお伝えできればと思います。わたしも、もともとは頑張ればなんとかなるはず、と考えていました、努力をすれば報われるという高度経済成長を経験してきた両親に育てられたわたしも、以前はそうした昔ながらの会社人間の考え方をもってきました、ちゃんと企業に入って、きつい仕事も我慢して張りついて、企業のために一生懸命し働いてさえすれば、たとえうつになろうが、多少のつまずきがあっても、その見返りとして自分の生活も、社会もよくなっていくんだ、というある種の幻想です。現代の日本において、誰であれ人の死は、もう少し尊いものとして迎えられると思っていたんです、わたしの祖母は、家族みんなに看取られて、家の中で亡くなりました、人の死は、家族みんなから感謝されて、「よくがんばったね」と声をかけられて、そうやって迎えるものだと思っていたんです。路上に戻ることをわたしたちは「再路上化」と呼ぶのですが、こうしたことはあちこちの支援の現場で繰り返されています、路上にしか居場所がないという人も実際にはいます、だから、路上での生活を肯定的にとらえることが、まったく駄目だとは思いません、でも、路上しかその人の居場所がない状態が続くのはよくないだろうと考えています。ホームレスの人たちの存在を認めてもらいたい、それは、どんな人間だって尊いんだという、それだけのことなのですが、その視点がいまの社会には欠けています。厚労省の調査によると、2010年の生活保護利用世帯数は195万2063でした、生活保護費総額は3兆3296億円です、このうち、不正受給件数はどれくらいでしょう、2万5355件です、これは全体の1,8%となります、金額にして、128億7425万円であり、全体の0,38%です。「がんの治療費を払い、彼女のこれからの生活の面倒も見るなんて、そんなことはできない」、妹さんはこれまで精神的には支えとなってくれていたのに、多額の金銭的な支えの話を切り出したことで、その絆は断たれてしまいました。「なぜ家族が扶養できないの」という質問は、あらゆるところで繰り返されます、しかし、こうした質問をなさる方の多くは、おそらく恵まれた家族関係にある人でしょう、わたしたちのところに相談に来られる方は、家族から虐待を受けていたり、金銭的な搾取を受けています、家族関係の中でお互いを扶養するような温かい関係性を築くのが、とても難しい状態にあります。路上生活をしている方に「なぜ生活保護が嫌なのですか」と聞くと、「施設に入ったことがあるけれど生活保護はもうこりごりだ」と口にされます、多くの方が無料定額宿泊所で自立を妨げられ、そこに滞留してしまったり、そこから抜け出して保護や支援を受けることを毛嫌いする。医療扶助を悪用して過度に診断したり、医薬品を購入させることで診療報酬がつき、医師にも利益があります、医師が過度な診断をするのは、多くの出した医薬品が転売されることを見こしつつも、自分たちの利益になるので、むしろそれを推進していることにほかなりません。「餓死や孤立死というのは、自分でそういう死を選んでいるのではないか」「本人が自由に死ぬ権利もあるんじゃないか」と平気で口にされる方がいます、本当は貧困状態だったり、孤立していたのではないか、そんな可能性を想像する力が乏しすぎます、結局、亡くなる人たちに対しても、「自己責任」のような、「本人が選んでそうしている」という見方がされています、誰にもつながらなくていいかのようにしてしまっている社会の側に問題があると思います。努力すれば何とかなるという非現実的な言葉は、貧困に対する認識があまりに甘いために出てくるのだと思います、努力するための土台が崩れていることへの想像力、共感力のないケースワーカーが現場には多く見られるのです、そういう能力を鍛える努力が、ケースワーカーに必要なのではないかと思います。生活保護の福祉事務所の査察指導員・ケースワーカーは社会福祉主事でなければならないと規定されているにもかかわらず、実際にはこの資格の保有率は75%程度です、4分の1ほどが無資格で社会福祉法に違反しながら、支援をしているということになります。なぜ生活保護を受けても生きることができないのだろう、そこまで支援して、わたしたちとの関係もある程度構築できていたのに、結局、その人は心を許してくれなかったのか、心を許してくれていたとしても、生きる意欲を見出したり、この先の生活に展望を感じることができなかったのではないか、そういうことまで見据えて支援を組み立てなおさないと、やっぱりダメなんです。その人が死んだ後も、生前の思い出を話せる人がいて、手を合わせる人が一人でも二人でもいて、その人にまつわる品が棺桶に入る、これが、「健康で文化的な最低限度の死」だと思います。生活保護の受給者が、生活保護から抜け出す一番の理由をみなさんはご存知ですか、統計を調べると、「廃止事由」が分かります、そのほとんどは「死亡」なんです。ギャンブルやアルコールに生活保護費を使ってしまうことも「不正受給」であるかのように言われています、まず理解すべき重要な点は、こうした使途は不適切であったとしても、違法ではないということです、生活保護費の使途は自由ですから、ギャンブルに使おうが、アルコールに使おうが、法的には何ら問題はありません。アルコールやギャンブルは、日常生活の苦悩など対処しきれない現実を一時でも忘れさせる手っ取り早いストレス解消方法です、社会福祉では、そのような相談者の状況は、ストレス対処能力を習得できていない状態だと考えます。ようやく生活保護が受給出来ても、そのあとはお金が有効に使えないので、支援がない場合、家賃滞納をしてアパートを追い出されてしまうでしょう。要支援者たちが就労を継続することは、まず不可能です、そして、協調しておかなければならないことは、「まずは働け」、「何でもいいから働け」は禁句だということです、ある程度の仕事上の満足感ややりがいがなければ、離職してしまうリスクがあります。日本の生活保護費がGDPに占める比率は、先進諸国でも極端な低さです、しかし、生活保護制度に関する予算を取ることに、そもそも多くの人が納得しない状況があります、社会保障費や社会福祉費は、今も低いにもかかわらず、まだ下げろという論調です、また、「自力で生きていけない人たちを国や政府は助けるべきとは思わない」と回答する人が38%いるという状況です。奨学金についても「もらえる」お金はほとんどなく、大抵は未来の借金となります、利子も低いものではありません、教育を受けるのは権利であるはずなのに、なぜ働かなくてはいけなかったり、債務を抱えなければいけないのでしょうか、そもそも、学費は高すぎるのではないでしょうか、こうした矛盾を身近なところで感じられるはずです。

