- Amazon.co.jp ・本 (312ページ)
- / ISBN・EAN: 9784909979360
作品紹介・あらすじ
元国税調査官が読み解く「危機管理」の経済学!
ペストの大流行、富士山大噴火、2度の世界大戦、
世界大恐慌、オイル・ショック、ソ連崩壊、バブル崩壊、
アジア通貨危機、リーマン・ショック、そしてウクライナ侵攻……
数字から見えてくる、「あの歴史的危機」のその後。
人類は、あの“災厄”に、どう立ち向かったのか?
ビジネスマンの頭にスッと入る、まったく新しい「歴史教科書」第2弾!
教科書が書かない重大事件の“決算報告書”
●数字が物語る江戸幕府の充実した災害対策
●ルイ16世が犯した税政上の致命的なミス
●「2度の敗戦」でもつぶされなかったドイツの工業力
●日本の経済援助と完全にリンクした韓国の経済成長
●ソ連崩壊の原因は「格差」だったという皮肉
●マハティールが名指ししたアジア通貨危機の「犯人」
●先進国が厳しすぎる新型コロナ対策を取った理由
●ウクライナ侵攻で世界が犯した「二つの誤算」
感想・レビュー・書評
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本書は有史以来の「経済危機」をピックアップし、詳述し、その対応と結果を学ぶことで今後起こりうる経済危機にいかに対応すべきかを検討するものである。取り上げられた「経済危機」は災害から、戦争、疫病に至るまであらゆる原因で起こったものを対象としている。昨今、コロナ危機やロシアによるウクライナ侵攻を起因とする物価高、物流網の混乱、エネルギー価格の高騰などあらゆる経済危機が押し寄せている。その中で歴史を学ぶことによって世界は経済危機をどのように克服し、どのような結果に至るのか予見可能性を高めようと手に取った。そのような中で人類は度重なる危機に接し、知恵を振り絞り対応してきたことが見て取れた。一方、現在進行中の経済危機を仮にも脱却したと言える日はまだ先であることも実感した。各国の帰趨を見守るとともに個人レベルの生活にどのような影響が出てくるのか今以上に中止すべきだと強く感じた。
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東2法経図・6F開架:KW/2022//K
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元国税調査官である大村氏が書かれた本です、彼の本は何冊も読んでいますが、様々な歴史上の事件を「お金」の観点から解説してくれている点が嬉しいです。
歴史の授業では、思想の違いなので戦争になったと習った記憶がありますが、当時、なんかしっくり来なかったのを覚えていますが、お金が絡んでいたとなると私には理解しやすいです。この本は第二弾とのことですが、続編も期待しておきたいですね。
以下は気になったポイントです。
・元禄地震・宝栄地震に続いて、富士山大噴火で最も被害を受けたのは小田原藩、なかなか復興が進まなかったので、幕府は被害地域を幕府の直轄領(5万石以上)に組み入れて、他の土地を与えた。小田原藩の石高10万石の半分が直轄領となり、幕府をあげての被災地の救済となった(p33)
・1143年にポルトガルはローマ教皇の裁定によりカスティリヤから独立した、その後力をつけて14世紀以降に強大な海洋国家となる、1415年ジブラルタル海峡を挟んだセウタ(アフリカ大陸側)を攻撃し陥落させた、これによりポルトガルは海洋進出を本格化させた(p43)ポルトガルはダホメ王国(ギニア湾に面した黒人国家)に銃、火薬、金属製品などを渡して、代価として奴隷を受け取った、奴隷はブラジルの農場、スペインの中南米植民地に売却された(p45)
・ポルトガルは、イギリス・フランスに比べて近代化に遅れていて、昔ながらのワイン、ブラジルでの砂糖が主な産業であった、イギリスから繊維製品を輸入していて貿易赤字であった、ブラジルで採掘された金も多くは貿易代金の支払いに当てられていた(p48)1822年にブラジルがポルトガルから独立、大きな財源を失って国力を失っていく(p51)
・中世ヨーロッパ諸国は国全体が王の領土ではなく、貴族・諸侯がそれぞれ領地を持っていた、王というのはその束役に過ぎず、国王の直轄領は広いものではなかった、貴族・諸侯は税金を免除されており、国王の収入は直轄領からの税と関税程度であった(p57)
・第一次世界大戦で、参戦国は莫大な戦費を使っていた、イギリスは戦前予算の38年分、フランスは27年分、ドイツは50年分、それらは国債の発行で賄われた、その負担を一身に背負わされたのがドイツであった(p82)
・敗戦国の主要国である、オーストリア、オスマントルコは大戦後に解体され、唯一残ったのがドイツであった、そのためドイツ一国が連合国全体の賠償を背負うことになった(p87)
・ドイツはインフレを収束させるため、レンテンマルクという通貨を導入した、これはドイツの土地によって保証されるという珍しいタイプの通貨であった(p95)
