孤独な鳥はやさしくうたう

著者 :
  • 旅行人
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感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (262ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784947702623

感想・レビュー・書評

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  • また、旅に出たくなった。そこで出会う人や出来事、風景は、自分を少し変えてくれる。この人の旅は、強烈。自分の旅は、ゆるやか。コロナで、海外は、無理。さてさて何処に行こうか。

  • 読みやすくてワクワクする文体。言葉の選び方に個性があると思う。好き。

  • 厳密に言えば、「旅行」と「旅」とは似て非なるものだろう。「旅行」はどこに行くか、何をするか、何を観るかという目的が明確であり、また、往々にしてタイムスケジュールも正確に定められているものだ。旅行において、目的地までの移動は、そこに行くための手段であるにすぎない。

    他方、「旅」は目的地が明確なわけではない。仮に目的地が定められている場合でも、その場の気分で目的地はすぐに変わってしまう。また、旅は旅行ほどに効率の良さを求めない。旅行においては忌むべきものである停滞、逡巡、彷徨、迷走は、旅においては価値があり、歓迎されるべき非効率な道程である。

    旅行は必然で張り巡らされているが、旅は偶然に満ちている。そして、そうした偶然との邂逅が多ければ多いほど、旅は実り豊かなものになる。

    前置きが長くなったが、田中真知さんの本書はそんな旅の魅力を伝える旅物語、エッセイである。

    たとえどれほど貴重な経験をしていても、観察力、知識、感性、文才が乏しければ、旅の記録はつまらないものになってしまうが、本書では、不思議で、驚きに溢れた経験が、著者の優れた文才で見事に表現されている。

    開高健の『オーパ!』を読んだ時と同じくらい、旅への衝動にかられた本だった。(実際に旅に出たことはないが。)旅好きは読むべき。

  • 現在の奥様との馴れ初めを書いた"追いかけてバルセロナ"がすきです。
    すてきな恋だ。

  • 「旅行人」という旅のミニコミ誌に書かれたエッセイがまとめられた本です。翻訳家である作者の知性が感じられ、文章が繊細で美しい。
    旅先の出来事、旅で出会った人たち。どの話もとても興味深く読みました。とてもおもしろいです。
    以下こころに残ったたくさんの文章の中から抜粋。 

    トルコのバスの中で、男とイヤホンを分け合ってデヴィッド・ボウイを聴いたあの夕暮れを思い出す。あのとき徐々に彼に親近感をおぼえていったのは、あるいは、イヤホンの細いコードを通して、彼が抱えている闇が自分の中に流れ込んできたからなのかもしれない。 

    地中海の島の魅力は風にある。あらゆる地上的な重さから解放された、軽く、かわいた、形而上的な輝かしさすらおぼえる風に、地中海の島は祝福されている。

    [キンシャサのパワーと混沌、闇と光りに魅せられた日本人のせりふ(を借りた作者の気持ちだと思う)]

     日本?日本の話なんかしたくないな。あの国では、ふつうに暮らしているだけで、数え切れない脅迫にさらされている気がしてくるんだ。事故にあったらどうする?病気になったらどうする?子どもの教育は?仕事は?老後の備えは? 要するに、あの国では、自分がいまここに在るというだけでは、存在していることにならないんだな。いまここにない非現実的な危険や困難を想定して、おびただしい予防線を張らないと安心できないんだ。ばかげた幻想さ。だって、いまここに生きていることがリアルでなくって、実体のない不安や恐怖の方がリアルだなんて、変だと思わないかい?

