クトゥルー 4 (暗黒神話大系シリーズ)

制作 : 大瀧 啓裕 
  • 青心社
3.54
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本棚登録 : 131
感想 : 5
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  • Amazon.co.jp ・本 (331ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784915333552

作品紹介・あらすじ

狂気の詩人が遺した奇怪な詩。その中に述べられている永劫の歳月を経た黒い石碑の恐怖を描く「黒い石」。ミスカトニック大学の教授達を訪れた"私"が見た1960年代のアーカムの変貌ぶりを語る「アーカムそして星の世界へ」。1世紀に1度、キングスポートで執り行なわれるという伝承の祝祭を凄絶に描写したラヴクラフトの「魔宴」等、外宇宙の闇の恐怖を描いて、ますます佳境に入るクトゥルー神話連作集成。

感想・レビュー・書評

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  •  クトゥルー神話のストーリーは大きく3つに大別されます。

     ラヴクラフトらに代表される「恐怖(FEAR)」を主軸としたもの。
     スミスらに代表される「幻想(FANTASY)」を主軸としたもの。
     ダーレスらに代表される「冒険(ADVENTURE)」を主軸としたもの。

     それぞれに個性がありますが、それぞれに共通していて最も重要な要素が「名状しがたい存在と人間の邂逅」です。
     それは超常的で神話的な存在であったり、外宇宙や異次元からの来訪者であったり、製作者の正気を疑うような書物やアイテムであったり。その邂逅が人間にどのような影響を与え、どのような結末を与えるのか。そしてそれをどう描写するかが、作者の腕の見せ所になるのです。
     4集はネクロノミコンが登場するラヴクラフトの2篇を始め、スミスが創作した異形の存在が登場する作品など11篇が収録されています。
    ---------------------------------------------------------
    『魔犬』(ラヴクラフト/1922)
     遊びで墓荒らしをするわたし達は、オランダで暴いた墓から奇妙な造形の魔除けを奪ったのだが――。
    (犬の吠え声や唸り声、翼のはためく音、ぼんやりとした黒い雲のようなもの、そして再生する死体――。全てが判然としないまま終わるのがラヴクラフトらしい。クトゥルー神話の要素は薄いが、ネクロノミコンの著者がアブドゥル・アルハザードであることを初めて明確にした点で象徴的な作品。)

    『魔宴』(ラヴクラフト/1923)
     先祖の取り決めに従い、古都へやってきたわたし。怪しげな老人に導かれて古びた教会に入っていくと――。
    (先の『魔犬』同様にクトゥルー神話の要素は薄いが、カルト、異形の生物、魔導書、と神話の原型を思わせる内容となっている。最後まで老人の指示に従っていたら、どうなっていたのだろうかと想像するとぞくぞくする。)

    『ウボ=サスラ』(スミス/1933)
     骨董店で乳白色の水晶球を見つけたポール。店主の説明から過去に読んだエイボンの書のくだりを思い出し、結局店主の言い値で購入する。自室で水晶球を見つめていると、やがて夢を見ているような不思議な感覚に囚われ始め――。
    (神話において好奇心と探究心は常に我が身を滅ぼす要素となる。対象にのめり込みすぎて客観的視野を見失った研究者を皮肉ったような内容で、スミス独特のユーモアがある。)

    『奇形』(ブロック/1937)
     静養するために訪れた地でわたしは、特異な文才を発揮していた友人のサイモンに偶然にも再会する。挨拶もそこそこに立ち去るサイモンの後ろ姿を見てわたしは目を瞠った。彼の左肩甲骨の下には肉瘤があるのだが、それが初めて会った時の倍の大きさにまで成長していたのだ。心配したわたしは周囲で彼について聞き込みをすると、返ってきたのは彼の奇矯な言動に関するもので――。
    (奇形の発生というテーマに魔術・妖術という要素を添加したホラー。原題の「mannikin」が作品の重要な要素というかネタバレになっているので、ぜひ和訳を見てほしい。)

    『風に乗りて歩むもの』(ダーレス/1933)
     七ヶ月前に失踪した警官の遺体が発見される。その警官は一年前に、天から人が落ちてくるという不可思議な死亡事件の当事者だった――。
    (イタカ物語群の一。この作品ではその名は出てこないが、その特徴と恐ろしさが十二分に描写されており、読み応えのある一篇。)

    『七つの呪い』(スミス/1934)
     豪胆な男であるヴーズは狩りの途中で、たまたま妖術師の儀式を邪魔してしまう。妖術師に邪神ツァトゥグァの生贄になる呪いをかけられるが、たまたま満腹だったツァトゥグァは別の邪神の生贄になる新たな呪いをかけて彼を追い返す。そうして七度呪いをかけられてたらい回しにされたヴーズが迎える結末とは――?
    (自身の勇猛さが仇となり、散々たらい回しにされた挙げ句に意外な最期を遂げるという、人間は神々にとっても人でない種族にとってもどうでもいい存在であると言外に匂わせるような、スミス独特の皮肉めいたユーモアが光る作品。)