  • タイトルにあらわれている本気に惹かれて購入。
    一般に流布している、生活保護についての誤った認識をただすのにうってつけの本。広く読まれるべきだと思うし、著者のような活動は応援していきたい。
    個人的には、ロールズが言う「無知のヴェール」みたいなものとは別の仕方での公共性、倫理を模索したい。というのも、ロールズの議論は結局、「まわりまわってあなた自身のためなんですよ」という、自己保身のための想像力への訴えかけに過ぎず、真に他者のための倫理とは異なっていると思うから。

    以下メモ。
    生活保護受給者の自殺率は通常の二倍超。金やモノを渡すだけではダメ。対人的な援助が不可欠。
    生活保護はあくまで、最低生活費に対する不足分のみ。
    諸外国と比較すると、日本における、最低生活費に満たない収入で生活している人たちの受給率は極めて低い。「漏給」率80パーセント。
    日本の生活保護の対GDP比は0.6パーセント。アメリカの半分。イギリスの8分の1以下。
    「不正受給」としてカウントされるうちのほとんどは行政側の説明不足・怠慢によるもの。
    医療の「不正受給」は医療機関側に問題。

  • 孤立死

  • とても良いソーシャルワークの入門書。具体例を用いてわかりやすく実態を伝えているし、全体をソーシャルワークの価値が貫いている。新米社会福祉士としても大切なことを再確認できたなあと。

  • 著者の活動報告本
    そうさ、もちろんそうさ、弱い者を守ってやれるのが良い社会さ。

    だけど、その財源はどうするんだい?
    どこを削る?税率あげる?
    法人税率を下げろ。増やしたら日本から出て行くぞ企業はいう
    消費税あげるなと市民はいう
    老人のための費用をもっとよこせと老人はいう
    保育所をなんとかしてくれと若者はいう
    自衛隊の費用も減らせない

    さぁ、どこからお金を持ってこようかね

    やっと手にした給与から税率が上がりしぼりとられ、手取りが減り、
    こんなことなら、あの人達のように、病気にでもなって、仕事ができなくなれば、何もしないでお金がもらえる、そのほうがいじゃないか。そう思う人たちの気持ちもわかるんだよな・・

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著者プロフィール

1982 年茨城県生まれ。NPO法人ほっとプラス代表理事。聖学院大学人間福祉学部客員准教授。反貧困ネットワーク埼玉代表。ブラック企業対策プロジェクト共同代表。ソーシャルワーカーとして活動する一方で、生活保護や生活困窮者支援のあり方に関し提言を行う。著書に『下流老人』(朝日新書)、『貧困クライシス』(毎日新聞出版)など。

「2018年 『未来の再建』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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