反=恋愛映画論──『花束みたいな恋をした』からホン・サンスまで (ele-king books)

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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784910511221

作品紹介・あらすじ

愛の映画/映画の愛――古典から最新作まで、数々の恋愛映画を縦横に論じた、新時代の恋愛映画論!

無声映画の時代から現在にいたるまで、数知れず制作されてきた恋愛映画。
そこに描かれる恋愛像はさまざまな形で時代が反映されてきました。
理想とされる恋愛観とそれに対するカウンター。ジェンダーにまつわる多様性と当事者性――無声映画時代の名作から最新のヒット作まで、ジャンルを横断して活動する「思考家」と気鋭の「映画執筆家」が縦横に語り合う、新時代の恋愛映画ガイドが登場!

感想・レビュー・書評

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  • 恋愛映画を体系的に語ることで見えてくるものと自分の恋愛映画への向き合い方についても考えました。

  • うーーーん、まぁまぁ。
    わたしが無知なだけかもしれないけど、圧巻されてしまった、圧倒的な知識量に…

    「反」というより、恋愛映画について語った本という感じ?着目点は面白かったし、観たい映画は増えた!

    p.17 「好きな人とは生活上気が合わない。気が合う人は好きになれない」。このセリフがまさに核心をついていると思うのです。坂元的社会においては、本来は、好きな人とは「気が合わない」はずなのに、「花束」の2人は「気が合う」と思い込んで好きになります。趣味が合うと言う事は、気が合うと言う事とは違うのにもかかわらず、です。つまり、実は全く「気が合わない」2人だったんじゃないかと言うこと。私にドロっとした感情が残ったとすれば、おそらくそのせいです。

    p.18 誰かと誰かが恋愛に至る理由があって、どの程度真正なものなのか?と言う問いが、「花束」を見た後に、最終的に残るものなのかもしれません。つまりそこには、趣味の一致が恋愛のトリガーになりえても、永遠の留め金にはならないというか、もっと言えば、本当に価値観や考え方が一致する人なんているのか、それも錯覚の1種のではないかと言う問いが浮かび上がってくる。

    p.66 「ハーフオブイット」は、人が変わることがあるし、変われるし、変わっても良いと言っている映画なんだと思います。これまでのセクシュアリティーをめぐる映画では、僕の印象では「変われなさ」への苦しみが、とりわけ前景化されていたように見えていたんです。でも、この映画は、そうではない開かれた可能性を示している。副題の「面白いのはこれから」は、「これからどうなるのかわからない」と言う意味なんでしょう。

    p.78 恋愛感情をいつまでも味わっていたいと言う要望のループがどこで終わるのかと言うと、それはやっぱり子供だと思うんです。子供が生まれたら恋愛は終わるけど、そこから新たな問題が描かれていく映画は山ほどある。「テイクディスワルツ」は、ミシェル・ウィリアムズが結局妊娠しなかったと言うことが重要なんじゃないか。婚姻と子供を得ることが矢印で結ばれて重要視されているので、そこに断線が走るとドラマが生まれる。こういった映画が今も内外で数多く作られていると思うと、いかに黒沢清が重要かと思い至ります。

    p.121 難病ものと、ジェンダーの問題に関して、キラキラ青春映画全般に言えるのは、難病を背負わされるのは、多くが女性の方だと言う事ですが、それを改めて確認しました。そして、それは、女性に対して「美」や「若さ」が求められてしまうこと、つまり「おいてはいけない」と言う圧力と分かちづらく結びついています。さらに言えば、少女が藤野病を背負わされる一方で、少年の場合は、船の事故や発電によって私がもたらされる事例が多いように感じました。なにがしかのあらがえない「力」に負けてしまう。その辺の性差を掘り下げていても面白いと思います。

    p.257 マギーギレンホールが監督した「ロストドーター」(2021)も、過去に子供を産んだ中年女性が若い母、娘と出会い、子供を置いて家を出てしまった記憶と再び対峙する映画でした。彼女は“ I’m on I’m an unnatural mother.”、日本語訳では「母性がないの」と言いますが、この映画では「個性」が問い直されています。原作小説自体は、2006年に上されていますが、Netflixで配信されたのが、去年の年末で、今こうしてより多くの1部に触れやすい映画として作成されたと言う背景が大事だと思います。ようやくいいづらかったこともいいって言っていこうよ、と言う時代的な空気が醸成されてきたのだと感じます。