  • コアな旅行雑誌「旅行人」に連載されていた旅のエッセイ集。
    語られる土地はトルコやスペインからモロッコ、コンゴと様々で、思い出として語られものも多く、二十年も前のエピソードもある。
    著者の、土地に対する距離感が好きだなと思った。選ばれる言葉も、美しいのに感傷的には響かない。
    主観で押してくる旅の話は苦手だけど、この本では、アル中だった父親との軋轢や奥さんとの馴れ初めなど、かなり個人的なことが書いてあるのに、鼻につかない。
    旅は個人的なもので、それを主観で語るのは野暮だと思っている、そんな風に感じられる。
    人生の大部分が旅になる、そんな生き方はできないけれど、だからこそ憧れる。

    あの国では、ふつうに暮らしているだけで、数え切れない脅迫にさらされている気がしてくるんだ。/要するに、あの国では、自分がいまここに在るというだけでは、存在していることにならないんだな。/だって、いまここに生きていることがリアルでなくって、実体のない不安や恐怖のほうがリアルだなんて、変だと思わないかい?

    「キンシャサ!」の章に出てくる男を通して語られる日本についての言葉がすとんと胸に落ちた。
    旅をするって視点を新たに得ることだと思う。

  • 翻訳家である田中氏が12年間に旅行人へ寄せたエッセイをまとめたもの。 恥ずかしながら田中真知という人の本を読んだことが無かった。 深く後悔… 世界中をバックパック担いで旅している若者は今も昔もたくさんいる。 近年では様々な事件に巻き込まれ「自己責任」という言葉で肩身の狭い思いもしているかもしれない。 彼らがなぜ世界を旅するのか。 何を求めて何のために旅をするのか。 その答えはどこにもみつけられないけれど、その旅のひとつひとつにはやはり意味があるのであって、無駄な旅なんてひとつもないんだ、と、そんな気になる。 田中氏の旅も、何かを求めてとか何かのためにとかそういう大儀を必要としない、ただ風のように 水のように そこにいる そんな旅の仕方である。 色んな国で、色んな町で、誰かと出会い、言葉ではないなにかを渡し渡され繋がっていく。そんな旅の思い出が、無駄のない文章でつづられている。 なんだろう、この心のうずきは。 旅そのものよりも、そこで起こっていた何か、そこで田中氏の心に浮かんだ何かに心を惹かれる。 簡潔でそれでいて目の前に情景が浮かぶようなそんな美しい文章を堪能して欲しい。 特に「第2章 追いかけてバルセロナ」は必読。 “恋”ってこういう風に始まるんだ と頬が緩む。

  •  旅行人さん遅いよ。 やっと旅エッセイの名作が出版された(私も気付くのが遅れた)。 田中真知の文章を意識するようになったのは、旅と異文化の雑誌『旅行人』1997年5月に載った「バルセロナのストーカー」というちょっと長めの旅エッセイを読んでからだ。 旅先で知り合った気になる女の子のために自分の予定をキャンセルし、彼女と再会すべく作戦を企て実行する話。 著者には申し訳ないが、この話の印象が強いので、「たなかまち」 変換 「バルセロナのストーカー」と、私には辞書登録されている。 いやー、あるよね、青年時代には誰にもこういうこと。『ハチミツとクローバー』の真山だってそうだし、私も冬の北海道・網走で知り合った女の子とまた会うべく稚内行きの列車に乗り込み…。えっ、ないっすか。変すか。 とにかく田中真知のエッセイは、どれもよくできた小説を読んでいるようだ。 しかも、この本に収録された「追いかけてバルセロナ」(改題された)と表題作「孤独な鳥はやさしくうたう」とでは、読み心地かまったく異なる。 青春小説と純文学小説、さらに「父はポルトガルへ行った」は私小説(エッセイをこう呼ぶのも変だが)、と分けたらよいのか。 基本は静かな筆致でいくつもの旅、人が語られる。 一つの旅を出発から細かく順を追って記していくスタイルではない。 旅に出てぇー、という強烈な衝動は起こらないかもしれないが、旅はいいな、と感じることができる。 著者のあとがきでの言葉が印象深い。「今は旅にとって幸福な時代ではないかもしれない」と述べたあとに、こう続く。「でも、だとしても、旅をあきらめてはいけないと思う」 時間がたってから見えてくるものがあるという。 それって、本も同じかなあ。

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著者プロフィール

作家。あひる商会CEO。

「2023年 『高校生と考える 21世紀の突破口』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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