かなわない

著者 :
  • タバブックス
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本棚登録 : 959
レビュー : 85
  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784907053123

作品紹介・あらすじ

2014年に著者が自費出版し反響を呼んだ同名冊子を中心に、『働けECD〜わたしの育児混沌記』(ミュージックマガジン)後の5年間の日記と散文で構成。震災直後の不安を抱きながらの生活、育児に対する葛藤、世間的な常識のなかでの生きづらさ、新しい恋愛。ありのままに、淡々と書き続けられた日々は圧倒的な筆致で読む者の心を打つ。稀有な才能を持つ書き手の注目作です。

感想・レビュー・書評

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  • 写真家であり、ラッパーのECDの奥さんの日記と私小説のような短文集。

    以前『働けECD〜わたしの育児混沌記』を読んで、面白かったので、その続きのつもりで、軽い気持ちで笑って楽しもうと読みだしたが、見事裏切られ腹にズシンとくる内容だった。

    筆者の植本さんがこの日記で、「働けECD」の続き物にしたくなかったと書いているように、自分自身を全面にされけ出した本になっている。「女」全開。「自分」全開。

    ただただ、ブラックホールのような、マグマのようなパワーに圧倒される。

    最初の頃の日記は育児に翻弄される筆者の、もうどうしようもない育児の悩みがつづられる。保育園の先生にも心配されるようになる。子育て中は、みな似たような体験がある。育児とは本当に大変なもので、孤独なもの。自分自身を追いつめるものである。その点で非常に共感できる。外では涼しい顔しているけど、家の中では散々もがき、必死に育児している。そんな等身大の母親(基本的に世の母親達は、皆自分なりの母親像になれなく、もがいていると思う)として応援がしたくなるし、子育ての親として背中を押してもらえるような元気をもらえる。

    ただ、今度の本はそれだけでは終わらない。母親との確執、その関係から自分の子供との関係、距離感へ。段々と精神的に追い込まれ、いつの間にか好きな人ができ不倫しつつ離婚をしたいといいながらECDとは別れられず、漫画家の先生にカウンセリングを受けるに至る。
    私小説を読んでいるような、どこに行ってしまうのだろうと、まさに生きながらこの人自体が文学という趣。

    母親という目線でみると、理解できない部分が多々あるが、この人の日記(ブログ)は正直にさらけ出されていて、描いてある内容はメランコリックなのだが、ある意味すごい強さがあるなと思う。永遠の10代のような純粋さと鈍感さを併せ持つ。

    何はともあれECDが、だらしないゴロツキでもなんでもなく、包容力のある不器用な男として魅力あふれて感じられる。

    やはりこの本の裏に流れるテーマはECDなのだと思う。ECDという存在なしに植本さんの心情だけでは、ここまで惹きつけられて読めないのではないだろうか。

    そして、今年の初めにECDが亡くなった。
    改めてYoutubeでラップを観て、カッコよさに痺れた。
    動画で子供たちと映るECD(石田さん)のシャイな笑顔に、入院時のさみしげな目つきに、惹きつけられた。

    残った子供たちと一子さんが幸せに生きていけるように。本の題名のように「かなわない」ことが世の中にはたくさんあるけど。

    ちなみに、一子さんに日記にでてくる本には、あたりが多い。つげ義春の奥さんの藤原マキ「私の絵日記」が紹介されていたが、つげさんもびっくりの面白さ。一子さんもだけど、アーティストの奥さんはやはり只者ではない。

  • 一気読み。著者の葛藤とか欲望とかにもがく姿が強烈で読んでいて辛い。でも自分とはかけ離れててるのに不思議と気持ちがわかるような気もする。これくらいのエネルギーにあふれる人でないと作品は生まれないのかも。

  • とても正直な人だ、文章だ。

    amazonレビューを見れば分かるように、読む人にこれだけの嫌悪感を抱かせるのは、この「正直さ」が恐ろしいからだろう。本当の自分に向き合うのが。

    私たちは試されているのだ。

  • 途中まで、なんとも移入できなかった。
    でも読み終えると、これほど胸に残る作品は他に無いと確信した。
    まさに清も濁も丸抱えして七転八倒しながら生きる姿。
    飲み込みにくい本こそ、自分に何かを残す。
    この作品は、かさぶたにならない傷痕を残してくれた。
    これは強い。

  • 読んでてしんどくて辛かった…。
    前半は震災の時の気持ちの揺れが思い出されて辛かったし、全体的に自分と同じ年頃の子の母の暮らしとして全く違ってて、受け入れ難かった。
    終盤唐突に知らされる、夫とは別の恋人との修羅場。
    知ってる人や店が沢山出て来るので余計にどんな暮らしかがわかり、生活が苦しいと言いながら外食も買い物も気軽にするし、子供とつきっきりが恐怖で辛いとずっと言ってるし、こんなにも自分を優先している人を知らなくて驚いた。
    というか、隠せないんだと思う。
    子供がいたら、人目を気にしてもっと子供の可愛い描写を入れたりして取り繕うと思うんだけど、そういうのが一切なくて、良くも悪くも剥き出しに生きるしかできない人なんだなと思った。

    あと、育児が苦痛でしかないと言いながらもご飯は美味しそうで、実際はもっときちんとしてるのかもかとも思ったり。
    あと、何もかも黙ってそのままで丸ごと肯定してくれるECDかっこよすぎでしょ。

  • とても強い本だ、と思った。

    強さに負けそうで、なかなか読み進められず、まさに「かなわない」と思いながら読む。

    同年代の著者の気持ちは肌感覚ですごく伝わってくる。
    自由でいたい、自由でありたいと思う一方で、実際には自由のない生活、自由でいるつもりが、それは自由ではなかった、そんな生きづらさ、日々をふつうに過ごすことの難しさが。

    壮絶な内容を包み込むかのような優しく美しい装丁は、激しい感情をさらけ出す著者を見守るECDさんのように感じる。

    結婚もして、子どももいて、仕事もしている。なのにどうして?