    『黒い石』(ハワード/1931)
     近づくものは狂気に陥るという黒い碑の存在を知ったわたしは現地に向かう。夜中、密かに碑に近づいたわたしは眠気に襲われ、悍ましい悪夢を見てしまう――。
    (邪教徒による魔宴の描写が秀逸。黒い石の設定が、TRPGのシナリオに利用しやすそうな汎用性の高さ。)

    『闇に棲みつくもの』(ダーレス/1944)
     ウィスコンシン州にある湖の伝説を調査していた大学教授が失踪する。助手だったレアードと請われて同行することになったわたしは、教授を捜索するために現地に向かう。その晩、わたしたちは聞いてしまう。薄気味悪いフルートのような旋律、そして地獄のような凄絶な遠吠えを――。
    (ダーレス渾身の一作。クトゥグア、ナイアルラトホテップの化身である夜に吠えるもの、そして人間の姿をしたナイアルラトホテップが人間と対峙し、そして变化していく描写は読み応えがあるだけでなく、TRPGシナリオに使えそうなほど強いインパクトがある。)

    『石像の恐怖』(ヒールド&ラヴクラフト/1932)
     友人が消息を絶った地で、非常に精緻な犬と人の石像が発見される。友人が彫刻家であったことから、その報を知ったわたしとベンはその地へと赴くと、更に二体の石像を発見して――。
    (ヒールドの草稿を元にラヴクラフトが代作(その人に代わって作品をつくること)した作品。犯人が相手を殺害する手段として「石化」を用いるのだが、魔術の行使でも神話生物の召喚でもなく、化学(もちろん虚構)の力でタンパク質を石化する薬品を調合するというマッド・サイエンティストもの。このネタ、「神話生物の仕業と見せかけて」というミスディレクションでTRPGに使えそう。)

    『異次元の影』(ラヴクラフト&ダーレス/1957)
     精神分析医であるコーリイの元に、有る種の恐ろしい幻覚に悩まされているという患者が訪れる。三週間後に突如彼は正気に戻るのだが、その二日後に彼の診療記録が盗まれてしまう――。
    (ラヴクラフトの『時間からの影』をダーレス流にリメイク。大いなる種族をダーレスが体系化した旧神と旧支配者の敵対関係という図式に取り込んだ内容だが、結果、大いなる種族を矮小化してしまった感が否めない。)

    『アーカムそして星の世界へ』(ライバー/1966)
     時代は1960年代。ミスカトニック大学を訪問した私を迎えてくれたのは、ウィルマース教授やダイアー教授など、小説として発表されることで世間から注目されることなく歴史の影に隠され続けた"事件"の関係者たちだった。"彼"の作品を読んで抱いた疑問を口にした私にウィルマース教授が返した回答、そして共犯者である"彼"に贈られた驚愕のプレゼントとは――?
    (ラヴクラフトとクトゥルー神話に対する強い敬愛を感じさせるオマージュ作品。神話生物が人類の味方になる可能性を描写している点で、TRPGシナリオ作成の参考になるかもしれない。1960年代の時勢を絡めているので当時のアメリカの情勢を事前知識として覚えておくと、よりこの物語を楽しめるだろう。)
    (関連作品:『宇宙からの色』『ダニッチの怪』『闇に囁くもの』『狂気の山脈にて』『魔女の家の夢』『戸口にあらわれたもの』『時間からの影』)

  • クトゥルー神話は、読みづらい作品が多いけど、今回は比較的に読みやすかった。
    段々と読み方のコツのようなものが、分かって来たのかな。

  • ンガイの森をクトゥグァの召喚によって焼き払いニャルラトホテプを撃退する「闇に棲むもの」を読みたくて購入。期待しすぎた感じはある。イグものの「七つの呪い」、名前そのまんまの「風に乗りて歩むもの」、ラヴクラフト作品の後日談めいている「アーカムそして星の世界へ」などを収録。一気に読まなかったためにほとんど感想を忘れている中、「ウボ=サスラ」の語り手が辿った根源への退化は印象に残っている。ラヴクラフトの「魔犬」「魔宴」は再読なのだが、詩的な文章が趣深かった。大瀧氏によるラヴクラフト作品の地名についての解説も面白い。インスマス面の元ネタが十八世紀末にニューベリイポートを襲った天然痘と通底しているなどの裏設定が紹介されていて、ラヴクラフティアンが避けそうな本なのにどちらかというと彼ら向けのネタを提供している。

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