月に射されたままのからだで

著者 :
  • 六花書林
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  • Amazon.co.jp ・本 (189ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784907891459

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  • そこらへんに転がっている
    死の香りを目の当たりにしながら

    震えるような 予感を横目に通り過ぎて
    巡礼の道を行く

    街道 跡地 交差点 公園 路地
    そして机の上

    帰る場所は決まっているのに
    行く場所がもう決まっているのに
    その間が ないかのような まるで放浪

    感じたものが そのまま 軌跡になるように
    彷徨っている

    どこかに連れて行ってほしいと思う

    けれども どこにも行かない
    日常という この 世界は
    揺れながら しかし
    微動だにしない

    ある人は言った「よくそんな悲惨な光景をまじまじと見られるね」
    ある人は答えた「私は二つの目で見ているの。一つは私自身の目で」
    「そしてもう一つは、小説家としての、目で」

    今も残っている その言葉を
    そうして また 思い出す

    こんなにも 物と繋がって
    生きてしまったら もう何にも
    触れられない

    こんなにも壊れていく世界は 痛みで溢れている

    誰もいない
    物しかない

    人がいなくなっても
    時をその身に刻み続ける傷の
    寂しさとも悲しみともつかない記憶

    「かなし」と言って「愛し」と詠むその「悲し」みは
    どれほどだろう どれだけの 慰みになるだろう

    物は簡単に壊れていくのに、口の中で弄べる言葉はなんて優しい

    風の先に聞く言葉を 分け隔てた時
    それは命ではなくて 定義になった

    言葉を 言葉である前のものに分類した時
    それは祈りではなく 意味になった

    風は強く 心は弱く
    体は脆く 物は儚く

    風の気持ちを聴くのなら
    少なくとも寂しくはないかもしれない

    なぶられる地上のありとあらゆるものの儚さを
    嘆かないだけの 強さがあるのなら

    歩いていく
    自らの足で 自らの意志で

    風を受け止め 雨に曝され
    太陽に焼かれて 月に射されて

    その影が飲み込んだもの全て 言葉にして あなたに届けたい

    彷徨っているのではない
    巡っている 廻っている

    旅の終わりは旅の始まり

    行きつ戻りつを繰り返して
    旅路と帰郷の交差点で 重なる時

    一瞬かもしれない 風の悪戯かもしれない
    しかしその揺れた炎が そこで瞬いたことを

    風化させてはいけないと 筆を握る
    静かな筆跡は しかし熱く燃える

    思わず握った拳の中に 燃ゆる火を
    思わず声に出した言葉の中に 輝く星を
    思わず踏み出した一歩の先に 真実を
    思わず目にしたものの中に 夢を

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