潜行三千里 完全版

著者 :
  • 毎日ワンズ
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  • Amazon.co.jp ・本 (300ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784909447081

感想・レビュー・書評

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  • 元大本営参謀 戦時中は、作戦の神様と呼ばれノモンハンなど多くの作戦でその能力を発揮した。
    本書は、その辻が、終戦を迎えた、タイのバンコクからの逃避行を記載した自伝である。
    戦後、戦犯指定から逃れ、衆議院議員、参議院議員を歴任し、最後は、ラオスのジャングルにて、消息を絶つという
    波乱万丈な人生を歩んでいる。
    GHQからは、第三次世界大戦を起こしかねない男として、危険視され続けていた。
    日本ばかりか、アジアにその名をとどろかせた、希代の天才は波間にその背をみせつつ、歴史の中へと消え去ったのである。

    気になったのは以下です。

    華僑の底力は偉大なものがある。タイ国の経済の主導権は、この数日の現象をみても、完全に華僑に握られている。
    一兵の援護も受けない中国人が世界のすみずみにまで発展し、経済的に根を張る底力には、敬意を表さねばならぬ。

    辛亥革命を近代的民主革命と見たことが誤算の第一歩であろう。これは排満興漢を動機とする政治革命であって満州朝廷に変わるべき孫文朝廷を建設するのが主要な狙いである。
    三民主義理論は、ただ旗印に過ぎなかった。

    中国四千年の歴史は、いずれの時代においても民衆の希望いかんにかかわらず権勢を争う集団の、個人の闘争史である。
    野心家が武力を駆使して、天命を勝手に作って王位をうかがう歴史の連続である「有徳作王」(徳あるものが帝王になる)の国だ。

    彼ら(中国人の)知識青年の中では、日本の過去の政治家の中で一番偉い人物は、西園寺公だと信じている。
    民族平等の原則をベルサイユ会議で主張した当時の日本外交に被圧迫民族がどんなに強い共感を覚えたことだろう

    過去の日本の対華政策は、ただ目前の権益主義を方針とし、主観的立場で相手を見たためについに失敗している。
    辛亥革命を済南で妨害し、滅びゆく清朝の復辟を期待したり、英国による弊政改革を嫉視したり、二十一ヶ条の要求を強行して火事泥をやったりした過去がいかに愚劣であっただろう

    目次
    本書に寄せて
    1 人と人
    2 死関を突破す
    3 わき返る安南
    4 おごる重慶
    5 還都後の南京
    6 旅窓に映る中国の世相
    7 一握りの土
    我等は何故敗けたか

    発売日 2019年08月15日 第1刷
    発売日 2019年09月20日 第6刷
    著者/編集 辻政信
    シリーズ 潜行三千里
    出版社 毎日ワンズ
    発行形態 新書
    定価 本体1100円+税
    ページ数 299p
    ISBN 9784909447081

  • 数多の犠牲者を出したノモンハン事件の参謀であり、本人にインタビューを行った歴史家の半藤一利をして「絶対悪の存在を感じた」と言わしめた辻政信。ビルマでの惨敗からタイに抜け、タイにて敗戦を迎えた辻政信は、国民党政権が率いる中国との合従連衡をリードすべく、英米からの戦争犯罪人としての追求を避けながら、東南アジアを潜伏し、中国は南京を経て日本に戻ることとなる・・・、そうした潜行を描いた本人による自伝が本書である。

    確かにここでの潜行は読み物としての魅力に溢れているのは間違いない。タイでは仏教の僧侶として、ベトナムでは町医者や華僑として、そして日本に戻る際には一介の大学教授として、というように、次々に身分を隠しながら、日本に戻ることに成功する。それにしても、読んでいて空恐ろしくなるのは、関東軍の参謀として日中戦争を引き起こし、結果としての太平洋戦争、そして敗戦を招いたということに対する自責の念が全く伺われない点である。ひたすら潜行を続けながら、国民党政権の要職者たちにコンタクトし、日中の合従連衡を夢見るその姿からは、過去に自身が行ったことへの反省は微塵も感じられない。

