樹村みのり作品集 (子ども編) 悪い子

著者 :
  • ヘルスワーク協会
4.33
  • (2)
  • (0)
  • (1)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 21
感想 : 3
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・マンガ (344ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784938844073

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 心が弱くなる日がある。
    なんだか気が重い。
    私なんか生きていてもしようがないんじゃないか…。
    いつもなら藤子不二雄のことを考えているだけで
    幸せになれるのに、それもつまらない。
    特になにがあったわけでもないのに……。

    そんな時には樹村みのり。

    「病気の日ってステキな日………
     だってふつうの日ではわからないことが
     わかっちゃうんだもの…」

    という独白が印象的な「病気の日」を読んでみまます。
    病気の日がすてきな理由を次々に挙げる女の子。
    好きな時間まで眠っていられる、
    簡単に学校を休めちゃう……と、
    だれにでも「わかるわかる!」と言われそうな
    理由から始まって、
    いつもいじわるしている、うしろの席の沢本くんが
    花を持ってきてくれた、という
    この女の子の弱さを感じさせる理由を挙げ、
    そして、太陽の光を浴びる。

    この光に包まれているコマの美しいこと!
    子供の幸せそうなこと!

    「この午前中の光のかけらをとっておけたらな…
     そしたらたくさんたくさん集めて箱にいれてね……
     大きくなったら旅をして……
     泣いている人の髪に飾ってあげるの」

    うう、うう、ううううう!!! 
    かたくなになっていた私の心が、
    すうっとすうっと、溶かされていきました。
    終り際がまた切ない。

    「病気の日ってステキな日…
     だってお父さんとお母さんが
     とってもなかよしに見えるんだもの………」

    ああ、この子を絶対に不幸にしてはいけない!
    強い決意を覚えました。
    私も生きよう。風と光を感じて、幸せに……。

    新しく命を吹き込まれた私は、
    安らかな気持ちで眠りにつきました。

    次の朝。
    ああいい気持ち!
    昨日の憂鬱がうそのようです。
    もう一度『樹村みのり著作集〔子ども編〕悪い子』
    を読み進めてみました。

    迫害された兄妹の話「海へ」。
    ……あれ?
    病気の少女の願いをかなえる「冬の花火」。
    あれあれ?

    全然心に響いてこない。

    樹村みのりは子供を純真で、けがれのないものとして
    描いているように見える。
    そうかあ? 子供って汚いぞ。もっとずるいもんだぞ。
    藤子不二雄だったらこうは描かない。
    こんなの「赤い鳥」の時代の童心主義じゃないか。
    やっぱり過去の人なのかね。

    と思って本を閉じた私。
    そのときふっと気づいたのです。
    ああ、樹村みのりはこうして捨てられるんだな、と。

    弱くなったときだけ彼女を利用し、
    強くなったらもう用済み。
    「古いよね、あんなの」
    それでいいのか?

    樹村みのり。1949年、昭和24年生れ。
    そう、あの輝かしい24年組の一人。
    70年代のスターだった。
    でも今、本屋で彼女の本が買えるでしょうか。
    萩尾望都や山岸涼子は現役なのに……。

    私が手にとっている著作集は、
    ヘルスワーク協会というところが出版元です。
    どうやらアダルトチルドレンの問題などを
    扱っているところらしい。
    それはそれで立派な仕事なんだろうと思います。
    でも……一種の社会運動としてだけ
    彼女の作品が評価されるのは惜しい。

    私が、ああ、樹村みのりだなあ、
    と感じるのは光と風です。
    光を浴び、風を受けるときの子供の笑顔。
    すぐにでも消え去ってしまいそうな、一瞬の幸福。
    光と風を描いた作家として、
    私は樹村みのりを覚えていたいのです。

    再び、本を開いてみます。
    巻末の二編、どちらも百ページ近くある
    「翼のない鳥」と「悪い子」が抜群にいい。

    「翼のない鳥」は鳥になることを夢見る少年が
    ヒッピーや労働争議に参加しては挫折する物語。
    こう書くとなんだか『ファイヤー!』みたいで、
    水野英子の影響力に改めて驚かされます。
    主人公がずっとずっと純な顔をしているのがいい。
    挫折しても理想を失わず、最後には自分が
    「偶然のあずかりもののように生きている」
    ことを実感するあたりはさすがの説得力。
    この時、彼もまた光を浴びているのです。

    「悪い子」は娘の友達を悪い子だと決めつけた母親が
    逆にその女の子を傷つけていたことに気づく話……
    と要約すると実に型にはまっているようで、
    「結局子供が善で大人が悪かよ」
    と言われても仕方ないのですが、
    これじゃ「悪い子」と誤解しても無理ないな、
    と思える状況をうまく作っているので、
    論文を読まされているような気にはなりません。
    ああ、思春期を抜け出したんだなあ、この人も……。

    作者は巻頭で、興味深い発言をしています。
    70年代、自分は子供というとまず
    男の子をイメージしたというのです。

    「わたしが子どもの頃接した文化では、人生に傷ついたり、
    悩んだり考えたり反抗したりする「子ども」は、
    「男の子」として表現されるのが普通だったからでしょう。
    私の「子どものイメージ」は、
    社会一般のイメージに侵食されていたのです」

    竹宮恵子や大島弓子と違って
    少年愛を描かなかった樹村みのりですが、
    女の子であることの居心地の悪さから戦ってきた彼女は
    やっぱり24年組の一人だったのだと思いました。

    2010年12月4日記

  • 希望コミックス。ヤフオク200円。

全3件中 1 - 3件を表示

著者プロフィール

漫画家

「2019年 『女性学・男性学(第3版)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

樹村みのりの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×