ゴーストライダー(?)特別出演。
コーエン兄弟による誘拐サスペンス映画。原題は『Rising Arizona』。邦題が酷い映画の中でも群を抜いている。
米サイトBuzzfeedが選んだ「25歳になるまでに見るべき映画25本」の中の一本なので見たが、結構面白かった。以前見た同じコーエン兄弟制作の『ファーゴ』よりも面白かった。
あらすじ
主人公のハイ・マクダノーはスーパー強盗の常習犯。マグショットの撮影の際に出会った警察官、エドウィーナと恋に落ち結婚するが、エドは不妊症だった。失意の中、ネイサン・アリゾナに五つ子が生まれたという報道を見て、「一人くらいなら構わないだろう」と赤ん坊の一人を誘拐する。
赤ん坊の登場でハイたちの生活は一変する。エドは赤ん坊のことで神経質になり、脱獄したばかりのハイの友人たちグレンとトッドへの対応も刺々しい。ハイの会社の上司、ゲイル・スナーツの妻、エヴェルのヒステリックな助言にも感化される。赤ん坊を育てる不安とストレスで参ってしまったハイに、追い打ちをかけるようにゲイルは不道徳な交際を持ちかける。ハイは怒りのあまり、ゲイルを殴ってしまう。その夜、グレンたちはハイを銀行強盗の誘う。己の情けなさと家族への責任感から、ハイは強盗への加担を決意する。一方その頃、赤ん坊を探すネイサンは、レオナルド・スモールと名乗る怪しげなハンターから取引を持ちかけられる。多額の賞金の代わりに赤ん坊を奪還するという申し出とは裏腹に、取引を拒否すれば赤ん坊を売り飛ばすという狡猾な要求であった。強盗の決行日、ゲイルはハイの自宅を訪れ、赤ん坊の正体が誘拐されたネイサンの息子であること理由にハイを恐喝する。だが恐喝の一部始終を聞いていたグレンたちは、赤ん坊をハイから奪い、強盗に向かう。強盗には成功したグレンたちだが、赤ん坊を現場に置き忘れるという致命的なミスを犯す。銀行に到着したハイ夫婦は、赤ん坊を奪還しに来たレオナルドと遭遇し、対決する。
ハイの機転でレオナルドは爆発四散し死亡する。ハイ夫婦は赤ん坊をネイサンの自宅に戻す。自分たちが誘拐犯であることを見抜かれたハイ夫婦は、誘拐の動機と離婚をすることを告げる。ネイサンは赤ん坊を返してくれた二人を元気づける。ハイはその夜、自らの未来を暗示するような奇妙な夢を見るのだった。
ハイが子育てに不安を覚えていく様は絶妙で面白かった。妻であるエドとの温度差や、暴れまわる子どものたちの無法っぷりに辟易とする様も伝わってくる。母親は出産する過程で親として苦労が描写されることが多いが、現実的には母親に変わってしまった妻との温度差や、自分や家族の将来への不安に苛まれる夫側も親としての苦労を強いられるのだ。出産という過程を経ずにエドの行き場のない母性を巧みに活かして主人公の不安を煽る脚本は、非常に巧みだった。サスペンスを演出しながら、赤ん坊を抱えたファミリーの物語としても成立している。子育ては大変だと良く言われるが、実際には赤ん坊とのコミュニケーション以外にも、経済状態や夫婦の足並みなど、気を付けるべき点は他にも多い。このような問題をかつては祖父母のサポートによって切り抜けることができたのだろうが、核家族、母子家庭、父子家庭が増えていく現代では、行政などの別のメンターが必要不可欠であることは疑い得ない。”誰が見張りを見張るのか?”は『女性への警告』の一節だ。この一説に準えれば、”誰が教育者を教育するのか?”。
キャラクターはそれぞれ個性的でよくできている。だが『ファーゴ』でも妊婦の女性刑事が探偵役だったように、この映画でも風変わりな人物、ゴーストライダーのようなアウトローが探偵役を務めている。カッコイイにはカッコイイのだが、現実世界から乖離し過ぎていて浮いていたのが残念だった。
世界観はアウトローに半ば片足を突っ込みつつも、誰もが悩まされる日常の煩雑さを描けていて良かった。非現実的なサスペンスの世界と、現実的な日常の出来事の親和性が非常に高かった。ただサスペンスの世界に関してはギャグに頼っている面も多々あった。
総合的に見て面白くて興味深い映画だった。大人の日常と非日常を現実的な世界観で描いた作品としては、高いクオリティを誇っている。
キャラクター:☆☆☆☆
ストーリー :☆☆☆☆
世界観 :☆☆☆☆
テーマ :☆☆☆☆
映像 :☆☆☆
台詞 :☆☆☆