    極めつけは本新書版にて掲載された「我等は何故敗けたか」という小論である。官僚、外交の失敗、科学技術の水準の低さ、陸海軍の対立(特にその原因は海軍にあるということ)、などが敗戦の原因であると主張し、自身が属した陸軍、特に関東軍についての自責がこれまた完全なまでに忘れ去られている。

    巨悪をなす人間というものは、こうまで自身の悪に無頓着でなければ、巨悪をなすことはできないのかもしれない。そうした点を知れるという点でも、超一級の歴史的ドキュメントである。

  • 著者の主観による内容なのでこれだけではなんとも。動機や目的が正しければ何をしても、どんな結果も許される、との思いがあったか。

  • 有名な帝国陸軍参謀であった辻政信による、終戦から戦後にかけての活動を記した本。評価が分かれる人物ではあるが、ノモンハンやガダルカナルでの戦闘にも参加していることも本で読んだことがあるが、考え方や行動力は凄いと感じた。今回、ビルマからタイへ移り終戦を迎え、その後ベトナム経由で中国に渡り重慶に滞在、上海から帰国している。国民党と日本との連携を深めることを主張しているが、国民党と共産党の行動もよく見て判断、評価しており、その洞察力は鋭い。すべてが事実ではないのかもしれないが、考え方に納得できるし、熱意もすばらしいと思う。勉強になった。
    「(バンコク訪問)翌朝自動車で出勤した。わずかに五、六町の距離を、車を使うことは気がひける。将校で、特に少佐以上で街を徒歩しているものはほとんど見当たらない。猫も杓子も、赤い小旗や黄の小旗のついた乗用車にふんぞり返って出勤し退庁し、買物にも料亭にも使い放題らしい」p9
    「(山本熊一大使)中国人に接する道は信を腹中におくことである。二度だまされても、三度背負投げを食っても平気で信頼してやれ。そのうちに決してだまさない中国人を発見し得るだろう」p11
    「戦いを避ける道は、戦いを恐れない準備によってのみ開かれる(抑止の考え方)」p14
    「(華僑)一兵の援護も受けない中国人が世界のすみずみにまで発展し、経済的に根を張る底力には敬意を表さねばならぬ。これを政治的に善導し、組織したら、中国は東南アジア全域を兵力によらずに掌握できるだけの素地を十分に持っているようだ」p72
    「かつて安南人(ベトナム人)を奴隷たらしめるために採られたフランスの政策は、教育を抑えたことと賭博を奨励したことである。蒙古民族がラマ教と阿片で骨の髄まで抜かれたように、この安南人もまた容易に起ち得ない病根が深くその心臓には食い込んでいる」p110
    「終戦後も数百の日本将兵が椰子林の中の農家に安南婦人を妻として暮していたとのこと。中国人よりも、タイ人よりも、ビルマ人よりも、この安南人に、日本人と近いものが感じられる」p111
    「(ベトナムのタケク)この街もフランス人の別荘地であるが、青天白日旗に埋まっている」p114
    「中国はこの(ベトナムの)革命の渦中に兵を駐屯させながら、安南民族の独立を助けるでもなく、さらばとてフランスの弾圧に協力するでもなく、ただ消極的に華僑の保護と、華僑から捲き上げることに血眼になっていた」p115
    「廃墟の中に仏軍の約一小隊が天幕生活をし、傍に焼けブリキで造ったバラック建ての食料品店がある。華僑の店だ。腸詰や煙草や野菜を仏兵相手に商っている。安南人のやられた跡はこのようにしてたちまち華僑に地盤を奪われてゆく」p126
    「民族感情も生きるための前には弱いものである。経済的に独立し得ない国民は、政治的に軍事的に独立し得ないことをつくづく考えさせられる」p144
    「仕事にはさっぱり熱心でない国民党員たちも、親分の太太(夫人)の世話は生命がけでやる。職務怠慢でも首にはならぬが、太太の一言は浮沈をきめる」p162
    「(雲南省昆明)街を散歩した。露天に氾濫する商品はほとんど米国品だ。空輸ルートでいかに多くの商品が膨大な軍需品とともに集積されたことであろう」p163
    「金の前には道義もなく、面子もない中国人に帰った」p173
    「赤痢やチブスは中国では一年中どこにも跡が絶えることはない。コレラも珍しくはないがたいてい五月から十月までだ」p192