    よくわからない何かと闘って、そんな思いに潰されそうになる。

    かなわない。

    「かなわない」というタイトルにどれだけの思いが詰まっているんだろう。
    これ以上、強く素直な言葉はない、と思った。

  • 読むのに体力が必要だった。けど1日で読んでしまった。おもしろい、興味いひとだった。弱いところや悪いところを人に見せられることはすごい。生きづらさはとても大変で、その源のところを読んで、自分はラッキーと思った。
    界隈みたいのがいい、楽しいけど、哀しい。
    阿佐ヶ谷のシンチェリータが出てきてうれしい、びっくり。

  • 図書館にて。
    まだブックコーナーが冒頭にあった頃の王様のブランチで紹介されたものだった気がする。(もう見ないが)
    内田春菊さんのエッセイを思い出した。
    母親との確執はこんなにも娘を破壊するものなんだろうか。
    同じくらいの娘を一人だけど育てている母親として、申し訳ないけど自由時間、私より全然全然多いんだけど?寛容な旦那と娘たちの犠牲の上に成り立っていた不倫にすがって家族を苦しめた挙句、その不倫相手も追い詰めるなんて・・・。
    確かにところどころ出てくる壮絶な子育ては大変そうかもしれないけれど、あるよあるよそういうこと。どの母親も楽な訳無いじゃん、あの手この手でいろいろやってんだよ。みんな、休みもなく、優しい言葉もそうそうかけてもらえなくても、ましてや恋愛相手もいなくても。
    とはいえ、キャパは人それぞれ。この人に2人の子育ては無理だったんだと思う。母親への復讐ではないとあとがきで書かれてるけど、母親との関係は自身でどうにかしてと思う。それより将来この本を読んで娘はどう思うのか?自分の母親よりひどいことしてないか?苦しいのは自分の問題であって、娘たちのせいではないのだ。
    親は親であるとき、強くならざるを得ないし、強くなるべきだと思う。弱い存在を守らなければならないから。
    それにもっとシンプルに、日々成長していく娘たち、それをそばで見ていられるのに、子育ては大変だけど楽しいことだっていっぱいいっぱいあるのに、なんともったいない。恋愛なんかよりもっと究極の愛情がそこにあるのに。
    腹は立たないが、娘達が不憫でならない。

  • こんな本は初めてだなと思った。

    外へ外へと出ていって
    人間関係を拡大しながら働き続けることと、
    小さな小さな家の中を守っていくということの
    両立の無茶さを感じた。

    働き続けるには、
    外からの刺激も学びも必要で、
    そのためにいろんな人に出会っていたら、
    そりゃ好きな人もできるわな、っていう話。

    夫婦ってなんなのか
    家庭ってなんなのか

  • ちょっと赤裸々な育児日記、くらいの気軽さで手に取ったら、とんでもなかった。
    どうしようもなく正直に、一生懸命に、自分であろうともがき続ける魂の記録だった。それも現在進行形の。
    息苦しくてしかたないのに、貪るように読み進めてしまうのは、彼女の言葉の隅っこの方に自分を見つけるからかな。ふとした言葉に、ぐっと込み上げるものがあり、何度も息を吐いた。
    .

    書かずには、表現せずには生きていけない人がいる。比喩的な意味などではなく、言葉そのまんまの意味で。そういう人をすごいなとか、しんどそうだなとか思うと同時に、すごい嫉妬の気持ちが沸き起こるのはなんなんだろう。
    .

    あと単純にめちゃくちゃうまいのです。日記形式の文章が。美文ではないし、だらだら書いてるような雰囲気で油断するけど、そこにある気持ちをフレッシュなままとりだして、濃縮果汁還元する言葉のチョイスとリズムに、書いてあることの重苦しさは横に置いて、こりゃ凄いわと感心したり。
    .

    もう、いろいろな角度からかきむしられ、ちょっとまだ感情がまとまらない。

    ここ数日の間に新刊がでたらしい。写真展も開催中とか。早く読みたい、写真を観たい。でも同時に思う。この何日か少しの隙間もこの本を開き、どっぷりつかってへとへとになって、やっと読み終わったのに、2冊目とは、、身がもたない。
    ー それでも、読んで、観にいってしまうのだろうけれど。

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著者プロフィール

1984年、広島県生まれ。2003年キャノン写真新世紀で優秀賞を受賞。著書に『働けECD 私の育児混沌記』『かなわない』『家族最後の日』『降伏の記録』『フェルメール』『台風一過』など。

「2019年 『うれしい生活』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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