    それは映画業界で今起きていることもつながりますよね。多くの人はこれまで口にすることができなかった性加害やハラスメントに対して声を上げていこうと言う風潮はすごく大事ですが、特定の個人がスケープゴートにされて終わりではいけないとも思います。性加害やハラスメントも、構造と歴史の問題だと思います。それを抜本的に変えなければいけないわけで、告発と謝罪が重要であるのと、同時に、システム自体を見直さなければならないと思います。そうでないと、根本的な問題は温存され、隠蔽されるだけです。

  • 「寝ても覚めても」「本気のしるし」を通じての濱口竜介論、深田晃司論とかめっちゃ腑に落ちた。寝ても覚めてもってあんまり得意な映画じゃなかったんだけど、なんかその理由がわかった気がする。

    坂元裕二作品における結婚と離婚
    悪や異常が受け入れられない現代への疑問
    この辺はタイムリーで考えさせられる。

  • ホンサンス作品気になる。
    恋愛映画におけるクリシェ的存在の、キラキラ青春映画について論じられているのが面白かった。邦画の原作ありの作品もみたい。
    ここで言及された色んな映画にアクセスしたくなる。ウォッチリストが溢れるわ〜

  • 【本学OPACへのリンク☟】
    https://opac123.tsuda.ac.jp/opac/volume/711874

  • すごく面白い。ほとんどみたことない映画の話だったけれど着眼点が勉強になるし、男女の恋愛映画の話だけでないところが良かった。

  • 古今東西の恋愛映画を著者2人の対談形式で分析した一冊。時代共に変遷してきた恋愛の描かれ方という縦と同時代・同ジャンルの横を圧巻の知識量と考察量で結び付けてくれる。ホン・サンスの批評的難攻不落っぷりやジャンル軽視ゆえ本格的映画批評の俎上になかなか乗りにくいキラキラ青春映画論など興味深い内容ばかり。個人的には4月に観たレオス・カラックスの『アネット』が全然ハマらなかったのだが、本書の「編集が存在していない」という評に思わず膝を打った(自分は庵野秀明やエドガー・ライトのようなスピーディーでリズミカルな編集の作品が好みなので)ただ、取り上げられた映画の内で配信オリジナル作品が『ハーフ・オブ・イット』『マリッジ・ストーリー』『ロスト・ドーター』の3本だけ、さらにテレビドラマ・テレビシリーズに至ってはほとんど触れられていないのは残念。この配信・ピークTVの時代に「映画」と銘打って本当に劇場映画のことしか話さない批評はさすがに時代錯誤で、それこそ「半=恋愛映画論」だと思う。なので、書いてある内容は星5つ級に大変面白かったけど、語るべき対象が半分ごっそり抜け落ちてしまっているという意味で星3つ。

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著者プロフィール

映画文筆家。共著に『反=恋愛映画論——『花束みたいな恋をした』からホン・サンスまで』(ele-king books、2022年)、『「百合映画」完全ガイド』(星海社新書、2020年)、分担執筆に『ロウ・イエ 作家主義』(A PEOPLE、2023年)、『デヴィッド・クローネンバーグ 進化と倒錯のメタフィジックス』(ele-king books、2023年)、『フィルムメーカーズ24 ホン・サンス』(宮帯出版社、2023年)、『ジャン=リュック・ゴダールの革命』(ele-king books、2023年)、『韓国女性映画 わたしたちの物語』(河出書房新社、2022年)、『アニエス・ヴァルダ——愛と記憶のシネアスト (ドキュメンタリー叢書)』(neoneo編集室、2021年)、『岩井俊二 『Love Letter』から『ラストレター』、そして『チィファの手紙』へ』(河出書房新社、2020年)、『フィルムメーカーズ21 ジャン=リュック・ゴダール』(宮帯出版社、2020年)など多数。『朝日新聞』、『キネマ旬報』、『文藝』、『ユリイカ』、『文學界』などに寄稿。

「2023年 『彼女たちのまなざし 日本映画の女性作家』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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