    「日本が八年間の占領政策で失敗した第一の原因は、中国民族の心理を理解せず道義が低下して民衆のうらみを買い、しかも飢餓と混乱とを救う実力の不足にあった」p195
    「中国四千年の歴史は、いずれの時代においても民衆の希望いかんにかかわらず権勢を争う集団の、個人の闘争史である。野心家が武力を駆使して、天命を勝手に作って王位をうかがう歴史の連続である。「有徳作王」(徳あるものが帝王になる)の国だ。何人が徳があるのか最後に判別し、審判するものがないから、結局は力を持つもの、剣を持つものが他を圧倒して、自ら徳ありと称して王位につくだけである」p196
    「(なぜ中国は二つに分かれて戦うのか?)二人の人がいる。一個の品物を欲しがるからだ」p196
    「中国が日本に勝てると考えるようになったのは太平洋戦争が始まったときである。しかし戦争がこんなに早く終わるとは思っていなかったらしい。沖縄が陥ちてからも少なくても三、四年はかかるものと予想して一切の準備が立てられていた。八月十五日の降伏は、ある意味において重慶を震駭させた。日本人は負けた経験がなくて狼狽したが、中国人は勝った経験がなくうろたえた」p199
    「この数ヶ月を浸食と工作をともにして感じたことは、中国軍人が軍事能力において極端に低く、遊ぶことと金儲けをすることが上手な点であった」p229
    「国家の保障を有り難く受けた過去二十年間、家を顧みず子を忘れてひたすら戦い続けた前半生は無残にも敗れ、同胞を、祖国を、今日の悲境に突き落とした」p233
    「(腐り切った国民党軍)戦況が逐次緊迫するにかかわらず、国防部の中堅級には誰一人真剣な表情で作戦を準備指導するものはない。一連隊の動きまで首席の指図を受けねばならぬ。首席以外はすっかり他人事と観じているようにダンスと宴会に明け暮れている」p246
    「中共と国民党とがしのぎを削って戦っていることは中国の内政問題に過ぎない。滅び行くものは自ら墓穴を掘りつつあり、興るものは興るべき新進の鋭気があるからだ。忠言を容れ、信頼して使われたら、人一倍意気に感じ易い著者はおそらく身命を賭して蒋首席を助けたであろうが、首席は雲上に祭られて深い暗雲に覆われている。傍観者の立場以外に処すべき道はなくなった」p247
    「中国の問題は中国人の良識に委す以外に解決の手はない。夫婦喧嘩は犬も食わないはずだ。手を出したものは必ず失敗する」p252
    「勝った中国が負けた日本よりはるかに悪い状態になった」p266
    「(国民党の状況)物資、特に食糧は入らず、市民の生活は極度に窮迫し、それが共産党の乗ずる隙となり、さらに国府軍の各地における敗戦によって、政府の人気は刻々に低下していった。また各省政府は中央の統制にそむいて、銀本位の省幣を発行して自衛を図り、国府の統制力は全く無視される結果となった。これが、第一線で戦う軍隊の共産党への寝返りに拍車をかけたのである」p268
    「国内に不可充要員として残ったお役人は軍人の「サーベル」の陰に隠れて、「軍の要求ですから」の一点張りで善良な民を、有能忙繁の実業家を如何に軽視し如何に圧迫したことか」p293
    「石原中将はクビになり、板垣大将は朝鮮に幽閉された。日本一国でこの戦争に勝てると信じた人たちは、世界が数個の連合国家集団に向かいつつあるの大勢さえ見透し得ず、百万の血を流して、当然かち得べき東亜各民族の心からの信頼を受け得なかったことは、為政者に、最高権力者に時勢を見るの見識を欠き、共通の運命にある有色民族を抱擁するの雅量がなかった。しかも、作戦地たる支那や、南方各地に、大使の認識なき官僚を大量に放出して、日本においてすら失敗した政治経済を、他民族に強要し、成敗一切の責任を自ら負うべき軍が、文官に片棒を担がせようとしたところに失敗の一因があった」p 294
    「順序としてはまず支那問題を清算し東亜的力量においてのみ、不敗の位置に立つことができたのだ。支那に百万の軍を節約し、これと提携して当たれば、米国も容易に勝つ見込みはなく、いわんやインド民族の心からの協力を得るにおいては、この戦争は負ける戦争ではなかった」p294
    「(明治天皇が後崩御直前に側近にお洩らし遊ばされた一言)朕一代の過失は陸海軍を分立させたことだ」p296