・世界恐慌は日本にも多大な被害をもたらせた、昭和4(1929)-1931には輸出は半減したが、昭和7年には恐慌前の水準に戻っている、これは円の為替安を背景に輸出振興策を取ったから(p99)その主力が綿製品であった、これは長らくイギリスの重要な輸出品であったがこれを日本に奪われ始めた、特に痛かったのがインド市場を奪われたこと(p101)これに対して、イギリスは関税をかけることで対抗した(p102)結局インド市場を締め出されたので、その吐口を満州に向けた(p103)オランダも同様な措置を取ったので、インドネシアへの日本製品の輸入制限をした(p105)
・農家の出身者の中には、農業より兵隊の方が楽だ、という者も多かった、貧しい農村にとって戦争は大きな収入を得るチャンスであった、兵や軍属の募集が増えるし、戦地に行けば特別手当が出たから(p109)
・アメリカは金本位制のとる国のやってきた通貨を安定させるルールを破った、自国内でインフレが起きることを懸念して、金が流入しているにもかかわらず、通貨量を増やさなかった、するとアメリカは金が入ってくるにもかかわらず、アメリカの競争力は落ちず、貿易黒字は増大、金はますます流入した。1923年末に世界の4割の金を保有していたアメリカは、第二次世界大戦後には、7割以上を保有することになった(p117)
・ドイツは1931年に比べて1937年の金の保有量は20分の1になっている、ヒトラーはこれ以上の軍拡はやめて輸出産業を振興して金の保有に努めるか、一か八かの勝負(軍事侵攻)をする選択に迫られた(p122)
・太平洋戦争当時にやった米国の「在米資産凍結」とはアメリカにおいていた金目のものが取り上げるだけにとどまらない、日本が国際貿易から締め出されるのと同じ意味を持っていた、国際貿易を行うのに必要なドルが、資産凍結によってほとんど使えなくなった(p128)
・横浜正金銀行ニューヨーク支店の破綻が決定的になったときに、日本は日米開戦を決断した、この1週間後の11月1日、御前会議により日米開戦が決定した(p135)
・マーシャルプランで米国が気前良くばら撒いた(実質的に90億ドル分の農産物、工業製品を無償提供)のは、戦争終結時にアメリカの輸出は160億ドル(アメリカ輸入はその半分)の大半を占めていた欧州から輸入を続けてもらうため、これが止まればアメリカにも大きなダメージ(失業者)が起きるため(p143)
・1945年、イギリスはアメリカに38億ドルの融資を求めた、その見返りとしてイギリスのブロック経済の解体を求めた、同様にフランスも10億ドル支援を求めて、フランスのブロック経済の解体を求めた、イギリスとフランスは当時の植民地保有の1位と2位であった(p141)
・アメリカの韓国への経済支援は10年以上続いたが韓国に発展をもたらさなかった、支援の大半は、衣料品・食糧・衣類など、戦災国や貧困に喘ぐ途上国を支援するものであったから、韓国としては産業を発展させるような、建設機械・工場設備をしてほしかった(p164)それをやったのが日本(p173)
・アメリカとサウジアラビアの密約、サウジアラビアは石油取引の決済を全てドルで行う、ニューヨーク・マネーセンターバンクの非居住者ドル預金口座を決済口座と指定した、その代わり、アメリカはアラブの王国が他の国や勢力に脅かされた場合には、軍を出動させるというもの(p187)サウジアラビアの石油を独占していたアラムコは、エクソン・モービル・シェブロン・テキサコの合弁企業(p192)
・1988年(ベオグラード宣言によりソ連は東欧諸国に対してこれまでの指導的立場を放棄)以降、ソ連を構成していた15の共和国や自治区が主権を主張し始めた、そして1991年12月、ソ連の中核となる、ロシア・白ロシア(ベルラーシ)ウクライナの3カ国代表が秘密会談を行い、ソ連からの離脱を決定し、ソ連は崩壊した(p241)
・ソ連崩壊により、アメリカの対外政策は一変する、つまり他国に対して強硬な態度を取るようになった、特に日本に対して(p259)日米構造協議もその一例、ここでは、1)日本の貯蓄、投資バランスを改善するために政府が大規模な投資を行う、2)大規模店舗法など流通制度を見直す、3)土地政策を改善する(p261)
・日本では2006年に派遣労働法を改正し、1999年改正で除外となっていた製造業も解禁し、ほとんどの産業で派遣労働が可能となった、これにより1990年代半ばには20%であった非正規雇用の割合が1998年から上昇、現在では40%となっている。これは日本だけの特徴、欧州では20%程度、アメリカでも27%程度(p267)
・今回のウクライナ戦争で世界が大きな誤算をした、1)ウクライナが簡単にロシアに屈服しなかった、2)ロシア経済が簡単に破綻しなかった、ロシアには莫大な資源、農地があり、自給自足ができる(p304)
2022年10月6日読了
2022年10月9日作成