  • 誰かが小説にすると良いのに~ビルマで負傷し、タイで敗戦を迎え、坊主に化けて名前を変え、偽医者になってベトナムを経由し、国民党に連絡を取って昆明・武漢・南京で日華合作を画策するが、諦めて大学教授に化けて上海から帰国する元大本営参謀の大佐~いや、既に小説化されているか? 映像化しようとすると、南京虫や中国のお手洗い事情、居室に青痰を吐く老若男女も描かないとね。それは無理だすな

  • 大東亜戦争の「作戦の神様」であり「絶対悪」の辻政信の自叙伝。手記であるからして客観性はだいぶ割り引いたとしても、これまでの冷血漢な印象とは異なり、正義感と他者への慈愛に満ちたあふれた印象が強く残った。
    高い使命感を持ち、頭脳明晰でカリスマも行動力があれば、結果の如何では乱世の奸雄という誹りをうける事になってしまったのか。。

  • 内容の凄さから過去につけたことのない五つ星をつけました。今回の版は「我等はなぜ負けたか」の章を遺族が公表してくれたお陰のようですがむしろこの本の価値はこの章に凝縮ていると感じました。マスコミや世間の偏った見方ではなく本当の軍人の率直な敗戦についての感想を多くの人に読んで貰いたいものです。

  • 「作戦の神様」とも「絶対悪」とも言われる辻政信だが、敗戦後にタイ、ベトナム、中国に潜伏し、帰国後に出版して当時ベストセラーになったという本書。戦争も遠くなったいま読めば、一種のノンフィクションとして面白くも読めるのだが、敗戦の記憶も新しい当時の人はどう読んだのだろうか。
    内容は、筆者の信条や思考については粉飾もあるかもしれないが、現地での見聞は事実と見てよいだろう。つまり、蒋介石を主席とする国民党政権は軍も含めて著しく腐敗していて、抗日戦争に勝利した瞬間から私利私欲が剥き出しとなり、旧主である日本以上に恣意的な搾取を行ったため、民衆の支持を得られず共産党政権・軍に敗れたという流れが具体的事実をもって適示されている。また、敗戦直後の東南アジアで、それまでの統治者であった日本や日本人に向ける現地人の冷たく敵対的な視線もリアルに描かれている。
    著者が戦犯容疑から逃れるためでなく、新しい日中関係を築くための礎として潜伏したという主張は、虚偽とまでは言えないものの、帰国後も戦犯指定解除まで潜伏し続け、その後文筆や公職で活動したことを考え合わせると、保身の匂いが拭えないと感じるのは、著者に厳しすぎるだろうか。

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